ep.43 いざ討伐へ
出たのは丘の間の溝だった。
肌を削るかのような魔力を含んだ強風が吹き荒れる。
溝なのに…もしかして中央近くか!?
「『壁』!」
「おお流石だなアイン。ナーニャ」
ナーニャは目を閉じて集中している様子だ。
「もうやってる…この風のせいか分かりにくいけど、多分あっちよ」
ナーニャは右前方を指差す。
魔法の気配はしてたし位置を探ったのか?どういう魔法を使ったんだろう…
「よし。アイン、走るがこの壁は動かせるか?」
「はい」
「では行…っ!」
ヴァロウが何かに気付き、抜剣して臨戦態勢を取る。
「奴も気付いたようだ!来るぞ!」
言い終わるが早いか、魔物の軍勢が前方の丘から押し寄せる。
「俺に任せな!」
デモニスはコートから紙札の束を取り出して地面に押し付ける。
「『設置』!」
デモニスが唱えると紙札が高速で地面を這って前線を張るように並んでいく。
あの魔道具はなんだ?
魔物はそれに気付くことなくこちらに向かってくる。
「『起動』!」
デモニスが頃合いを見て唱えると魔物の軍勢に強力な電撃が走り、魔物たちは魔素となって散った。
あれは雷!?とんでもない魔道具じゃないか!
「進むぞ!」
ヴァロウの掛け声で4人は丘を駆け登る。
あれは…!
いくつか先の丘の上、距離にして約300メートル先で〈深緑の王狼〉が仁王立ちでこちらを見据えているのが見えた。
「アイン!奴か?」
「はい、間違いないです!」
「射程外よ。もっと近づかないと…」
「そのためにはこいつらを相手しなくちゃ…か」
デモニスの言葉に下に目を向けるとそこには数多の魔物が蠢いている。
次の瞬間、奴が遠吠えするような動きを見せる。
しかし不気味なことに声は聞こえてこない。
「なんだ…?」
次の瞬間、眼前で蠢いていた魔物たちが一斉にこちらを向いて襲い掛かって来た。
「合図したのか!」
「今度は俺が行く。『人体強化』」
ヴァロウは魔力壁を飛び越えて魔物の群れに飛び込んだ。
「ヴァロウさん!?」
ヴァロウはあっという間に魔物に覆われて一つの塊のようになっていく。
『火柱』、はダメだ!巻き込んでしまう!『乱風刃』を調整すれば…
「まぁ見てな」
デモニスは信頼した様子でアインの肩を軽く叩く。
数瞬後、塊は切り裂かれて弾け、中から無傷のヴァロウが出てきた。
みじん切りにされた魔物たちは魔素となって散っていく。
ヴァロウは残りの魔物もあっという間に斬りつくしてしまった。
「あれがうちのリーダーさ」
デモニスは自慢げに言った。
ほとんど見えない速度の斬撃…どれほどの強化が体に施されてるんだ?
ヴァロウはこちらに来るように手招きしながら口を動かしている。
「外からじゃ風にかき消されて何も聞こえないわね」
3人はヴァロウと合流しもう一つ丘を登る。
登り切ろうかというタイミングで魔物が丘の上から顔を出す。
「!『乱ー「『波』!」
アインが魔法を撃つよりも先にナーニャが膝ほどの高さの波を起こして魔物を押し戻す。
「ここは任せなさい♡」
ナーニャは丘の上に立つと眼下の魔物たちに向かって腕を広げる。
「『槍雨』!」
ナーニャがそう唱えると魔物たちに水で形成された槍が降り注ぐ。
魔物たちは一匹残らず魔素となった。
「強い…!」
攻撃を降らせるだけなら『乱風刃』で同じようなことが出来るけど、今の魔法は狙いが正確なのがすごい!
「ふふん。どぉよ、私たち強いでしょう?」
ナーニャは得意げに大きな胸を張る。
「はい!とっても心強いです!」
「んん”っ素直でカワイイんだからもうっ♡」
ナーニャはアインの頭を撫でくりまわす。
ヴァロウはそれを冷ややかな目で見ている。
「おい!また吠えたっぽいぞ!」
デモニスが指差す先を見るとまた遠吠えするような動きをしている。
かなり倒したが…まだ来るのか?
4人は魔物が来るかと警戒したがそのような気配はない。
「?来ないな…」
「来ないならそれはそれで好都合だ。行くぞ!」
またさっきと同じように登りきるその瞬間に合わせて来るかとも思ったがそんなこともなく、眼下にも魔物は居ない。
前を見ると約200メートル先で奴は鎮座している。
なんだ?あの余裕な感じ…
「魔物を使い切ったか?」
「流石にあの数だしな。あ!おいアイツ逃げるぞ!」
奴はこちらを尻目に逃走しようとしている。
「逃走されると面倒だ!俺が先行して足止めする!3人も出来るだけ急いでくれ!『人体強化』!」
「ああ!油断はするなよ!」
ヴァロウはそう指示するとものすごい脚力で丘を飛び石のように跳んでいってしまった。
「急ぐぞ!」
デモニスはコートの中から丸薬を取り出して嚙み潰す。
「『水流纏い』!」
ナーニャの脚が激流を切り取ったような水の塊に覆われる。
「『強化』!」
アインは可能な限りの身体強化を施す。




