ep.27 ルーツへ
「それでは全部合わせて小銀貨1枚と大銅貨5枚になります。お受け取り下さい」
いつものごとく〔炎熱の坑道〕に行き、昼食前に換金を済ませる。
受付のレックから報酬を受け取る。
「ありがとうございます」
〔坑道〕も随分慣れてきたな。昼飯食べたらもう一回行こうかな。
「それとアイン様、指名での護衛依頼が届いております。今お時間よろしいでしょうか?」
「あ、そうなんですね。時間大丈夫です」
「では奥で説明がございますのであちらの職員用扉から中へお入りください」
「分かりました」
扉を抜けた先で待っていたレックに応接室へ案内される。
応接室は少し豪華になっていて特に家具に力が入っている。
「どうぞ、こちらにお掛けになってください」
レックは見るからに良さそうなソファを手で指して案内する。
高そう…
「失礼します…!」
わっ凄いフカフカ!
「では今回の指名依頼の説明をさせていただきます」
レックは机を挟んで対面に座り、持っていた紙を机に広げる。
「まず依頼者は卸商人のリュドゥ様で、内容はここより北の街、ルーツへ向かう道中の護衛依頼となっています。3日後から開始で、期間は10日間程度になります。また、道中の野営の物資は全て依頼者負担になります。なお、道中は一番後ろの荷台に乗っていただく形になります。そして報酬は大銀貨4枚になります。説明は以上になります。質問はございますか?」
3日後からか。しかし物資負担してくれるの凄いな…そんでもって報酬思ったより多いな。
「…いえ、質問は特にないです」
「では本日は以上になります。では当日の朝、またこちらの受付に来ていただくようお願いします」
「分かりました」
「では出口までお送りします」
レックが先に立ち上がり先導する。
こういう扱いされるの初めてだな。なんかこそばゆい…
「では3日後、お待ちしております」
「はい。ありがとうございました」
レックは礼をしてアインを見送った。
母さんから高ランク探索者は権力を持つこともあるって聞いたことあるし、こういう扱いもランクが上がったからなのかな…
「…さて、飯食って〔坑道〕行くか」
ー出発当日の朝ー
「エリルーアさんおはようございます」
「あらアイン君おはよう。今日なのね?」
「はい。この後発つ予定です」
「じゃあお代は…
…はい。ちょうどいただきました」
「短い間でしたがありがとうございました」
感謝を込めて礼をする。
「いいのよそんなぁ。礼儀正しい子ね。じゃ、主人にも顔見せて行ってあげてくれる?あの人あんなんだけど実は寂しがり屋なの」
冗談めいた感じで寂しいとか言ってたけど本当のことだったのか…
「分かりました。では」
「ええ。元気にね」
玄関を出て振り返って宿を見上げる。
軽くなら魔法を練習出来る場所もあるしベッドは寝心地良いし美味しい飯屋が目の前だしですごく良かったな。
向かいの”熊の背”に入る。
店内は相変わらず空いた席は数える程度しかないくらいには繁盛している。
「おうアイン!少し待ってな!」
ベールズは相変わらずこちらを見ることなく背中越しに言う。
本当にどんな魔法なんだか…
少ししていつもより少し輝いて見える料理が運ばれてくる。
?なんか…
よく見ると淡い水色の小さな粒がメインの肉に掛かっている。
「お?違いが分かるみたいだな!最後ってことでいつもより良いモン使ってるからな!」
「へぇ…」
早速メインの大きな肉を頬張ると肉の旨味たっぷりの肉汁が溢れ出し、何とも言えない良い香りが鼻を抜ける。
これは…!
「美味…!えっすご…」
舌鼓を打つ様子にベールズは満面の笑みを見せる。
「だろ?出発まで時間はあるだろうし、ゆっくり食べていきな!」
ベールズは肩を優しく叩いて厨房へ戻っていった。
あれ?ぶっ叩かれなかったな…まぁ今はそれより食事に集中しよう!
