ep.33 Bランク魔域〔轟風丘陵〕
ナザやレホウ、オプローの見せた魔法について考えていたらいつの間にか集会所の目の前に着いていた。
あれ、もう着いたのか。じゃあとりあえず受付で〔轟風丘陵〕の場所聞くか。
集会所の中は外見通りとても広く、かつ人の密度はルファトの集会所に劣らないほど賑わっている。
総合受付と情報受付があり、総合の方はどれも列が出来上がっているが、情報受付の方はまばらに人が居る程度だった。
情報受付でいいのかな?
「こんにちは」
「こんにちは。どういった用件でしょうか?」
受付の知的な男性は礼儀正しく話を聞く。
「〔轟風丘陵〕ってどこにありますか?」
「〔轟風丘陵〕ですね。お先にカードの確認をさせていただけますか?」
「はい。えーと…これで大丈夫ですか?」
「はいありがとうございます確認取れました。そちらの魔域はこの街の南西地区にございまして、この集会所の外側入り口を出て右の大通りをまっすぐ進むと分かれ道に轟風広場への案内の看板がありますのでその通りに行けば大丈夫です」
「出て右で看板ですね。ありがとうございます」
「お力になれて幸いです。他に聞きたいことはございますか?」
「…いえ、大丈夫です」
「では、良き探索を」
「ありがとうございました」
受付の男性は礼をして見送った。
どんな魔域か聞こうかちょっと迷ったけどやっぱり初めて行く魔域は何も知らないで行きたいよな。
看板の案内通りに進んでいくと荷物を背負った探索者らしき人と何度もすれ違う。
丁度帰ってきた人たちなんだろうな。Bランクはこの街だと結構居るんだな…
そして道に面したお店を見ながら歩き進めているうちに広場と、その真ん中に立つ石レンガの塔にたどり着いた。
「この塔の中に扉があるっぽい…ね」
開きっぱなしの入り口から中に扉があるのが見えた。
「カードを」
塔の入り口の横に立っていた門番が前に出てきてアインを止める。
「はい」
カードの確認なんてするんだな。今まではそういうのなかったけど。
「よし。良き探索を」
門番はカードの表裏を確認して返す。
「ありがとうございます」
門番は会釈を返して横にずれる。
さぁついにBランク魔域!魔導書が出る!楽しみすぎる!!
無風の中で靡いている草に覆われた門を通る。
通り抜けた先は草原の丘の頂上だった。
眼前には晴れの草原の丘陵が広がっている。
おお、ここが…
「ぶおわっ!?」
一足踏み入れた途端、とても息も出来ないような強風が右から吹き荒れる。
なんて強風…!
なんとか耐えようとするが体が浮きそうになるのを感じる。
っ!?飛ばされる!
「『壁』!」
風上に魔力壁を展開し風を防ぐ。
「ふーっ。あっぶねぇ…まさに”轟風”だな」
魔法使いにオススメっていうのはこうやって凌げるからなんだろうな。しかしもし魔法が使えなかったらどうするんだか…
「とりあえず中央に向かうか。…あっちか」
しかし気配が薄いな。かなり遠…
魔力壁を一緒に動かしながら進もうとした瞬間、突如壁の反対から同じ風が吹き始めた。
!?
一瞬訳も分からず魔力壁に叩きつけられる。
「ぐっ、『壁』!」
今度は自分を囲うように魔力壁を展開し全方位からの風を防ぐ。
「風向き変わるのかよ…いや、風ってそういうもんか…はぁ痛ってぇ…」
叩きつけられた肩をさすりながら先へ進む。
丘を降りて窪んだところまで来ると風の音が弱まった。
試しに魔力壁を解除すると強風ではあるが立っていられる程度になっている。
この感じなら魔法が使えなくても丘を避ければ行けそうだな。
「…でもそれだと中央まで途方もないだろうな。魔法使いにオススメとか言ってたけど魔法が必須じゃないか?これ…」
一つ丘を越えて2つ目の丘の頂上に立つと眼前の窪んだところに、平べったく滑らかな体で人間ほどの大きさの緑色のトカゲが這うような体勢で辺りを見回しているのを見つけた。
お、トカゲか。
一応見つからないように体を隠す。
さぁ初Bランク魔物だ!どういこうか…風系はこんな強風の中じゃかき消されるし…っていうか火も水も風に流されて当たらなくないか?
「ちょっと試すか。『火球』」
魔力壁の外側に生成された火の球は一瞬風に耐えたがすぐに消えてしまった。
まぁ消えるよね。でも一瞬耐えた…魔力を多く使えば頑丈になって耐えるかな?
「『火球』」
今度はさっきよりもかなり多めに魔力を使った同じ大きさの火の球を生成してみる。
すると火の球はさっきよりも遥かに長い時間風に耐えた。
「よし。これなら使える。水は…」
水の玉を生成しようとするが水を生成したそばから風に飛ばされて行ってしまって話にならない。
「…となるとここでは基本火で戦うのか。ちゃんと効いてくれるといいんだが」
さっきのトカゲの様子を確認すると相変わらず首を振って辺りを見回している。
ここからだとかなり魔力を込めなきゃ当たる前に消えるな…近づかないと。
後ろに回り込むようにして近づいていく。
しかしある程度近づいたところで気付かれ、トカゲはこちらに体を向ける。
「気付かれた!?」
結構横まで首を振ってたとはいえ真後ろの俺に気付くか…!
