ep.36 物量
「ふぅっ…流石に疲れたな…」
〔轟風丘陵〕にて、今日こそは中央に辿り着こうと魔物を屠りながら数時間歩き続け、谷になっているところで休憩を挟んでいた。
魔力はそろそろ半分ってところか…
「もし長生個体と戦う時は万全に行きたいから会わないならこのぐらいで帰るんだよな…んん…」
中央の魔力を探ってみると遠くではあるものの、今までよりは近づいているのを感じる。
「…今日はもう少しだけ行ってみるか」
立ち上がり、丘を登る。
頂上から見渡すと、遠いが進行方向に脱出門を見つけた。
とりあえずあそこまで行こうかな。
脱出門に向かい出してから数十分、違和感を覚えて足を止める。
「魔物が居ないな…?」
それに心なしか壁が削られてるような…
無意識で張り続けていた壁に集中してみると確かに少しずつ表面を削られている。
「でも何か砂とか飛んできてる感じもないし…風が変わった?」
試しに魔力壁の一部に小さな穴を開けて風を受けてみる。
「どわ!…っと。入った時より強くなってるし、これは…魔力を含んでるな?」
魔力壁が削られるのは魔力のぶつかり合いが起きることによるものだった。
壁の修復で今まで以上に魔力を持っていかれるな…これは一旦出て対策考えないとだな。
目指していた脱出門は百数メートル先にまで迫っていた。
もう一つ先の丘の上に立ち、下を見下ろすとそこには大量のトカゲが蠢いていた。
「やけに居ないと思えば固まって…迂回するか」
迂回しようと連なる丘の上を歩くがトカゲの次はスライムが、またその次は後ろ足が発達した虫が…と魔物の塊が途切れず中々進めない。
これは流石におかしい…
通れるところはないかとずっと溝を見ながら歩いていたが足を止めて脱出門がある方へ顔を上げる。
すると溝を挟んだ向かい丘の上にあの長生個体が居り、目が合った。
「!あいつ…」
ウオオオオーーーン!
長生個体が遠吠えを上げる。
なんだ…?
すると溝で蠢いていた魔物たちが一斉にアインの方へ向かってきた。
「は!?嘘だろ!?流石に多すぎる!」
逃げようと中央とは反対の方へ走る。
丘を降りたところで向かっていた方向からも大量の魔物が押し寄せる。
「マジかよ!クッソ…!」
たまらず溝に沿って駆ける。
あの狼…!まさか他の魔物を操って…?
登れるところはないかと様子を見ながら走っていたがそんな隙間も無く次々と丘の向こうから魔物が現れる。
「あっ!」
気付けば溝は途切れて行き止まりに着いてしまった。
目の前の丘の上からも魔物が押し寄せる。
「くっ…」
振り返るも魔物が大波のように押し寄せる。
「どこからこんな数…『魔力壁』!」
地面に両手をつき自分を小さく囲うように強度の高い魔力壁を展開する。
ギリギリまで魔物を引き付け、唱える。
「『炎海』!」
アインを中心として、まるで水が溢れるようにして炎が溢れ出し、瞬く間に一帯に炎の海を形成した。
魔物たちはなすすべなく燃やし尽くされて魔素になっていった。
一気に魔力を使ったため軽く眩暈がする。
「はぁっ、ふぅー…いくらなんでも多すぎるだろ…早く脱出しなきゃ…」
次の瞬間、一つの風が炎の海を消し去った。
は?
丘を見上げると丘の上には狼がこちらを見下ろすように並び立っている。
狼たちがおもむろに間を開けたかと思えばあの長生個体がゆっくりと顔を出した。
落ち着け…まだ魔力はある。どうするか…
長生個体は勝ち誇ったような顔でこちらを見ている。
なるほどな。使役した魔物をけしかけて力を出し切らせてから本隊で潰す、と…
「魔力残してなかったら死んでたな…『身体強化』!」
脚に身体強化を施し、真上に思いきり跳ぶ。
「…あった!」
運よく近くに脱出門を見つけた。
「『足場』!」
斜めに強固な足場を生成、それを踏み台に脱出門に向かって思いきり跳び、そのまま直接脱出門をくぐった。
轟風広場に大きな地響きが響き渡る。
広場に居た人たちは何が起きたのかとざわめく。
「な、なんだ!?」
驚いた門番が急いで門がある塔の中を確認する。
「ふー…あ、どうも」
門の前には着地したアインが何食わぬ顔で服を手で払っていた。
「ええっと…?今の地響きは君が?」
「すみません驚かせてしまって」
アインは軽く頭を下げる。
「一体何をしたんだ?」
「ええと…落下する勢いのまま脱出してきました」
「落下?…よく分からないけど、さっきの地響きが起こるほどの勢いで脱出してきたのか…もし人にぶつかってたらタダじゃ済まなかったろうからこれからは気を付けてね」
脱出先に人がいるかもしれないこと考えてなかった…
「すみません、以後気を付けます」
塔を出ると広場の注目を浴びる。
アインはいそいそとその場を後にした。




