ep.26 兄妹
Bランクになって数日後…
〔坑道〕へ行った帰りに昼飯を”熊の背”で済ませる。
「ああそうだアイン!そろそろ護衛依頼が出ると思うから準備しときな!」
お代を渡している最中にベールズは思い出したように言う。
「ん、分かった。いつでも出られるようにしとくよ」
つってもお金くらいしか準備するものないけどね。まぁそれも元々少しあったし最近は〔坑道〕ばっかり行って稼いでるから大丈夫だと思うけど。
「そろそろお前の成長が見られなくなるのが寂しいぜ。んじゃ、最後までうちで食ってけよ!」
ベールズはアインの背中を叩いて厨房へ戻っていく。
「ああもちろん」
思い返せば…ここ以外で食べなかったな。美味いしその時欲しい量が出てくるしで他の所には行く気にもならなかったな。
その後換金しに集会所へ行くもまだ依頼は出ていなかったため、午後も魔域へ行くことにした。
今回魔力がちょっと少ないしローブも気付いたら結構ボロくなってきてるし…次は〔坑道〕じゃなくて〔森〕に行くか。
「ん…?あれ?アイン!久しぶりだな!」
「久しぶりね!元気だった?」
〔濡れ森〕へ向かう道の途中、見覚えのある男女に話しかけられる。
「…あっ!リクトにリリアか!久しぶり」
話しかけてきたのは最初に〔濡れ森〕に行った時に会った兄妹だった。
「ここで会ったのもなんかの縁だし一緒に行かないか?」
「ああ良いぞ」
特に断る理由もないしな。
「ありがとう。優秀な魔法使いが居ると頼もしいよ」
リクトは何かわざとらしくリリアの方を見て言う。
「え?ここにも優秀な魔法使い居ますケド?」
リリアはムッとした様子を見せる。
「優秀なら間違えて僕に向かって魔法撃たないだろ?」
「はぁ?アンタが当たりにいったんでしょ!?」
「いーや当たりになんかいってないね」
「む~…アイン、こんな奴ほっといて二人で行きましょ?」
リリアは歩きながら肩を寄せてくる。
「こんな奴とはなんだこのやろ!」
「はは…仲良いんだな」
「どこがだ!」
「どこがよ!」
2人は口をそろえて抗議した。
そういうところだよ…
「ね、ちなみにどこまで行った?なんと私たちはね、最近なんか中央っぽいところまで行ったのよ!今みたいにジメジメしてなくて、なんか乾いてるの!」
3人で〔濡れ森〕を進みながら雑談を挟む。
それは確かに中央の近くだ。多分中央の魔力を感じることなく行ったのかな?すごいな。
「おおすごいね!ヌシは倒した?」
「いや、結局見つけられず終いだったんだ。リリアが魔力切れになってね」
「いやリクトだって「もう限界…」とか言ってたじゃないの!」
リリアは大袈裟にしょぼくれた顔真似をする。
また兄妹喧嘩が始まろうとする。
「まぁまぁ…」
「ん…それでアインはどこまで行ったの?」
「俺はヌシ倒すところまで行ったよ」
「…」
「…」
兄妹は足を止めて固まる。
「…えっと?ヌシを倒した?」
リクトは確認するように聞いてくる。
「ああ。ヌシの焼石蜥蜴を」
「つまり…今Cランク…ってこと?」
リリアは恐るおそる尋ねる。
「いや、つい最近ランクアップして今はBランクだね」
「…ははっ。最初に会った時から余裕さが違うとは思ったけど…器が違ったか」
「…本当にすごいわ。おめでとう!」
「ありがとう」
進行方向から何体かの歩き木の足音が聞こえる。
「お、歩き木か…」
兄妹は無言で顔を合わせて頷く。
「…アイン、不躾なお願いかもしれないが、戦いぶりを見せてくれないか?長い事Dランクでやってきたし生活も安定してるが…俺たちも探索者として、上を目指したい!そのために”上”である君の力を見たいんだ」
「お願い!」
兄妹は揃って頭を下げる。
〔濡れ森〕なら大抵は『風鎌』で倒せるから戦いぶりも何も無いんだけど…
「あんまり参考にならないと思うけど…いいよ」
「「ありがとう!」」
足音に近づいていくと鳥の羽音も聞こえてくる。
木陰から様子を見ると歩き木が4匹固まって歩いている頭上に黒鳥が何匹か飛び回っている。
「む…」
歩き木と黒鳥で一緒にいるのか…どうしたもんか…
「ね、ねぇ流石にあの数は…」
「…危なそうだったら加勢しよう」
アインの後ろで兄妹は聞こえないよう小声で話し、いつでも加勢できるよう構える。
