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ep.35 魔法好き

レザンの話を聞いて顎に手を置いて考え込む。


「やはりあの狼は知性を…」


 そして本当に長生個体ならAランク相当…


「しかし、アインが見たということは…奴はまだ生きていたのか…」


あの災害で死んでいなかったことにレザンとトーガはうなだれる。

レザンの握る手は震えている。


「…辛いことを話させてすまなかった。ありがとう」


アインは席を立つ。


「いや…気にしないでくれ。それより、こんな話程度で良かったのか?」


「諦めるしかないはずだった遺品を持って帰って来てくれたんだ…何か欲しいものは無いのか?」


魔域は入るたびに地形の修復、宝箱や魔物の再配置が行われているため、魔域の遺品を取りに行くためすぐに入り直しても回収は叶わない。というのが常識だ。


「別にお礼を貰うために持って帰ったんじゃないんだ。ただ俺がそうしたかっただけだから、さっきの話でもう十分さ」


「そう…か」


「…そこまで言うんならこれ以上は野暮だな。これから困ったことがあれば受付に俺らの名前を伝えといてくれ。きっと力になる」


トーガは手を差し出して芯のある声で言った。


「ああ、その時はよろしくな」


トーガと握手を交わして2人と別れる。

 …そういえばパージュラに受付で名前を言えって言われてたな。すっかり忘れてた。



「こんにちは、ご用件は?」


情報受付のお堅そうな男性は淡々と聞く。


「すみません、パージュラの紹介で来たんですが」


「名前をお伺いします」


「アインです」


「アイン様ですね。少々お待ちください」


男性は裏から手紙と脇に抱えるほどの大きさの箱を持って来た。

 なんだあの箱?


「お待たせしました。こちらが預かっていた手紙と贈与品になります。お受け取り下さい」


「ありがとうございます」


「では、良い一日を」


男性は軽く会釈をしてアインを見送った。

 この箱、結構軽いけどなんだろう…魔導書ならもうちょい重いか…?

早速宿に持ち帰ってまずは手紙の封を開ける。



アインへ


Bランク到達おめでとう。アインならAランクまでもきっとすぐに到達してしまうことだろう。そこで私が若い頃、ある人に譲り受けた靴を贈る。Aランク魔域〔腐り落ちる沼地〕に特攻を持つ特別な靴だ。私にはもう要らない物だからアインが使ってやってくれ。アインのことだ、きっと魔導書を期待しただろうがこんなもので申し訳ない。また会った時にはアインが助けた弟子がどんな成長をしたか見てやってくれ。では、良い探索を。


プルオリック・パージュラ



 うん…確かに魔導書は期待してたな。それより…


「Aランク魔域に特攻…?」


気になって箱を開けると中には白く穢れの無い美しい靴が入っていた。


「綺麗だな…」


思わず手に取って光りにかざして眺める。

箱には一切れの紙も入っていて、”穢れなき白靴(はっか)”と書かれている。

 これがこの靴の名前かな?穢れなき…汚れないみたいな?よく分からないけどとりあえず履いてみるか。


早速履き心地を確かめると丁度良い大きさで足にフィットしている。


「ピッタリだな…」


 靴自体の大きさ的に少し大きめかと思ったけど意外だな。それより…


「…なんか魔力吸われてるな?」


少しではあるが確かに靴に魔力を吸われているのを感じる。


「ってことは魔力を使って何かする系の道具…」


少し部屋の中を歩き回ってみるが歩きやすい以外に特に効果があるという感じはしない。


「今のところはよく分からないし、しばらく履いててみるか」


腹が鳴り出す。


「そういや飯食い忘れてたな。…お金もそこそこ貯まって来てるし、ここいらで本気で魔導書店探してみるか」


 Bランクから魔導書が出るらしいから適当だったけど、未だ魔導書ナシだしな…

魔導書店が集会所内部にはなく、ずっと飯時のたびに飯屋を探すフリをして魔導書店を探していたが見当たらず参っていた。

 しかし魔力を大きく使った日の食費がかさんで中々お金が貯まらん…ベールズのとこは安かったんだな…




適当に昼飯を済ませて魔導書店を探して歩き回る。

 やっぱりないか…


「んん~…あっ」


 そういえば中央区側は探してない!なんで行かなかったんだか…


中央区を見回しながら歩き進める。

建物はどれも綺麗で壁に模様が入っていたりと、高級感を漂わせている。

 …なんか建物が豪華な感じがするな。レホウさん家からの帰りの時は全く周り見てなかったけどこんな感じなんだ…



もうしばらく歩いてそれっぽい店を見つけた。

看板には”ホロウの魔法店”と書かれている。

 あれかな?しかし魔法店ってなんだろ?魔導書店ではないのか?