「ふわぁ~…美味かった…」
食べ終わって余韻に浸っているといつも通りベールズがやってくる。
「最後ってことでウチが出せる最高の素材で腕によりをかけて作ったんだ!どうだ美味かったろ?」
「ああ、あんな美味い肉やパン、今までに食べたことない」
「満足してもらったようで何よりだ!それと今日はお代はいらんぞ!」
「え!?いやいやあんな良いものなんだから高くつくと思うんだが…」
「Bランク昇格祝いと最後ってことで!じゃ、元気で、な!!」
ベールズは渾身の力を込めてアインの背中をぶっ叩く。
予め予見していたアインはすでに『身体強化』を施していたが…
「痛っっったァ!」
『強化』込みでこの痛さは殺しに来てるだろ!
「ハッハッハッ!今のを痛いで済ませられるなら上々だ!」
「そうかい…んじゃ、いつか戻ってきたらまた来るよ」
「ああ、頑張れよ」
ベールズと握手を交わし、”熊の背”を後にした。
「よっ。あんたがアインだな。よろしく頼むよ」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
集会所受付で手続きを済ませてから集合場所の北門でリュドゥと顔を合わせる。
荷車大きいし多いな!
「そんな硬くしなくていいよ。おーい!彼が今回の護衛のアインだ」
準備をしていた大柄な御者が駆け寄ってくる。
「やぁ、俺はテレンバ。よろしくねアイン君」
「よろしくお願いします。テレンバさん」
「ほう、若いのに随分礼儀正しいんだね」
「母に教わりました」
「ふむ…まぁ俺らは礼儀なんて気にしないしむしろ硬いとやりにくいからさ。適当でいいよ!」
テレンバは握手を求めて手を差し伸べる。
「じゃあ…分かった。崩してやらせてもらうよ」
テレンバと握手を交わす。
「じゃ、アインはあっちの荷車に乗ってくれ。もうすぐ発つぞ」
「分かった」
荷車には寝っ転がれるように大きな布に草が詰まったものが置いてあった。
おお!これはありがたい!
触って見ると上等な布でこそないが柔らかく、十分心地よい。
この街に来る時は硬い木の板の上で座るか寝るかしてたからな…
高い笛の音が鳴り響く。
「お、出発か」
次第に荷車が動き始める。
ルーツ…Sランク魔域もあるという大きな街らしいが…どんな街なんだろうか。
1日目2日目はこれで報酬を貰っていていいのかと思うほどに何事もなく順調に進んでこれた。
道中は荷車の中で出来る程度の小さな規模の魔法で遊んだり、リュドゥやテレンバと色んな話をして過ごした。
森の隣に敷かれた道をゆったりと進む。
「そういやぁアインはどこの生まれなんだ?俺はルーツの生まれなんだ」
リュドゥは慣れた手つきで馬を操りながら、隣に座るアインと雑談をする。
「俺はフィンクスっていう南の村の生まれだ」
「フィンクス…行ったことないな。というか南の方はあんまり行かなくてな。やっぱり暖かいから花が綺麗だったりするのか?」
「他を知らないから分からんが多分そうだな。母さんが作る服にはいつも花が付いてたし」
「花が付いた服…ってことはもしかして母親の名前はラミだったり…?」
「ん。そうだね。知ってるんだ?」
「おいおい知ってるも何も、ラミさんの”花を着る”シリーズはルーツで大人気だぞ!」
リュドゥは目を輝かせて話す。
「へぇそうなんだ」
ずっと服作ってるなとは思ってたけど…そんなすごかったのか。
「北の方じゃ見られない暖かい色の花があしらえられた服は珍しくてね。すごい売れてるんだ。それで真似しようとした奴らも居たけど…どうも花を服にくっ付けるのが上手くいかない上にどうにかしてくっ付けてもすぐに枯れるから断念したって聞いたよ。対してラミさんのものは引っ張っても取れないようにちゃんと裁縫されてるし、何故だか花がずっと枯れないんだ。ルーツが誇る職人でも真似できない、まさに唯一無二のブランドさ」
