ep.4 気になること
今日もまた、昨日と同じように〔雑木林〕を探索していた。
そういえば昨日は気にならなかったけどここってずっと昼間なのか。朝に入ったからなんか変な感じ。
宝箱を開けながらのんびり中央に向かっていると、日向ぼっこしている緑スライムを見つけた。
今日は倒していこうかな。適当な『風刃』じゃ倒せなかったしちょっと強めに…
「『風刃』」
多めに魔力を込めることで大きくなった刃は緑スライムを核ごと両断した。
核を両断された緑スライムはサラサラと魔素となって消えていき、小さな緑色の魔石を残した。
これくらい魔力を込めればいけるか。魔石はまぁ小さいけど無いよりマシってことで。
魔石を袋にしまって先へ進む。
宝箱を開けつつスライムを倒して進んでいると樹にトゲが付くところまで来ていた。
トゲも魔物だろうし倒せるよな?まずは適当に
「『風刃』」
普通の樹なら浅い傷が付くはずだが、かすり傷すらも付かなかった。
ずいぶん硬いんだな。火…は燃え広がったらやばいし風の一個上でいくか。
「『風鎌』」
風で作られた鎌はトゲを横に真っ二つにし、樹に真ん中まで至るほどの深い切り傷を付けた。切られたトゲは地面に落ちると魔素となり、スライムのものと同じ大きさの少し深い緑の魔石を残した。
大きさは一緒だけど色が若干違うな。スライムより断然硬いからもう少し変わるかと思ってたけど、そうでもなかったか。
進むうちにトゲは無数に増えていくため無視していくことにして宝箱を開けながら進む。
昨日ルーク君に教えてもらった通り、中央近くでたくさん宝箱を開けていってみよう。
そのうち見たことあるような風景だと思っていたらもうすぐそこには中央の大樹があった。周りの宝箱を一通り開けてから大樹に向かう。
真ん中のすぐ近くはここまでに比べて宝箱が多くなってるんだな。
大樹に手をつくと前回と同じように根っこが宝箱を地面から取り出す。中身も同じ木の人形だった。
「さて…」
木の人形も手に入ったところで気になることが一つ。
この樹も魔物だよな…?であれば倒せば魔石が出るはず。もしヌシなら宝箱も…魔力は十分残ってる。
「ちゃんと身体強化してから…」
魔力を体中に流し、両手を構えて唱える。
「フゥーッ…『嵐刃』!」
周りの樹が強くなびく程の風を纏った鋭い刃が大樹を切りつける。が、浅い傷を残すばかりでびくともしない。
「硬すぎだろ!」
傷跡を確認したのも束の間、次の瞬間大樹の根が2本飛び出す。
速い!
横に跳ねて避けるが次々と根が飛び出す。
この数は無理!
「『壁』!」
大量の魔力を固めた壁に根が次々と刺さる。
「くっ、重い!」
根を止めて隙を!
刺さった根が抜けないようにさらに魔力を送り固める。大樹は根を壁から引き抜こうとするが抜けなくなっている。
あれで無理ならもう火を…!
根を壁に捕らえてる隙に魔力の壁の横に飛び出し、手を向け唱える。
「『爆炎』!」
火の玉が大樹に飛んでいき、着弾すると爆発して大樹の幹を芯までえぐり燃やした。だが、魔素になる様子はない。
「これでも倒せないのか!」
壁に刺さっていた根が光を帯び、魔力壁が割れる。
「何ッ!?」
いくつもの根が一つの根につながり、つながれた根はほのかに光り始める。
効いてはいるはず…!
「『爆炎――」
―『爆炎』一発で倒れなかったこと、壁を割られたことで焦っていた。
光を放つ根の先端と目が合ってしまった
あっ
「やば
ズドッ
強化された根が頭めがけて矢のように突き刺す。
「ぐぅっ!」
頭を串刺しにしようとする根を、左手を犠牲にギリギリのところで止める。根は手から魔力を吸収し始める。
「うおぉっ…!」
吸収!?だったら…!
「『流火』!!」
手のひらを貫いた根から大樹へ水のように火が伝わっていく。大樹は幹から炎を吹き出し、やがて炎に包まれた。根は力が抜けたように手から抜ける。
大樹は燃え尽きて灰になるように魔素になり、崩れていった。そのあとには小さな宝箱と大きな魔石が残されている。
戦いの終わりに安堵し、その場にへたり込む。
「上手くいった…宝箱…やっぱりヌシだったか。それに魔石もスライムやトゲとは比べ物にならない大きさだ。っ痛てて…」
左手には穴が空き、さらに傷口は焼けている。
痛すぎる…穴開いてるし…ちゃんと強化してたのにこれか…
「はぁ…壁を張るか避けるかすれば良かった…いや、壁でも貫通されてたかも…?」
いいや、今は左手を治そう。
傷に右手をかざして唱える。
「『治癒』」
大量の魔力を消費し、傷を治す。まず骨が再生し、その後肉が再生していく。魔力を使い切って動けなくなるわけにもいかないので肉が再生し始めたあたりで余裕を持ってやめる。
「フゥー…一応穴は塞がったな。まだちょっと骨見えてるけど…」
軽く握ろうとするとまだ肉が盛りきっていない傷跡が痛む。
…あの一瞬で随分吸われたな。危なかった…
「じゃあ包帯…は無いけど確か布袋がいくつか…」
治りきっていない傷口を保護するための包帯が欲しかったが無いため、袋からここで手に入れた布袋と糸束を全て取り出し、唱える。
「『裁縫』」
魔法で布を切り、糸でつなぎ合わせて包帯のような形にする。
「よし、と」
有り合わせだけど、これなら巻ける。
「母さんの魔法には世話になってばっかりだ…痛っつつつ…」
布を左手に巻き、宝箱と魔石を回収する。
魔石は大きいのに宝箱は小さいのか…
小さな宝箱の中には透き通るような緑色の木の実が入っていた。
木の実…?でも綺麗な緑だ。それに魔力がある…
手に取り光にかざしてみると水面のように輝いている。
「…これはすごいんじゃないか?」
木の実と魔石を袋にしまう。
「よし、帰るか」