ep.37 報告
「あら!アインくんじゃない!」
さっきの長生個体のことを報告しに集会所に向かう途中、見覚えのある女性に声をかけられた。
「え?あ、オプローさん?」
声をかけてきたのは以前洪魔の時に見学の護衛としてナザに呼ばれていたSランク探索者、オプローだった。
「あら、覚えててくれたのね。探索の調子はどう?」
「それが…まだ一回も魔導書見つけられてないんですよ…」
〔轟風丘陵〕で結構な数の宝箱を開けてきたが一度も魔導書が出ていないのだった。
「あらぁ運が無いわね」
「オプローさんはどうです?」
「ま、いつも通りね。面白くもなんともないわ。そ、れ、よ、り!今日はね、明日のナザとのデートが楽しみで下見してたの!」
「ああ、あの時約束してたやつですか」
「そう!昨日の夜やっとナザから連絡が来てね、ナザは忙しくてって言ってたけど…にしたって連絡遅いと思わない!?」
あんまり日にち経ってないような気がするけど…
「ま、まぁ忙しいなら仕方ないと思います…」
「乙女を待たせるには長すぎよ。長生個体が増えてるだかなんだか知らないけどもう嫌んなっちゃうわ」
「長生個体ですか…実は僕もさっき襲われまして…」
「ええ?あなた本当に運が無いのね」
「それで、気になるのが奴は他の種類の魔物を使役してたんです。長生個体ってそういうものだったりします?」
オプローは驚き、真剣な表情を見せる。
「…いいえ、通常種を従えて群れを作ることはあれども他の種類の魔物を使役なんてしないわ。そいつは何かおかしいわね…」
前にも長生個体に遭遇したけどそういうこと無かったし…
「やっぱり…これから集会所に報告しに行くところだったんです」
「私も行くわ。私が居れば優先して話を聞いてもらえると思うから」
そこまでのモノなのか…
「分かりました。行きましょう」
「ええ」
集会所内は換金に来た人や午後の予定を話し合う人などで賑わっている。
オプローは話し合っている人を押しのけて一直線に受付へと向かう。
「んだよテメ…」
「はいはいどいてどいて」
「お、オプロー!?」
押しのけられた男はその相手に驚いて声を上げる。
「さっ、さーせんしたッ!」
オプローは男に目もくれず歩いていく。
流石、有名なんだな。
「オプローだって?」
「あれがSランク探索者の…」
「Sランク!?」
「初めて見たわ」
「美しカッコイイ…」
「付いてってるのは誰だ?」
「あいつなら最近よく見るぞ」
集会所内がざわめきだす。
あっという間に並んでいた人を押しのけて受付に着く。
「オプロー様、いかがされましたか?」
初老の受付嬢は動揺せず対応する。
「アインくんの話を聞いてやってくれ。長生個体についてなんだが、ただの長生個体じゃなさそうだ」
オプローは後ろにいたアインの肩を掴んで受付の前に出して言う。
「かしこまりました。カウンターに乗り上げてそのままこちらへどうぞ」
「え?え?」
乗り上げる?確か前に裏に行った時は端っこの扉から…
「分かった。行くわよアインくん」
オプローは躊躇なくカウンターに乗り上げて行く。
「えぇ!?ちょっ、待っ…」
とりあえず言われるがまま付いていく。
2人は客室に通される。
「お茶の用意が無く申し訳ございません。只今持って来させていますが、先に話を進めてしまいましょう」
初老の受付嬢は手早くメモの準備をする。
「急に来たんだし大丈夫よ。さ、アインくん報告してちょうだい」
「は、はい。〔轟風丘陵〕にてー
アインはここに来るまでの勢いへの動揺を残しつつも今までの事を報告した。
「…私はこの職に就いて長く、何度も長生個体の報告を受けてきましたが…そのような長生個体は聞いたことがないです」
初老の受付嬢は眉間にしわを寄せる。
そこに2回ノックの後、お茶セットを持った若い女性職員が部屋に入って来た。
「しっ失礼します!お、お茶になります」
女性職員は緊張した様子で手を震わせながらもなんとかお茶を配膳する。
「そしたらコモナさん。今までの長生個体についての報告書をまとめた冊子を持ってきてください」
「わ、分かりました!失礼します!」
コモナと呼ばれた女性職員は急いで部屋を後にした。
「失礼します」
入れ替わるように身なりの整った若い男性職員が部屋に入って来た。
「ログマンさん、あなたは〔轟風丘陵〕への立ち入り禁止を門番へ命じるようお願いします」
「は…はい。かしこまりました」
男性職員は立ち入り禁止という言葉に少し動揺を見せつつも堅く会釈して素早く門へ向かった。
「とりあえずこれで犠牲者は増えないでしょう」
「流石ルーさんだわ。仕事が早いこと早いこと」
「オプロー様にそう言っていただけるとは光栄です」
「もう、3人しかいないんだし少しぐらい崩してもいいのよ?」
「いえ、仕事中ですから」
「本当お堅いんだから」
2人は知り合いのように言葉を交わす。
「お二人は知り合いなんですね。だからさっきもカウンターを乗り越えるなんて無茶なこと…」
「いえ、Sランク探索者様がああして受付に来たということは特別で急ぎの要件だと推察したまでです」
だからって乗り越えさせるって…すごい判断力だ。
「本当はさっきの立ち入り禁止令も越権なのにね。でも、私も正解だと思うわ」
なんかさらっと言ってたけどアレ本当は駄目だったの!?
