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ep.46 ”千斬” ”空割りの槌”

アインら一行が〈深緑の王狼〉を倒したのと同日ー

Bランク魔域〔花舞(はなまい)の渓流〕にて、桃色と紫色の花びらが舞い散る中、岩山の上に座る男が一人。


「異常長生個体って聞いたから期待してたんだが…」


男はナイフを持っており、座っていたのは岩山のような甲羅、所々に鉱石のような外殻を持った亀だった。

亀は甲羅の内側から血を流し、動けないでいる。


「衝撃波みたいなのを放つだけで大したことなかったな」


男はナイフの柄を甲羅に当てて甲羅から降りる。


ガ…!


亀は微かに断末魔を上げて魔素となっていった。


「おい、もう出てきていいぞ」


男はナイフをしまいながら虚空に向かって声をかける。

すると声をかけた方とは反対側の虚空から女性が姿を現す。


「さすがはSランク探索者”千斬(せんざん)”ね」


「なんだそっちに居たのか。帰ったら俺の勇姿がバッチリ伝わる良い記事を頼むぜ、ラケミク」


”千斬”は片手で抱えるほどの大きさの魔石を拾いあげて脱出門へ向かった。


「…Aランク魔物にも匹敵する防御力を持つと言われる岩亀の長生個体をああも軽々と…バケモノね」


ラケミクは”千斬”を追って軽く駆け出した。


―――――


同日、Cランク魔域〔大雨荒野〕にて体長5mはあろう巨大な蜻蛉(トンボ)が力なく黒き大地に堕ち、魔素となる。


「ゲホッ、ったく厄介な奴だったな」


籠手をはめた立派な体格の女性は血の混じった咳をする。


「大きさを自由自在に変えるなんてね~。しかも大きくなっても速度は落ちないなんて、私らじゃなきゃ死人が出てたよね~」


大盾を持ち、重厚な鎧に身を包んだ長身の女性は軽いノリで話す。


「アタシと奴の相性が良かったな!」


小さな女性は大槌を地面に立てて魔石を拾いに行く。


「ぺーちゃんは相性悪かったし無理しないで私に守られてればよかったのに~」


大盾持ちの女性はペキンダの頭を撫でる。


「そんなんダセェだろ!」


ペキンダは大盾持ちの女性を小突く。


「あったよー!ていうかさ、この魔石すごい綺麗…っくしゅん!」


小さな女性は止むことの無い大雨に打たれ続けていたためかくしゃみをする。


「ほらもう帰ろうクォーマ。風邪ひくぞ」


ペキンダは鼻水が出ているクォーマの顔を手で拭いてやる。


「ん!カガラ、門は?」


「はいはい。んぅ~、っと…あっちよ」


カガラは盾を立てて集中したのち、脱出門がある方向を指す。


「よし!じゃあ帰ろう!」


「はいよ」

「はーい」


3人は並んで脱出門へ向かった。


―――――


美しく飾られた大きな空間で荘厳な椅子に腰かける者と、それに跪く者が一人。


「…二つ報告します。まず、先日、例の実験が成功した3匹全てが人間の手によって討伐されました。そして、〔寂寥(せきりょう)の夜〕、〔亡国〕での実験は失敗に終わりました」


腰掛けている者は顎に手を当てる。


「ふむ…あの街の近くだから1匹くらいは討伐されると想定していたが、まさか全てとはな。人間も進化しているということか」


「ですが成果もありました。あの隠蔽は”かの者”に効果的であることが確認できました」


「それが分かったのは良い事だが…問題はそれをすり抜ける存在だ」


「その存在についても共通点が発覚しました。結果を基に、新たな隠蔽方法を研究中です」


「分かった。二つ目についてだが、そちらは仕方のない事だ。また、このまま無理に続ければ”かの者”に我々の存在がバレかねん。新たな隠蔽方法が確立するまでそちらの実験は中止だ。以上、研究に戻り、進捗があれば報告に上がれ」


「はっ。失礼します」


跪いていた者は次の瞬間にはその場から消え去った。


「失敗続きだが…旧時代からの遺恨、当代で果たさせてもらうぞ…!」


立ち上がったその者の眼には正十二角形の虹彩が煌めいていた。

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