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ep.5 ヌシの秘密

魔域を出て集会所に戻り、換金を行う。今日の担当はちょっと緊張した様子の男性だった。


「換金お願いします」


「かしこまりました」


 あの二ついくらになるかな~

受付の男性が袋の中身をカウンターに出して検めていき、件の木の実と大樹の魔石を手に取ると困惑したような表情になる。


「…すみません。こちらは〔雑木林〕産でしょうか?」


「はい。ヌシの討伐品です」


男性はより一層困惑したような表情を見せる。


「…少々お待ちください」


「え、あ、はい」


男性は木の実と魔石を持って奥へ行ってしまった。

 どうしたんだろ…?


しばらくして男性は見知った顔の受付嬢を連れて戻ってきた。

 あ、あの人だ。

受付嬢が前に立って説明する。


「申し訳ありません。こちらの緑色の木の実と大きな魔石の査定には少々時間がかかるので、夜にもう一度来ていただけますか?」


受付嬢は男性が手に持った二つを手で指して言った。

 昨日はすぐに済んだけどヌシのものは時間がかかるんだな。


「分かりました。ここの受付に来ればいいですか?」


「いえ、どこの受付でもいいので(わたくし)、クインスに用があると言っていただければ大丈夫です」


「分かりました」


クインスは男性から木の実と魔石を預かって奥へ戻っていった。

その後は男性が引き続き対応してくれた。

残りの物の換金が終わった後は”熊の背”に昼ご飯を食べに行った。相変わらず何も言わなくても料理が出てくる。しかも今回は魔力の回復のためにたくさん食べようと思っていたらその通りの量が出てきて驚いた。


「何が欲しいか分かるみたいな魔法なのかな…」


食べ終わった後は一旦部屋に戻って治しきれなかった手の怪我の治療をした。


「ふぅ。よし、動かしても痛くない…と」


外を見るとまだ日が傾き始めたころだった。


「んー…まだ夜までは少しあるよな…でも魔域に行ってうっかり遅くなってもな…遊んで時間潰すか」


宿にある井戸の間で魔法で遊んで時間をつぶすことにした。




「さて、何やろうかな…」


 …水の中に火があったらどう見えるんだろ?


「まずは『火』…そんで『水』…で包めるか?」


小さな火を空中に出し、それを水の膜で包むようにしてみる。しかし水が火に触れてしまい火が消える。


「てか水で空洞のある球を作るのが…まずはこれが出来ないと…」


しばらく練習を繰り返していくうちにコツを見い出す。


「あぁこうか。球がそこにあると思ってそれに水を被せるようにすればいいんだ」


その後、火を水で包み込んだものを何個まで作れるのか挑戦したり、水をどれだけ圧縮できるか試したら失敗してびちょびちょになったりしていると、背後から扉が開いた音がした。

振り向くとリズがタオルを持って立っていた。

 あれ、リズさんだ。


「あ、アイン君…こ、こんばんは」


「こんばんは、リズさん」


 ん?こんばんは?

空を見るともう暗くなっていた。暗くなってきたころに勝手に灯りが付いていたため日の傾きに気付かなかった。

 やばい、夜になってどれくらい経った!?


「すみません!集会所に用があったので行きますね」


「あ…じ、じゃあね」


「じゃあまた!」


急いで宿を出て集会所に向かう。


集会所は昼間とは打って変わって職員くらいしか居らず、静かなものだった。


「すみません!クインスさんは居ますか?」


「アインさんですね。少々お待ちください」


受付嬢が裏へ行くと少しして件の木の実と魔石を持ったクインスが出てきた。


「お待たせしました。査定が終了したので換金を行います。まずこちらの”魔大樹の魔石”が小銀貨5枚、そしてこちらの”癒樹(いやしぎ)の種”が大銀貨1枚となります」


想像以上の金額に驚く。

 確かに強かったけどこんなにもらえるんだな。


「ありがとうございます」


「ではヌシの討伐が確認されたのでランクアップとなります。カードをお願いします」


「ヌシを倒すことでもランクが上がるんですね」


カードを渡す。


「ヌシを討伐できるということは実力がその魔域のランクより上であることの証明ですから」


クインスがカードを受付の台の上に置き、手元で何か操作するとカードの色が白から銅に変わる。


「Dランク昇格おめでとうございます。Dランク魔域〔()(もり)〕は東門を抜けて道なりに進むとあります。…それとお願いしたいことが一つありまして…」


クインスはカードを渡しながら言いにくそうに切り出す。


「〔雑木林〕のヌシ、”魔大樹”の存在をどうか内密にしていただけますか?」


「内密…なんでですか?」


 別に言いふらすつもりもなかったけど…

クインスは辺りを少し見回し、声を潜めて話し始めた。


「…〔雑木林〕は珍しくヌシがいない魔域というので有名です。しかも安全な環境に、弱い魔物と…初心者でも安心して臨める第一歩として人気だったんです。さらにこの街にはCランクまでの魔域が揃っています。これらの理由で人の流入が多く…ヌシがいない〔雑木林〕のおかげでここルファトが栄えたといっても過言ではありません。しかし今回こちらの出魔品が出てきまして…記録はないものかと古い資料を引っ張り出してみると、このような記録がありました」


クインスは一枚の古びた紙を取り出す。



雑木林 ヌシ:魔大樹 Cランクヌシ相当

・身体強化魔法のようなものを扱い、強化した無数の根による攻撃を主とする魔樹。

・根には魔力を吸う特徴があり、体に刺さると抜く暇もなく魔力を吸いつくされてしまう。

・核は地下の根にあるため物理攻撃で破壊するのは難しい。

・討伐には根が魔力を吸うのを利用して根に魔法を流すか、地面ごと消し飛ばすこと。

・Eランク魔域のヌシとしては破格の強さを誇るが、強力な攻撃を加えない限り友好的で品質の良い宝箱を渡してくるため刺激しないこと。

・無駄な犠牲者を減らすために”ヌシはいない”という通説を流布すること。

・Dランクへの条件からヌシ討伐を消し、出魔品の一定数換金のみとする。


討伐品:癒樹の種(大銀貨1枚)、魔石(小銀貨5枚)



 Cランク!?


「このCランクヌシ相当というのが本当なら、アイン様はすぐにでもC…いえ、Bランクに上がるべきなのですが…」


「目立ってしまって、ヌシの存在がバレてしまうのでは、と」


「本当に申し訳ないです…」


クインスは頭を下げる。


「…いえいえ、全然大丈夫ですよ。それよりもDランクに上がるのは大丈夫なんですか?早すぎたりしません?」


 ヌシを倒せれば早くランクが上がる。しかし〔雑木林〕にはヌシが居ないから本来は時間がかかるはず…


「え、ええ。それは問題ありません。かなり珍しくはありますが過去にもこの早さでランクアップした人は何人かいました。しかし、本当にいいんですか?」


「先人の思いもありますし、急いでランクを上げたい訳じゃないですから」


 …Bランクから魔導書が出るからちょっと迷ったけどね。


「助かります…!」


「じゃ、換金ありがとうございました」


クインスは深々と頭を下げて見送った。


帰りに熊の背に寄って夜ご飯を食べてから部屋に戻った。

魔法で体を綺麗にしてベッドに寝転び、カードを懐から取り出して眺める。


「思ったより早くランクが上がったな。魔大樹(アイツ)がCランクなら魔導書に手が届くのもそう遠くないかもな…」


 明日からはDランク魔域か。楽しみだ。

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