ep.50 買い物
その後、報酬の取り分の話になり、まず集会所の依頼の報酬金で小金貨4枚、次に魔石を換金したものを四分の三で大銀貨6枚、そしてヌシの討伐品である”『飛竜の火』の魔導書”がアインの取り分になった。
討伐品は討伐者が貰うというのは分かるが、魔石の換金分をそこまで貰う訳にはいかないと抗議したが、魔物の大部分を倒したのはアインであり、アインが居なければ凄惨な結末が待っていたであろうとも言われ、押し通されてしまった。
小金貨4枚に大銀貨3枚…確かルファトの集会所の魔導書店にあった高いやつが小金貨3枚とかだったよな…?改めて報酬金すごい額だな…というか遂に念願の魔導書だ!買うのでも良いけどやっぱり自分で手に入れた方が実力で手に入れたみたいな気がするから気分が上がるな!
「なんかあれば気軽に呼んでくれ。必ず力になる」
”重颯の狩人”の拠点の一軒家の玄関前でヴァロウと握手を交わす。
最初は怖そうな人だと思ったけど別にそんなこと無くて話しやすかったな。
「はい!こちらこそ、力になれるか分かりませんが何かあれば呼んでください」
ナーニャはこちらの手を両手で包んで距離を詰める。
「遠慮なんてしないでいいからね?ナニかあれば私を呼んでね…?」
思えば最初からずっと優しくて助かったな。ちょくちょく距離が近い気がするけど…
「はい!ありがとうございます!」
含ませた意味を理解していなさそうな様子にナーニャは頬を膨らませる。
デモニスはそんなナーニャを横に押しのけ、アインの手を強く握る。
「アイン、ありがとな」
デモニスはいつもの豪快さとは打って変わって真剣な表情でまっすぐな感謝をアインに向ける。
「は、はい。こちらこそ…」
いつもと違うその様子にアインは動揺を隠せない。
「図書館は学園のすぐ近くだ。ここからだと遠いから、南集会所から中央に向かう乗合馬車を使うといい」
ヴァロウが親切に教えてくれる。
「ありがとうございます!じゃあ、またどこかで!」
手を振って3人に別れを告げる。
3人も手を振り返してアインを見送った。
まずは討伐品の魔導書を宿で読もう!この前魔導書を買いに行った店と図書館は後だ!
アインは宿に駆けて帰った。
昨日一日帰ってこなかったことを心配していた女将と軽く話をしてからいそいそと部屋に戻る。
ベッドの上に座って魔導書を取り出す。
「さぁさぁ『飛竜の火』だ…!」
ワイバーンがあのヌシの事だとするならあのときの火球のことなのかな?
魔導書を開き、最後まで読み切ると『飛竜の火』の全てが頭に入ってくると同時に、魔導書は魔素となって消えてしまった。
「ほお…あの火球ではなくて『放炎』に似てる魔法だったか…それはそれであの火球はどういう…?まぁそれはいいか。『飛竜の火』、すぐにでも使ってみたいけど…魔域でもなきゃダメだな」
魔域…の前にこの前に魔導書を買ったとこ行くか。
ールーツ中央区”ホロウの魔法店”ー
「こんにちは」
「…あ、アインだ。いらっしゃい」
受付の椅子に座って本を読んでいたイリューはアインに気付くと本を置いて立ち上がる。
えっと名前は…確かイリューだっけ。そんで敬語は嫌なんだったな。
「やぁイリュー。んーと…これか。まずはこの本を頼む」
アインは本棚から”魔法とは何か”という本を手に取り、受付に置く。
「ん、小銀貨1枚ね」
「はいよ。あと魔導書も買いたい」
支払いをして本をしまう。
「ん、今うちにあるのは『距離を測る魔法』、『印をつける魔法』、『赤い盾を出す魔法』、『油を落とす魔法』、『最高の寝床を作る魔法』、『物を溶かす魔法』、『地面を操る魔法』…ってとこね」
イリューは指を折って数えながら言う。
「じゃあこれで買えるやつ全部で」
アインは報酬で貰った小金貨4枚をカウンターに出す。
「ん…そしたら『距離を測る魔法』、『印をつける魔法』、『赤い盾を出す魔法』、『油を落とす魔法』、『最高の寝床を作る魔法』の5つで小金貨3枚と大銀貨3枚ね。はい、お釣り」
イリューは淡々とカウンター上の小金貨を取り、大銀貨7枚をアインに差し出す。
「持ってくるから待ってて」
「ああ」
イリューは裏に魔導書を取りに向かう。
アインはさっき買った”魔法とは何か”という本を取り出して読み始める。
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まず、我々にとって魔法とは生まれた時から傍にあるものであり、あって当たり前なものであり、無くてはならないものである。
そして魔法は己に宿っている魔力を消費することで発動するというのは学校で、ないしは親から教わるだろう。
しかし、なぜ魔力を消費すると魔法が発動するのか?なぜ魔法が複雑になる程に消費魔力が増えるのか?なのにも関わらずなぜ固有魔法は複雑なものでも消費魔力が少ないのか?