「私が処罰を受ければそれで済みますから」
「全く、そんなんだからチーフ止まりなのよ」
オプローはお茶を飲んで一息つく。
アインもお茶を一口いただく。
美味!良いお茶だこれ…!
「この件は私からナザにも通しておくわ。明日会うからそこで言っとく」
「助かります。こちらでは討伐隊を招集しようと思います」
「私たちSランクが動ければ良いんだけど…まぁ許可出ないよね~」
許可?
勢いのあるノック音の後、息を切らしたコモナが冊子を持って来た。
「失礼します!ルーマスさん、長生個体の報告書お持ちしました!」
コモナは緊張でぎこちない動きになりながらルーマスに冊子を手渡す。
「ありがとうコモナさん」
ルーマスは冊子を手に取るとコモナに目配せをする。
「は、はい!では失礼します!」
コモナは早歩きで部屋を出て行った。
ルーマスは冊子に目を通し始める。
「オプローさん、許可っていうのは…?」
「Sランク探索者ってね、ある程度国に管理されてるのよ。それで…えーっと…長期間かかりっきりになるだろう長生個体討伐なんて許可が出ないのよ」
何だか言いにくそうな…しかし国に管理されてるんだな。さすが最上位ランクだ。
「濁してごめんね。ちょっと言えないこともあってさ」
「い、いえ大丈夫です!むしろすみません、扱いの難しい話をさせてしまって」
「気にしないで、それに…ああいや、なんでもないわ」
?
「オプロー様、冊子に目を通してみましたがやはり報告のような長生個体は確認出来ませんでした」
これまでの記録を確認し終えたルーマスは深刻な顔を見せる。
「そう…じゃあ討伐隊のメンバーは慎重に選んでちょうだいね。Sランクが参加できないとなるときっと厳しい戦いになりうるわ」
オプローはルーマスの手元にあった白紙を一枚取って端にサインを書いて戻す。
「もちろんです」
ルーマスはサインを書いた意図を理解したように、その紙に触れながら言う。
「よし。じゃあ行こうかアインくん。これ以上ここで私たちが出来ることはない」
「分かりました」
「お送りいたします」
ルーマスも続いて立ち上がって先導しようとする。
「大丈夫よ。仕事が山積みだろうに時間を取らせるわけにはいかないわ」
「お気遣い感謝します。では、良い探索を」
「ん、じゃあね」
「ありがとうございました」
オプローの後に続いて集会所を後にした。
あのサインを使って集める討伐隊なら長生個体について教えてくれたあの2人の敵討ちももうすぐだろう。話を聞いた俺がやるべきとも思うけど…立ち入り禁止になった以上勝手なことをするわけにもいかないし、何より奴は強い。確実な方に頼ろう。それでいいんだ。それで…
―――――
「首尾は?」
美しく飾られた大きな空間で、煌びやかな椅子に腰かけた者は眼前に跪く者に問いかける。
「我らが手を加えた10のうち、3において成功を確認いたしました」
「うむ…想定より少ないが十分だろう。隠蔽も上手くいっているか?」
「はい。稀にすり抜ける個体も居るようですが、問題は無いと思われます」
「良し…これが上手くいけばこれからの戦い方は大きく変わる。今度こそ…」