リュドゥはラミの息子を前に興奮してペラペラと喋り倒す。
花の裁縫は母さんの固有魔法の『裁縫』だろうな。そりゃ真似できる訳ない。でも枯れないってのはどういうことなんだろ…いつか帰った時に聞いてみるか。
「おっとすまん。俺ばっかり喋ってたな」
「いやいや、むしろ母さんの服が褒められてて嬉しいよ」
「こいつぅ可愛いこと言いやがって」
リュドゥが頭を雑に撫でてくる。
「あわわわ」
「…家に帰った時に伝えてくれよ。「貴方の服のおかげで家族が明るくなりました」ってさ」
リュドゥは思いにふけるように遠くを見て言った。
「ああ、必ず」
突然、金属を叩く音が2回鳴り響く。
!2回鳴らすのは右方向からの襲撃の合図だったな。
「襲撃だ!頼んだぜアイン!」
リュドゥは馬を止める。
「分かった。『強化』」
操縦席から飛び降り、森を前に構える。
さぁ何が来るか…
樹をなぎ倒す音が響き、次第に重い足音も聞こえてくる。
森から姿を現したのは4メートルはあろうかという大きさの熊だった。
「魔熊か。デカいな…」
熊はアインを見るや否や一直線に向かってくる。
「『放炎』」
正面から容赦なく火炎放射を浴びせる。
火を浴びた熊は声を上げてUターンして射程外まで退こうと背を向ける。
「『嵐刃』」
四つ足を刈るように『嵐刃』を放ち、熊の四肢を断つ。
首を断つために横にひとっ跳びして手を構える。
魔熊は短くなった四肢でもなんとか逃げようと横に立つアインに目もくれず芋虫のように必死にもがいている。
「…悪いな。『嵐刃』」
首を断つ。
「ほ~流石だな。あの大きさの魔熊をちょちょいと…ベールズが言うだけあるな」
四肢を断たれてもなお生きようとした熊の顔がありありと思い出される。
…魔動物の駆除は村で何度もしてきた。それでも…慣れはしないな。
「ふぅ…この熊はどうします?」
「ああ、ここでさっと解体して持っていく。解体はこっちに任せな」
すでにテレンバが解体用の大きな包丁を持ち出して来ている。
「おう任せな!」
「分かった。じゃあ俺は他の魔動物が血の匂いに寄ってこないか見張るよ」
「助かるぜ」
あっという間に解体を終えて毛皮や爪などを荷物に追加する。
「あとそれだな」
テレンバは袋に包まれた頭部を指差す。
「頭そのまま持っていくんだ?」
「ああもちろん。盾飾りにしたものが貴族に人気だからな」
村じゃ頭も割って余すことなく何かに使ってたような気がするな。…一回見たっきりだからうろ覚えだけど。
「よし!これで全部だありがとな。さぁ行こう」
「ああ」
さっきと同じようにリュドゥの隣に座る。
「全く大したもんだな。あの大きさの魔熊を一人でささっと仕留めるとは」
「魔動物の相手は村でやってたから慣れてるだけだよ」
「村でも狩りは一人でか?」
「いや、ある程度までは大人が付いてきてたしそれ以降も誰かと一緒だったな。俺は罠作りが得意なスーナって奴と行ってた」
そういえばスーナ今何してるかな。
「罠師か。まぁだろうな。アインに前衛を合わせてもそいつの出番が無いしな」
「まぁそうだったな」
一回組んだ時も荷物運びになってたし…
「で、スーナってのは女か?」
「ん?そうだけど」
「女と二人で山に行ってナニかが…?」
リュドゥはニヤニヤしながら肩を寄せてくる。
「…あるわけがないだろ。狩りに行ってるんだし、危険な魔動物が潜む山で悠長なこと言ってられるか」
「なんだぁつまんないの」
それにスーナにはあいつが居たしな。あいつも元気かな。
「なんか暇つぶしになる浮ついた話とかない?」
「浮ついた話限定かよ」
「ははっ冗談冗談。そういえば知ってるか?あのー




