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ep.6 Dランク魔域〔濡れ森〕

今日も朝ご飯を熊の背で済まし、ベールズにDランク魔域のことを少し聞いた。

 名前は〔()(もり)〕…ベールズさん曰く大したことはないらしい。でも…

同じ道を歩く人はみんな少なからず何かしら防具を着ている。

 不安になってきたな…魔大樹がCランク相当だったからDくらいは大丈夫だと思うけど…


〔濡れ森〕の門は〔雑木林〕のものほど大きくなく、人が三人並んで入れるかどうかぐらいだった。

 父さんが間引きに行ってたのと同じくらいの大きさだな。


中は雨上がりのような様子の苔むした森だった。

 そんなに暑くないけど湿度がとんでもないな。まるで雨が降ってるみたいだ。中央は…あっちか


根っこが盛り上がって凹凸の激しい地形を苔で足を滑らせないよう慎重に進んでいく。


少し進んだところで人の形をした木の魔物に遭遇した。魔物はこちらを捕捉するとのしのしと歩いてくる。

 怖っ!


「『風鎌』!」


風で出来た大きな鎌が木の魔物を縦に両断する。二つに分かたれた魔物はそのまま倒れて魔素になり、小石ほどの大きさの茶色の魔石を残した。


「あ…やりたい魔法あったのに…」


魔石を拾って進む。


「あ、宝箱」


大きな岩の上に宝箱があるのを見つけた。しかし岩の表面は湿った苔で覆われていて登れそうにない。


 「足場になるものがあればいいんだけど…」


辺りを見渡すがめぼしいものはない。

 そうだ、魔力を足場に出来ればいけるかも。

魔力壁を構築する感覚で足場を作る。ちゃんと乗っても崩れない硬さになっている。


「うん、いいね。これは『足場』って呼ぼう」


岩の上から宝箱を取り、開ける。中身は葉に包まれたものだった。手に取ってみるとぶにぶにしている。


「肉…?かな?」


葉が剥がれないように気を付けて袋にしまったところでそう遠くないところから悲鳴が聞こえてきた。

 なんだ?悲鳴?

足に魔力を多く流して急行する。


そこでは男女二人組が魔物に襲われていた。男剣士が木の魔物二体と戦い、その後ろで女性が黒い鳥数羽に襲われている。

 木からやりたいけど男と被ってて狙えん…鳥からいくか。


「『暴風』」


風で鳥を吹き飛ばし、女性の安全を確保する。女性はこちらを見て驚いていたがすぐに男性の補助に入る。女性が何か唱えると木の魔物の動きが大きく鈍る。


「!へぇ」


 どういう魔法だろ。


男性は動きが鈍った木の胸辺りを一突きし、後ろから迫っていたもう一匹も攻撃を弾いて胸を串刺しにした。木の魔物は両方とも魔素となって散っていった。

 胸の真ん中に核があるのか。しかし剣上手いな。


「ありがとう!」


女性がお礼を言った後ろからさっき吹き飛ばした鳥たちが勢いをつけて飛んでくる。

 あれ、吹っ飛んだ後どこにもぶつかんなかったか。


「『壁』」


魔力で構築した壁に次々とくちばしが突き刺さる。


「きゃああっ!」


女性は悲鳴を上げて頭を抱える。

鳥たちは刺さったくちばしを抜くのに苦戦している。

 お、これ魔力で包んだら捕まえられそうじゃね?