早速中に入ると壁の棚に大小さまざまな薬品らしきものや本が並べられ、真ん中の机には値札の付いた多様な素材がいくつか置いてある。

受付では若い女の子がカウンター裏で本を読んでいる。

 この並んでる本は…

少し埃被った本を一つ手に取って表紙を見てみると”魔法とは何か 著テレジンス・カッダコルワ”と書かれている。

 ”魔法とは何か”…?気になるけど、魔導書じゃないのか。まぁ魔導書をこんな風に置いとかないか。

そのまま置いてあった場所に戻す。


「すいません、魔導書ってあります?」


カウンターの女の子に聞いてみる。


「ん、いくら持ってる?」


女の子は本から目を離さないまま話す。


「大銀貨5枚はあります」


 本当はもう少しあるけど今日の飯分と保険で少しは残しておかないとだからな…


「それで買えるのは『距離を測る魔法』、『印をつける魔法』、『赤い盾を出す魔法』、『魔法の腕を作る魔法』の4つ。それぞれ大銀貨4枚、5枚、3枚、4枚」


「ふむ…」


 全部気になるけど特に気になるのは…


「『魔法の腕を作る魔法』ってどういう魔法ですか?」


「名前の通り魔力で3本目の腕を作る魔法。でもおすすめしない」


 おすすめしない?


「なんでですか?」


女の子は目線をこちらにやる。


「魔導書を使った人曰く、3本目の腕なんてまともに扱えたもんじゃなく、さらには魔力消費も維持するだけでもとても大きいんだと。まぁ片腕を欠損した人には良い魔法かもしれないけど、健常者には持て余す魔法」


「なるほど…」


 確かに3本目の腕があるイメージなんて…無理だな。複雑そうな魔法だし、イメージ出来ないなら魔力消費が大きいのも頷ける。


「…ちなみに、予算外の魔導書ってどんなのがあります?」


女の子はこちらに顔を向けてじっと見てくる。


「…じゃあこれに手を置いてみて」


女の子はカウンターの下から手形の付いた石板を取り出す。


「?分かりました」


 なんだろう…どういう魔道具だ?

恐るおそる手を置いてみるが何も反応はない。


「…?」


「…なんだ、盗賊の類じゃないのね」


 盗賊?


「そうなると、そんなことを聞くってことは余程力に飢えてる?それとも狙ってる魔法でも?」


「いえ、ただ魔法が好きなだけです」


女の子は一瞬ポカンとしたが可愛らしく笑いを溢した。


「ふふ、ごめんなさい。そんな人会ったことなくって」


「気にしてないので大丈夫ですよ」


 大人になってから会う人みんなこんな感じの反応だし慣れたな。


「それで、予算外の魔導書ね。『最高の寝床を作る魔法』、『物を溶かす魔法』、『地面を操る魔法』の3つ。それぞれ小金貨1枚と大銀貨5枚、大金貨1枚、大金貨8枚よ」


 流石に高い!けど…


「どれもすごく面白そうな魔法…!」


 最高の寝床ってどういうことだ?何をもって最高なんだ?溶かすってどうやって?鍛冶屋で見るように鉄を溶かす要領で高温で溶かすのとはまた違うのか?んで地面を操るって…一体どこまで出来るんだろう…!


