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ep.7 魔導書と出会い

魔域の外に出るとまだ昼にはなっていないころだった。

 あれ、まだ昼にもなってないか。まぁ一旦換金に行くか。


少し早い時間なだけあって集会所はいつもより人が少ない。


「よいしょ。換金お願いします」


袋をカウンターに乗せカードも一緒に出す。


「はい。では失礼します」


受付嬢はカウンターに袋の中身を出し検める。


「ふんふん…あ、これは”焼石蜥蜴(やきいしとかげ)”の討伐品、灰鱗(はいりん)のローブですね。ではヌシの討伐を確認したのでランクアップいたしますね」


カードが銀色に変化する。


「Cランク昇格おめでとうございます。Cランク魔域〔炎熱の坑道〕は南門を抜けて道なりに進んだ先にございます」


 炎熱の…火を扱う魔物が出るのか?それとも暑いとか?


「それと、今回の報酬は小銀貨3枚と大銅貨4枚、小銅貨6枚となります」


カードと報酬を受け取る。

 ヌシ分があるとはいえ相当貰えるな…魔大樹分の余裕もあるし、そろそろアレ買いに行くか。


「ありがとうございました」


颯爽と受付を後にして魔導書店に向かう。


相変わらず魔導書店は人気がないようでほとんど人が居ない。

 お、あの人この前話してくれた人だ。


「すみません。魔導書を買いに来ました」


受付で読書をしている男性に声を掛ける。男性は本を閉じてこちらに向き直る。


「どうも、また来てくださいましたね。ご希望は何かございますか?」


「希望は特になくて…大銀貨2枚までのものって何がありますか?」


 ほぼ全財産だけど魔導書にだったら惜しくない。


「でしたら……こちらに挙げたものが予算内のものになります」


男性は紙を取り出し手早くリストアップして見せる。



・『飲み物を綺麗に注ぐ魔法』

・『爪を綺麗にする魔法』

・『足の小指を強化する魔法』

・『手汗を止める魔法』

・『服を温める魔法』

・『油跳ねがしなくなる魔法』

・『埃を取る魔法』

・『自然魔法:序』



「一番下が大銀貨2枚、その一つ上のものが小銀貨5枚、それ以外は小銀貨2枚となっております」


「うーん…」


 どれも欲しくて迷うな。


「一番下のはどういったものなんですか?」


「これは火、水、風の基本を習得できるものですね」


「ふむ…」


 じゃあ要らないかもな…


「…予算外のものはどんなのがありますか?すみません気になってしまって…」


「『畑魔法』と『草魔法』というものがあります。それぞれ小金貨3枚、小金貨5枚となっております」


 たっっけぇ…すごい気になるけど無理だ。


「高いですね…」


「ええ、どちらも高ランク出魔品であり、とても強力、便利な魔法ですから」


「なるほど…」


 自然魔法のやつ以外全部で小銀貨17枚か…少し残るし買っちゃおう。


「じゃあこの『自然魔法:序』以外全部下さい」


「え…あ、ああ、すみません。こちらの7つですね。お持ちいたしますので少々お待ちください」


男性は驚きを隠せない様子だったがすぐに裏へ魔導書を取りに行った。

 (ひっさ)しぶりの魔導書…それも自分で買うなんてなんか嬉しいな。


「お待たせしました。全部合わせて大銀貨1枚と小銀貨7枚になります」


「はい」


「丁度、お預かりいたします。では、他の人に盗み見されないようお気をつけください」


「ありがとうございます」


 ついに魔導書が読める!

魔導書を袋にしまって魔導書店を後にし、早歩きで宿へと戻る。


ベッドの上に魔導書を広げ、その前に座る。


「どれから読もうかな~…『爪を綺麗にする魔法』からいくか!」


表紙には魔導書店の人が貼ったと思われる『爪を綺麗にする魔法』と書かれた紙があり、それをめくると『ネイリング』と書かれている。

魔導書を開いて読んでいく。中には複雑な理論が書かれていて、それに目を通していく。

読み終えると頭の中に使い方が浮かんでくるようになり、魔導書は魔素となって霧散していった。


「よし…『ネイリング』」


両手を前に出して唱えると爪が整っていく。


「おぉ~ツヤまであってすごいな!魔導書の魔法ってやっぱ良いなぁ…なんとなく出来ちゃうってのが面白い!ん~次は…これだな」


興奮冷めやらぬまま魔導書を次から次へと読み漁る。


「…ふぅ読み終わったぁ。じゃあどうしようかな…まずは小指のやつからやってみるか。『小指防護(しょうしぼうご)』」


足の小指が守られているのを感じる。さっそく故意に角にぶつけてみるが、ぶつかった感覚はあっても痛みは全くない。


「おぉ~いいね。次は、『(あった)か服』」


着ているシャツに手を当てて唱えるとじんわりと温かくなる。


「おぉ~冬の間とかすごい助かるな。あの冷たい服を着なくて済むって考えたら最高だ」


冬の時期、湯浴びの前に暖炉の近くに服を置いて温めておいたのを思い出す。


「ん~他は今は使えないかな。『飛沫(しぶか)ぬ』もコップがないし、この部屋よく見たら埃一つないし…ましてや油なんて無い。試したかったけどしょうがないか。あと手汗…っていうか普通に汗が…」