ふと思い付いて魔力を追加して鳥たちを包み込む。が、一匹だけ加減を間違えて潰してしまった。

鳥はグエッと声を上げて潰れる。


「あっ、うわ…」

「うわぉ…」


惨い光景に男性も声を漏らす。

一瞬非常にグロくなってしまったがすぐに魔素となって消えていった。ほかの鳥は思い通り捕らえることに成功した。

 うん、いい感じ。


「あの、ありがとう。僕はリクト、こいつは妹のリリアだ」


「リリアよ。どうもありがとう」


リリアは頭を下げて礼を言う。


「俺はアイン。どういたしまして」


「礼と言っては何だがこの歩き木(あるきぎ)の魔石はアインにあげるよ」


リクトはさっき倒した二匹の魔石を差し出す。


「いやいいよ。それはリクトが倒したんだから。でも鳥の魔石は貰っていいかい?」


「ああもちろん。それこそアインが倒したんだから」


「…フフッ」

「…ハハッ」


 言ったことが綺麗に返ってきて二人して笑いがこぼれてしまった。


「ちなみにそれはどうするの?」


リリアは捕まえたままの鳥を指さして言う。


「あー…ちょっと耳塞いでくれる?」


二人とも耳を塞ぐ。リクトはさっきのを見ていたからかリリアに目を閉じるように促す。

 放すわけにもいかないからなぁ…

グエッ

ギョェ

ガェァ


「うえぇ…」


魔力を手で操ってる都合で耳を塞げなかったことを後悔する声がする。

鳥たちはすぐに魔素になって魔石を残して消えた。


「はぁ…よし、と」


魔石を袋にしまってリクトにもう済んだことをジェスチャーで伝える。


「じゃ、またどっかで会ったらよろしくね」


「あっ待って!ちゃんとお礼させて!少しならお金も持ってるわ」


事も済んだところで去ろうとしたがリリアに引き留められる。リクトもうんうんとうなずいている。

 義理堅い人達なんだな。


「じゃあ…さっきの動きをのろくした魔法、あれを教えてくれる?」


「ええもちろん。簡単な魔法だからね。名前は『スロウ』。対象の動きを鈍くする魔法よ。」


「スロウ…どうやってやるの?」


 聞き慣れない魔法だな。


「相手の動きを制限するイメージなんだけど、私は重い甲冑を着た時みたいなのを想像してるわ。リクトで試してみて」


「よしこい!」


リクトは仁王立ちで構える。

 甲冑は着た事ないから分かんないし…クモの巣にかかった虫みたいな感じでいくか。


「『スロウ』!」


「うっおおお…こりゃすごいな。出来てるぞ」


リクトは体を動かそうとするが糸に絡めとられたように上手く動かない様子だ。


「すごい!一回で出来るなんて!」


「へぇ…これは使えそうだ」


 魔大樹と戦った時これがあれば左手も無事だったかもな。


「良い魔法を教えてくれてありがとう」


「お礼こんなのでいいの?お金とか…もっとこうなんかあるでしょ?」


リリアは不慣れそうにポージングして言う。


「十分だよ。俺、魔法が好きでさ。知らない魔法を知ることが何よりも楽しいから。じゃ、ありがとね」


「ああ、今度会ったときは逆に助けてやるよ!」


リクトは笑顔で見送るがリリアは少しむくれた様子だった。二人に別れを告げ探索に戻る。




しばらく進むと樹の少し高いところに宝箱があるのを見つけた。

 さっそく足場を使ってみるか。


「『足場』」


魔力を階段のように固めて上り、宝箱を取る。


「うーん…」


 少し上るくらいならいいけど、この高さを行こうとすると魔力の消費量がさすがに多いな。

宝箱の中身は三枚の木の皿だった。皿は軽いが丈夫で良く出来ている。


「ん、これ熊の背で出てくるやつじゃん」


皿をしまって先へ進もうとしたところで別の樹の上部にも宝箱を見つけた。


「おっ運いいな」


 さっきと同じくらいの高さか。次は足に魔力を込めて…

普段より多く足に魔力を込め、跳ぶ。少し跳びすぎたが宝箱を取る。着地も問題なく出来た。


「うん。これがいいかな。調整は慣れなきゃいけないけど消費も少ないし」


宝箱の中身を確かめようとしたところで足音のような間隔で水が落ちるような音が聞こえてくる。

音のした方を見ると人の形をした水の魔物が歩いていた。


「スライ…いや水?そんなのもいるのか…」


宝箱を足元に置き、様子を見ているとすぐに気付かれ、ザバザバと足音を立ててこちらに迫ってくる。

 ここはさっそく…


「『スロウ』」


水の魔物の動きが鈍くなる。

 水だからちょっと不安だったけどいけるもんだな。

鈍くなっているうちによく観察すると胸の中心あたりに核のようなものが見える。


「同じ種類の魔物っぽいしもしやと思えばやっぱりか」


『スロウ』の効果が切れ始め、少しずつ魔物の動きが速くなる。

 突然効果がなくなるんじゃないんだな。


「やりたい魔法は水だしこいつには効かないよな…『風鎌』」


核を狙って魔法を撃つ。鎌は水の魔物を両断したが、すぐにくっついてしまう。核も切れていない。水の魔物は元の速度を取り戻し駆け寄ってくる。


「あ?『スロウ』」


 真ん中を切ったのにな…

とりあえずもう一度魔法(スロウ)をかけなおす。よく見ると核は揺らめいている。


「まさか動かせるのか?『風鎌』」


今度は核を注視して魔法を撃つ。魔法が当たる直前、核が横に避けているのを確認できた。


「へぇ~」


 多分木の奴はこれ出来ないだろうしこいつは上位種っぽいな。…強い火で蒸発させられるかな?