誰一人としてこれらの問いに答えられる者は居なかった。
他にも挙げればキリがない疑問の数々の答えを追い求め、辿り着いた私の仮説をここに記す。
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「魔力を消費…確かに…」
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①歴史から見る魔法
まず、ルーツ王国が建国576年であり、初代国王は自らの固有魔法で国を発展させたとされていることから約600年前から魔法は存在し、かつ身近なものだった。
また、現在確認されている中で最も古い遺跡にも魔法の痕跡があり、その遺跡は約3000年前のものである。このことから少なくとも約3000年前から魔法は存在し
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「ん、お待たせ」
いつの間にか戻って来ていたイリューが両手に抱えた魔導書をドサッとカウンターに乗せる。
「おお、ありがとう」
アインは本を閉じて袋にしまう。
「他に客も居ないし、持って帰るの大変だろうからここで使ってもいいよ」
イリューは魔導書をこちらに押して寄せる。
「そりゃ助かる。じゃ早速…」
積まれた魔導書から一つ取り、表紙に貼られていた”距離を測る魔法”と書かれたメモを取ると『測量』と書かれている。
名前は測量っていうのか。
アインは魔導書を読み終え、『測量』の使い方を理解した。
それと同時に知らない単位のことも頭に入ってくる。
「インチ?フィート?ヤード?…なんだこれ?」
全く知りえなかった情報に少し混乱したが理解はしているためすぐに落ち着いた。
なんでセンチやメートルの他に単位があるのか分からないけどどこかで使えるのかな…まぁでもこの魔法使う時は無視すればいっか。
「とりあえず、『測量』」
試しに地面から天井までの距離を測ってみると3メートル、3.2808…ヤードと分かった。
「おお~ふっと答えが降ってくる感じか。これは魔法の射程を調べるのにいいな!次は…」
アインは次々と魔導書を読んでいく。
…ふぅっ、終わりっと。連続で魔導書読むと頭が疲れるんだな…」
魔力切れの時とはまた少し違う頭の動かなさに感心しながら額に手を当てる。
「じゃあ順に試していくか。『赤盾』」
唱えると胸の前に赤い小盾が現れる。
浮かんでいるそれを手に取って軽く叩いてみると金属のような硬さを感じる。
「消費魔力がかなり少なかったしそこまでかと思ったけど想像以上の硬さだな!火への耐性があるみたいだし、火魔法を扱う魔物に対して頼りになるな!」
魔法を解除して盾を消す。
さて、残りの2つはまた後でかな…油落とすのに関してはどこで試すか…
「ね、あとの2つ試すならうちに来ない?」
さっきまでの様子を見ていたイリューが提案する。
「おお!早く試したかったんだ。助かる!」
油汚れにアテがあるのかな。
「ん、着いてきて」
イリューは受付の端の板を上げてアインを裏へ通す。
まず案内されたのはキッチンだった。
「まずこのグリル。少し前からお魚を焼いた時に油の良くない匂いが付くようになった。掃除は普段からしてるし、この前しっかり細かい所までやったけど無くなりはしなかった…お願い、前までの焼き魚が食べたいの」
イリューはとても真剣に話した。
見てみるとグリルは全体的に黒っぽくなっており、角に黒くなった油がこびり付いている。
この手の蓄積された系の汚れには『洗浄』は消費がキツくなるから使いにくいんだよな。…昔、秘密基地にした山奥の廃墟に『洗浄』を使ってぶっ倒れたこともあったっけな。
「分かった。『油落とし』」
グリルに手をかざして唱えると瞬く間に黒い汚れが落ちて消えていき、グリルは新品のような輝きを取り戻した。
消費はそれなりにあるな。まぁ連発するようなもんじゃないし多少消費が大きくても問題ないか。
イリューはグリルを開けて覗き込み、入念に匂いを嗅いで確かめる。
「…ん!完璧!あの油の匂いしない!ありがとう!」
イリューはアインの手を取って勢いよく上下に振った。
「どういたしまして。じゃああと1つは…」
「ん、こっち」
イリューの寝床に行くのかな?