「ふ…面白そう、ね…で、さっきの4つの中からどれか買ってく?」


「じゃあ、『魔法の腕を作る魔法』をお願いするよ」


大銀貨4枚を取り出してカウンターに乗せる。


「…おすすめしないって言ったと思うけど?」


女の子は首をかしげている。


「正直全くイメージも出来ないけど、だからこそ気になるんだ!」


「んふ、そう。分かった。持ってくるね」


女の子は軽快な足取りで裏から魔導書を持って来た。

表紙には『魔法の腕を作る魔法(サロンメス)』と書かれている。


「はい、これが『魔法の腕を作る魔法』の魔導書。誰かに中身見られないようにね」


「ああ、ありがとう」


「私、イリュー。あなたは?」


受け渡し際にイリューはまっすぐ目を見て名乗る。


「ん、俺はアイン。Bランク探索者だ」


「アインね。覚えた。次からは最初みたいな敬語は無しね」


途中から魔法への興奮のあまり敬語を忘れていたことを思い出す。


「あっ…ああ。分かった。じゃあまたな、イリュー」


「ん。またね、アイン」


魔導書を抱いて駆け足で宿に戻る。


宿のベッドの上で魔導書を開き、読み通す。

読み終わると魔導書は魔素となって消えていき、書いてあった魔法がなんとなく使える気がするようになる。


「よし…『魔法の腕を作る魔法(サロンメス)』!」


試しに唱えてみると右腕の肩から半透明の腕が魔力で作られる。


「うわっこんな感じか…!」


魔法で作られた腕を軽く動かしてみてみるが、2本の右腕はどうしても同じ動きをしてしまう。


「…別々に動かすのは無理じゃないかこれ?それに…魔力消費きっついなこれ。もう結構使った感じするし…」


 イリューが言ってたとおり、持て余すのも分かるな。


「でも、すごい面白いな!もう少し…」


そうこう試行錯誤してるうちにいつの間にか魔力切れになり、そのままベッドの上で気絶するように眠ってしまった。


―――――


「いつも店番ありがとうねイリュー」


おばあちゃんが買い物を終えて戻って来た。


「ん。どういたしまして」


「…やけにご機嫌だね。何かあったのかい?」


普段通り本を読んでいるだけなのにおばあちゃんはニコニコしてそんなことを言う。


「別に、面白いお客さんが来ただけ」


「へぇ、どんなんだい?」


「探索者のフリしてる、魔法が大好きな貴族様」


「…アッハッハ!そりゃあ面白いね!」


おばあちゃんは一瞬ポカンとしていたが大笑いした。


「…それにしても、魔法が大好きなんて…何時(いつ)振りに聞いたかねぇ」


おばあちゃんは机に買い物袋を置いて、懐かしむような雰囲気でしみじみと言う。


「おばあちゃんはそういう人に会ったことあるの?」


「そうねぇ…イリューくらいの歳のころに会った子がそうだったわね。明日朝から遊ぼうって彼女から言ってきたのに、待っても待っても来ないから、迎えに行ったら夜通し魔法で遊んで魔力切れになっててね。玄関が開いたと思ったらすごいしょぼくれた顔して「ごめん無理…」なんて言ってきたこともあったわぁ」


おばあちゃんは思い出しながら嬉しそうに話す。


「えぇ…ていうか、魔法で遊ぶ?」


「えぇ、彼女にとって魔法は使うだけで楽しいみたいで、”やたらめったら魔法を使う”っていう遊びをしてたのよ」


「…兵士さんの魔力を増やす訓練でそういうのがあるって聞いたことあるんだけど…」


「そう…本来とても厳しいはずの訓練を小さい頃から遊び感覚でしてた彼女は、それはそれはすごい魔法使いになったのよ。お国の元で魔法の研究をして、その結果を皆に広めるために本を出したりもしたの。…元気にしてるかしらねぇ」


おばあちゃんは棚から一つ本を取り出して眺める。

 じゃあアインも、そんなすごい魔法使いになるのかな…


「あ、いけないいけない。今日はお魚買ってきたの。早くお料理しないと悪くなっちゃう」


「お魚!!?」


イリューは目にもとまらぬ速度で買い物袋を裏に持って行ってしまった。


「…もう、イリューはほんとにお魚好きね」


おばあちゃんは”魔法とは何か”と表紙に書かれた本の埃を丁寧に払って棚に戻し、イリューの後を追った。

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