「『爆炎』」

 

放たれた火の球が水の魔物に当たると大きな蒸発音とともに水蒸気で何も見えなくなる。


「おわっ!やりすぎたか?」


水蒸気が晴れるとそこには水色の魔石が残されていた。

 倒せはしたけど…もっといい方法がありそう。


魔石を拾って改めて宝箱を開ける。中には木で出来たフォークとスプーンと箸が一つずつ入っていた。


「フォークにスプーンと箸か。食器類と肉が出る魔域なのかな?」


魔石と宝箱の中身を袋に詰めて先へ進む。



宝箱から木の食器類や色んな肉を集めつつ少し進んだところで何やら周りの様相が変わってきた。気付けば苔はほとんど無くなり空気もカラっとしている。

 この変化は中央に近いってことだよな。〔雑木林〕と比べたら狭いな。

しばらく進むと遠くの方に樹が不自然に並んで生えている場所を見つけた。

 あそこが中心かな。


「魔力もまぁそこそこある…行くか」


何があるか分からないため予め戦闘用の身体強化を済ませておく。

木の間を抜けてみるとそこは木が円状に囲む広場になっていた。その中心には人間を丸呑みできそうな大きさで、石のような灰色の体表のトカゲが眠っている。

 ここは暑いな…こいつがヌシか。近づいても…


「アッツ…!」


少し近づくとトカゲから放たれている熱波を浴び、予想外の熱に思わず声が出る。起きてしまうと思い、距離を取る。だがトカゲはすやすやと眠っている。

 起きない…ってことは攻撃されるまで何もしない魔大樹と同じタイプか。焦った…


「先手を取れるなら何からいこうか…」


とりあえず水を飲む。とトカゲが目を覚ました。


 「は!?」


 なんで?まさか水!?


クココッカココッ


トカゲは喉を鳴らしてこちらを見ている。

 最初に動きを鈍くすれば…!


「『スロ


魔法を唱えようとしたら舌が体にくっついていた。

 は?

あっという間にすごい力で引っ張られる。目の前にはトカゲの口が大きく開かれている。


「うおおぉッ!」


引っ張られるその勢いで上あごを殴る。舌は体から離れ、トカゲは吹き飛んで木に激突する。トカゲはよたよたと立ち上がる。


「『壁』!」


同じことを繰り返さないように魔力壁を張る。トカゲはさっきのパンチで相当なダメージを負ったようだがこちらを捕食しようと何度も舌を伸ばしてくる。舌は全て壁によって防がれトカゲは困惑している。


「あ、あっぶねぇ…食われるところだった…」


何度も舌を防がれたトカゲは今度は突進してきたが魔力壁に激突し、また困惑している。

 壁があればなんてことないな。あ、そうだ。

トカゲと距離を取り直す。


「あれやってみるか。んん…『水線(すいせん)』!」


昨日魔法で遊んでた時に思いついた魔法を試す。水を圧縮、そしてそれに穴を開けるイメージで水を高圧で発射する。しかし水はトカゲに当たるとただ蒸発するだけで特にダメージも入っていなかった。


「威力はそこそこだと思うんだけど今回は相性が悪いか…もっと強く出来そうだし要練習だな。『嵐刃』!」


嵐刃は砂を巻き上げ、トカゲに迫る。しかしトカゲは刃を素早く避け、距離を取ってこちらを警戒する。


「ん。大きさのわりに素早いな。…何してんだ?」


トカゲはじっとこちらを見て動かない。

 避け続けるつもりか。


「なら、『乱風刃』!」


無数の風の刃をトカゲに放つ。トカゲは避けきれずにいくつもの刃をもろに食らうが、薄皮を切るだけで出血も見られない。

 硬いな…風刃程度じゃ通らないか。風錬…いや、嵐刃が当たれば…あ。


「『スロウ』」


 そういえば食われかけて使えなかったんだった。

トカゲはピクリとも動かずこちらを凝視して警戒している。

 かかってるのか…?


「『嵐刃』」


トカゲはさっきと同じように避けようとするが動きが少し鈍り、左前脚に命中。トカゲは左前脚を失った。


「おお、良かったかかってた。『嵐刃』」


足を一本失い、その上に『スロウ』をかけられたトカゲは動けずに両断され魔素になり、橙色の魔石とそこそこの大きさの宝箱を残した。


「さすがに当たれば倒せるよな…いや魔大樹(アイツ)がおかしいだけなんだよな」


一息ついて水を飲む。


「しかし、まさか水を出したら目を覚ますなんて…いや、この先こんなんじゃダメだな。もっと気を引き締めないと」


魔石をしまい宝箱を開ける。中にはさっきのトカゲの鱗をふんだんにあしらえたローブが入っていた。


「これは…ローブか。しっかりしてるし、これは高そう」


ローブをしまって脱出門を探そうと周りを見るといつの間にか広場の真ん中に脱出門が出現していた。

 最初は無かったよな…ヌシが倒されたら出現するのかな?


「よし、帰るか」

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