家の奥の寝室に案内される。
寝室はどこか古さを感じる内装だった。
ベッドもシンプルで年季が入っているように見える。
「これ、おばあちゃんのベッド。おばあちゃん腰痛そうにしてること多いから…」
「おばあちゃん想いなんだな」
「うん、大好き」
イリューは少し恥ずかしそうにはにかんで答える。
「そうか。じゃあいくぞ…『沈むが如く眠りへ誘う祝福』」
ベッドが風になびくようにはためき、綺麗になっていく。
「…っと…!」
一気に保有魔力の3分の1ほどを持って行かれ、少しふらつく。
まさかここまで魔力を消費するとは…でも性能を考えれば妥当か。
「大丈夫?」
ふらつくアインをイリューは心配する。
「ん、ああ。大丈夫だ」
「そう。効果時間はどれくらい?切れそうになったらまた呼ぶ」
「効果時間は俺が死ぬまでだから安心してくれ」
「え…すごい魔法だったのね。それを余裕で使うアインも…」
確かに掛け直ししなくていいってのはすごいよな。
「ちなみにもう一回使えるからイリューの寝床もやっとくか?」
「いいの?」
「もちろん」
「ありがと、優しいね。じゃ付いてきて」
イリューは軽い足取りでアインを先導する。
まぁ優しさもあるにはあるけど、ただ他の寝床だと消費魔力が変わるのかとかが気になってるだけなんだよな…
「じゃあ、このベッドにお願い」
案内されたのは可愛らしい花の刺繡があしらわれたベッドだった。
「分かった。『沈むが如く眠りへ誘う祝福』」
イリューのベッドが風になびくようにはためき、まるで新品のような輝きを見せる。
「う…ぐむ…もう限界だな…」
一気に魔力を消費して魔力切れになり、危うく気を失いそうになったがなんとか立て直す。
おばあちゃんの時よりもかなり多く使ったな…刺繍が入ってるからか?
イリューはふらついたアインに目もくれず早速ベッドに潜り込む。
「あぁ~…最高…」
イリューは恍惚とした表情を浮かべる。
そんなに変わるのか…しかし何がどう変わるのだろう?寝床と言えば重要なのは柔らかさだと思うが何をもって最高とするのか?硬さは人によって好みもあるし…確かライキおじさんなんかは「柔いのだと寝れん」とか言って木材に布を被せただけのやつに寝ていたっけ。
アインは『最高の寝床を作る魔法』に考えを巡らせ、小さい頃の他愛無い記憶を思い出す。
「ってか今聞いてみりゃいいか。なぁイリュー…」
イリューを見るといつの間にかすっかり眠りについていた。
「ほう…こんな短時間で眠りにつくとは…起こすのは悪いし後で自分で試せばいっか。おやすみ、イリュー」
この後は『飛竜の火』試したかったけど魔力切れだし、やっぱり図書館ってとこに行ってみるか。
アインはホロウの魔法店を後にした。