気付けば暑くて汗をかいていたので井戸の間に汗を流しに行く。


「寒くないのに『温か服』(この魔法)使うのはダメだな。反対の冷やす魔法でもあれば調節が効きそうだけど…」


温かいままのシャツを脱ぎ、井戸の淵に引っ掛ける。


「『水塊(すいかい)』」


頭上に魔法で水の塊を作り、自分に落として豪快に水浴びをする。


「ぷはっ、やっぱ暑くなったらこれだな」


 ところでシャツは…

水を浴びたシャツは濡れているのに温かい。


「うわっ濡れてるのにあったかいって気持ち悪いんだな…」


シャツを絞っていると扉が開いた音がする。


「ん?」


振り返るとそこには扉を開けたまま固まるローブを着た美少女が居た。


「しっ、失礼しました!」


上半身裸の自分を見て少女は勢いよく扉を閉めていった。

 …可愛かったな。


「『乾燥』」


濡れた体と服を魔法で乾かして着る。

 まだあったかいままだ…効果が長いな。


「部屋に戻ったら着替えるか」


今度は勢いよく扉が開き、長剣を携えたスラっとした男性が入ってきた。


「あなた、お嬢様に何かしましたか?」


男性は鋭い目つきで刺すような視線を向けてくる。

 お嬢様?さっきの子か?


「いや何も…水浴びしてただけです」


「…そうですか。失礼しました」


男性は去っていった。

 こわぁ…何だったんだ…

一旦シャツを着て部屋に戻る。別のシャツに着替え、準備をして魔域へ向かおうとしたところで受付に声を掛けられた。


「アインさん、明日以降も泊まっていかれますか?」


 そっか今日で三日目か。


「はい、泊まります。日数は…」


 どうしようかな…Cランクも制覇出来たらBランクの魔域があるところに行くつもりだし…でもCランクにどれくらい時間かかるか分かんないし…


「…お決まりにならないようでしたら後から日数分お支払いいただく形にしましょうか?」


「いいんですか?」


「ええ。夫もあなたのことを気に入ってるみたいですし」


「夫?」


「私、ベールズの妻ですの」


 !あの豪快なベールズさんとは反対に落ち着いた人だから意外だ。


「そうだったんですね。お世話になってます」


「うふふ。じゃあ日数はこちらで控えておくので、この街から出るときに言ってください」


「ありがとうございます」


宿を出て探索前の腹ごしらえをする。熊の背にはコップがあるのでさっそく魔法を試す。


「『飛沫(しぶか)ぬ』」


コップに魔法をかける。見た目には変化がないがさっそく少し勢いよく水を注いでみる。普通なら少し溢すくらいの勢いで注いだが水の飛沫が立つことすらなく静かに注がれる。


「おぉ~…」


 水の動きが不自然で奇妙に感じるな…面白い!



食べ終わりにベールズが勘定にやって来る。お代を渡すついでに奥さんの話をしてみる。


「ベールズさん、結婚してたんですね」


「ん、お前エリルーアのとこに泊まってんのか。夫婦共々よろしくな!」


「よろしくって…お世話になってるのは俺の方ですよ」


「フハッ、確かにそうだな!ところで、今ランクいくつだ?」


「ついさっきCランクになったところです」


「うむ、やっぱり俺の目は間違ってなかったな!んで、さっきなったってことはこの後〔炎熱の坑道〕にそのナリで行くつもりか?」


「そのナリ…ってことはやっぱり暑いんですね」


 暑さなら霧を纏えばどうにかなるけど…


「まぁアインなら大丈夫かもしれんが対策装備はあった方がいいだろう。焼石蜥蜴は倒せるんだろ?」


「ああ、あのローブが対策に良いってことですね?」


「その通り。あれは耐火、断熱性に優れてるからな。坑道の魔物、環境ともに相性がいい。あると安心だ」


 着るだけでいいならそっちのが良いか。換金しなけりゃ良かったな…まぁいっか。


「分かりました。じゃあもう一回〔濡れ森〕に行って取ってきます」


荷物を持って立ち上がる。


「おう!いってらっしゃい!」


ベールズはアインの背中を叩いて送り出す。


()っつ…いってきます」

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