ep.30 Sランク
急いでナザの後を追って集会所に入る。
「ナザさん!洪魔って言ってましたよね…?」
受付へ向かうナザの背中に呼びかける。
洪魔という単語に周りの探索者たちがどよめきだす。
「洪魔だって…!?」
「冗談だろ?」
「待て、ナザだと?」
「この街で洪魔が起きる訳ないだろ」
「いつもの如く偽物だろ」
「本物だ…!」
「何?本物のナザ?」
ナザは足を止めて振り返る。
「ああ。もう少し…十数分したら起こる」
十数分…!?もう逃げる時間も…
どよめきはざわめきに変わる。
「やばいんじゃないか?」
「いやアイツが偽物の可能性も…」
「見たことあるって奴が本物だって」
「なんで洪魔が…?」
「ランクは?」
「おい誰か魔力察知に特化してる奴いないのか?」
「え、Aランク魔域だ…」
「誰かAランクって言ったか?」
「Aランク!?」
「おいおいマジかよ!!」
まさに混乱が起きようとしたその時。
「だが」
全く張り上げていないナザの二文字に探索者たちは鎮まる。
「安心していい。今回は私が居る。それに…この街に居る他のSランク達にも協力を要請する。みんなはいつも通り過ごしてくれ」
ナザの言葉にほとんどの探索者はほっと胸をなでおろして落ち着いたが、一部の探索者たちは沸き上がる。
「Sランクの戦いが見られるぞ!」
「あのナザの戦いを見られるなんて!」
「こうしちゃいられねぇ!洪魔が起きるのはどこだ!?」
「こいつぁ見逃せないな!」
温度差がすごいな…
沸き上がる探索者を見て若干引きつつそんなことを思うアインだったが、実は同じくワクワクしていた。
Sランクの魔法が見られるかもしれない…!
「…という訳です。上に報告だけしてもらったら後はいつも通りで大丈夫です。それでは」
呆然としている受付嬢にそれだけ言い残してナザは外へ出ていく。
沸いている探索者たちは我先にとそれを追っていった。
更にそれを追おうとした瞬間、誰かに後ろから手を取られる。
「?誰…」
振り返った先に居たのはナザだった。
「え!?ナザさん!?今出て行ったはずじゃあ…」
「あれはダミーさ。彼らを安全な場所まで誘導するためのね。さぁ行こうか」
「え?行くって…」
ナザがにこりと笑い、目を閉じた次の瞬間、草原に立っていた。
さっきまで感じていた集会所の空気、木の床の感触が一瞬にして草原のものに変わってしまった。
は?
「な、何が…さっきまで集会所に…ていうかここは…?」
辺りを見回すと壁と門が少し遠くに見えた。
「ここはルーツの東門を出たところさ。そして…そろそろだ」
ナザは街とは反対の方向へ体を向ける。
そろそろって…?
「…ッ!?」
今まで感じたことの無い大きさの魔力をナザが向いた方向の森から感じる。
「感じたようだね」
「これが…洪魔ですか?」
「そう。Aランク魔域のね」
「え…」
「それと、洪魔の場合、溢れてくる魔物は長生個体がほとんどだ。つまり最低でも1ランクは上だと見てもいい」
「…ってことは…」
「魔物はSランク級だ」
前方の森から青い火柱が立つ。
目の前で大太鼓が鳴った時、体で音を感じるように、とてつもない魔法の力を体で感じる。
あれが…Sランクの魔法…!!
「全く…寝てるとこ呼びつけておいて…ナザ、お前がやるのか?」
後ろから急に声がして振り返ると青い外套を纏った至極眠そうな顔をした男性が立っていた。
呼ばれたってことはこの人もSランク探索者!
「ナザ~~!!」
次の瞬間ものすごい風圧と共に現れた金色の鎧を着た女性がナザに飛びつく。
「うわっ!」
風圧に耐えきれず尻もちをつく。
ナザは女性の頭を片手で押さえる。
「急に呼ぶからデートかと思って急いだのに!ひどい!」
片手であしらわれた女性は怒りを露わにしている。
今走って来たような…?でもあんな風圧って人間に出せるのか?いや、Sランクなら出来るのか…
「はっ、相変わらずだなオプロー」
「はぁ?私の愛を何笑ってんのよこの青寝坊助っ!」
オプローと呼ばれた女性は男性の頭めがけて蹴りを当てるが、優しい音を立てるだけだった。
今蹴っ…た?見えなかったし音があまりにも弱々しい…魔法の気配はしたし魔法だな。一体どんな魔法を使うんだろう…!
「おーおー怖い怖い」
「うえ~アンタのそれ、いつやっても気ん持ち悪いわ」
オプローは男性に悪態をついてナザの元へ行った。
「ところで…君は?」
「アインです」
「アインっていうんだね。僕はレホウ。よろしく」
レホウが差し伸べた手を取って立ち上がる。
「アイン君は私が連れてきた見学だ。守ってやってくれ」
「はいよ」
「任せて!対価は”ルーツを歩く”公式のオススメスイーツ食い倒れデートね!」
レホウはマジかこいつと言った目でオプローを見る。
オプローはそれにすぐ気付いて睨み返す。
その様子にナザはため息をついた。