トカゲは素早く這い寄ってくる。
その手にとても鋭く大きなカギ爪が付いているのが見えた。
爪デカ!多分あれで攻撃してくるんだろうな…でも、あっちから寄ってきてくれるなら好都合だ。
「『火炎球』」
良い感じの距離を見図らって多量の魔力を込めた火の球をトカゲに向かって放つが、素早く避けられてしまう。
「ん、思ってたより速いな。『火柱』」
今度は避けられないようにトカゲの真下からトカゲを覆うほどの大きな火柱を発生させた。
炎に包まれたトカゲは少しもがいた後に動かなくなり魔素となって消えていった。
「うっし。Bランクも全く問題ないね。さて魔石は…あったあった」
大きさは手のひらに軽く収まる程度で、明るい緑色だった。
「ん?大きさの割に少し重いな?今までのはどれも大きさ通りの重さだったから変な感じだな。」
魔石を袋にしまって先へ進む。
丘を登ると頂上に宝箱があった。
普通に地面にあるんだな。
片手で持てるほどの大きさの宝箱を開けると中には畳まれた扇子が入っていた。
「なんだこれ?棒?それにこれ木じゃない…分からんけどとりあえず持って帰ろう」
扇子を袋にしまって立ち上がる。
その瞬間、人間ほどの大きさの何かが横から跳びかかってきた。
「びっ…!っくりした…狼か!」
跳びかかって来たのはグラデーションがかかった緑色の狼で、魔力壁を食い破ろうとしている。
辺りを見回すといつの間にか群れに囲まれていた。
風の音がすごすぎて足音が全く聞こえないのはちょっと怖いな。
「『火柱』」
とりあえず魔力壁に噛みついていた狼の足元から火柱を発生させる。
狼は鳴き声を上げて火柱から抜け出して距離を取る。
火柱をまともに受けた狼は体毛こそ焦げていたが致命傷には至っていなかった。
もっかいやるか。
「『火柱』」
今度は使用魔力をもう少し増やして範囲を広げた火柱を使い、さっきの狼を炎で包む。
狼は逃げようともがいたが範囲外に出ることは叶わず倒れ、魔素となった。
他の狼たちはそれを見て一目散に逃げて行った。
「うーん、消費が多いな…残りは逃げてくれて助かった」
魔石は緑トカゲのものより一回りほど大きく、グラデーションが入った緑色だった。
魔石を拾って袋へしまって先へ進む。
この消費のペースなら脱出門は早めに見つけておきたいな。
トカゲを何体か倒しつつ宝箱を開けていき、いくつかの丘を越えたところで少し高めの丘の頂上で座って少し休憩を挟む。
「ふう…こんな上り下りするのは久しぶりだな。軽く『強化』かけてるとはいえちょっと疲れたな」
右前方の少し遠い丘の頂上に門があるのを見つける。
お、あれ脱出門だ。
「あれ、狼だ。何してんだろ」
狼が頂上で辺りを見回し、すぐに降りて行ったのが見えた。
「んーっ…よしっ行くか」
一伸びして立ち上がり、また中央へ進む。
窪んだところで狼が集まっているのを見つける。
「狼だ。何して…っ」
人が食われていた。
「うっ…」
気分が悪くなり思わず声を出すと、群れている中で一回り大きく体毛の色が濃い個体がこちらに気付き、一瞬だけこちらを見つめたかと思えば一言吠えて群れを引き連れて去って行った。
「ふぅ…きついな」
両腕を欠損、脚と胴体は骨と背中の肉を残してほとんどが食べられている。
対して頭は血を浴びているものの綺麗に残っていて、瞳孔が開いている。
身に着けている服は布切れ同然になっていて元々どんな装備だったかも分からない。
何か遺品を持っていってあげたいが…
と、視界の端に何かがきらめいた。
そこにはロケットペンダントが落ちていた。
「あの人のか…?」
手に取り、開けてみると男性と女性が身を寄せて並んでいる精巧な絵が入っていた。
絵の男性と死体は同じ顔をしていた。
この人ので間違いないな…
「必ず持ち帰る」
死体を前に片膝を付き、ペンダントを握りしめて彼に宣言し、その場を後にした。
さっき見えた脱出門へ向かう。
道中、3匹の狼に襲われる。
「『火柱』」
今度は思いきり魔力を込めて火柱を発動、3つの青い火柱が狼たちを消し炭にした。
…さすがに青まで火力を上げれば一発で倒せるか。
魔石を拾って進む。
その後は何事もなく脱出門へたどり着き、〔轟風丘陵〕を脱出した。
魔域を出ると日が傾き始めるころだった。
まずは換金もそうだけど…これを届け出に行かないとな。
ロケットペンダントを手に集会所へ向かう。
「次の方どうぞ~」
「お願いします」
カウンターに魔石と出魔品を入れた袋とカードを置く。
「ありがとうございます~ふんふん…そしたら、全部換金で良かったですかね?」
「はい、大丈夫です」
「は~い」
穏やかな雰囲気の受付嬢はゆっくりと、しかし手際よく査定を終わらせる。
「じゃあこれで換金は終わりです~お疲れさまでした~」
受付嬢はカードとお金を手渡す。
「それとこれ…探索者の遺品です」
「…そう、ですか…ありがとうございます」
受付嬢はロケットペンダントを受け取ると一瞬、神妙な顔を覗かせたがすぐに笑顔に戻ってお礼を言った。
その笑顔はさっきまでと変わらないはずなのに辛そうに見えた。
「お名前とランクを聞いてもいいですか?」
「アイン、Bランクです」
「アインさん、遺品を持ち帰ってくださりありがとうございます。では、よい一日を」
「ありがとうございました…」
言い表せない足の重さを感じながらその場を後にし、そのまま宿に戻った。
「はぁ…」
魔域で死人が出ることは珍しくない…そう教えられてた。でも、いつしか認識が甘くなってたな…
「…俺がああなってた可能性だってあったんだ。気を引き締め直さないとな」
部屋に一人、拳を握って魔域への認識を今一度改めた。