『暴風』で鳥を散らしてから『風鎌』で前の奴らを倒して、後は短剣でやるか。リクトも居るから魔法だけじゃなくて近接も見せた方が良いよな。
「よし。『身体強化』、『暴風』、『風鎌』」
短剣を逆手に持ち、矢継ぎ早に魔法を発動して思い描いた通りに戦闘を始める。
前を歩いていた2匹を両断する。
こちらに気付いた残りの歩き木2匹が迫る。
思いきり踏み込んで片方の懐へ飛び込み、胸を貫く。
もう片方が攻撃するより先に、刺した短剣を抜く前に順手に持ち替え、抜く動きの流れでそのまま胸部を高速で斬り削り、奥にある核を露出させてそのまま破壊すると魔素になって霧散した。
よし…
最初に胸を貫いた歩き木が魔素にならずに腕を振り上げる。
「あ!?」
振り下ろしてきた腕を避ける。
「『風鎌』!」
『風鎌』を貫いた痕を横に切るように当てるが動きは止まらず横殴りを繰り出してくる。
なんだ?核はあそこのはず…
「フンッ!」
横殴りに合わせて拳をぶつけて腕をバラバラにする。
おっこれなら…
「オラッ!」
胸部を殴り、胴体に大穴を空ける。
歩き木は魔素になり霧散した。
「ふぅ」
核の位置を間違えてたかな?でもまぁ胸ごと吹き飛ばせば関係ない。
飛ばされた黒鳥たちが鳴き声を上げて前方から突撃してくる。
「来たな。『鈍化』」
視界に映る黒鳥全部に魔法を掛けて地面へ落とす。
「『乱風刃』」
目の前に転がる黒鳥に風の刃を降らせて倒す。
これで全部か。
辺りを見回して安全を確認する。
「こんなもんだけど、どうだった?」
後ろの樹の陰に隠れている兄妹に声をかける。
兄妹は一瞬ポカンとしていたが気を取り戻して陰から出てくる。
「いやぁ…流石というかなんというか…うん、今まさに目標が出来たよ」
「私も…っていうかなんであの数に『鈍化』掛けてられるの?抵抗が凄くてすぐ解けないの?」
「『身体強化』使ってるからあれくらいなら全然…」
「『身体強化』…そっか…練習するわ。ありがと」
「そうかあの速度は魔法で強化してたからか。あんまり使ってなかったけど僕も練習した方がいいよな…」
「そうだね。力が強くなるだけじゃなくて少しは硬くもなるから使える方が良いと思うよ」
「…僕、固有魔法使いたいんだけどそれの魔力消費が結構あって…それで『身体強化』あんまり使ってなかったんだけどやっぱり固有魔法より『身体強化』の方が大事かな?」
消費があるってことは複雑、あるいは強力なものなのか…聞きたいけど濁してるからここは我慢…
「俺としては『身体強化』は使って損はないと思うけど…どっちも自由に使えるくらい魔力を増やせばいいんじゃない?」
「んん…まぁ…そりゃそうなんだけどさ…」
リクトは眉間にしわを寄せている。
「ま、地道にやっていくしかないわよね?」
リリアが横から入り込んでくる。
「その地道にってのが嫌いなんだよなぁ~…」
「上を目指すのに嫌いとか言ってられないでしょ!ねぇ、アインはどうやって魔力増やしたの?何か特別なことはしてるの?」
リリアは興味津々な様子だ。
「別に、そんな特別なもんじゃないと思うよ。気が済むまで魔法を使って、食べたり寝たりして回復したらまた魔法を使って…そうやって魔力を増やしたね」
兄妹の顔に恐怖が垣間見える。
「…それ、頭が疲れて魔法使えなくならないの?」
「あんまりやってるとなるね。そうなったらちゃんと寝たり、ぼーっとしたりして休む。で、スッキリしたらまた同じことの繰り返し」
「嫌になったりしないのか?」
「全然?楽しいからね」
アインの答えにリクトはため息をつく。
「…Bランクにもなる理由が分かったよ…」
「…」
兄妹は元気のない様子だ。
俺が魔力感知出来ることを知った時のワフィカみたいになっちゃった…
「…よし!僕はCランクを目指すぞ!」
「…私も目標が出来たわ!」
目の前のBランクの高みを前に、リクトは割り切ってCランクを目標に定めた。
「おお…」
浮き沈みが激しいな…
「じゃあアインありがとう!ね…戦いを見せてくれたお礼は何が」
「魔法で」
リリアは胸元を見せるように首元の襟を引き下げながら言うが、関係なく即答する。
『鈍化』を教えてくれたし期待しちゃうな!
「…まぁそうよね。じゃあ、『温暖』なんてどう?」
「知らない魔法だ!それで頼む」
「この魔法は対象に手で触れながら唱えることで対象を温める魔法よ。こんな感じでね…『温暖』」
リリアがアインの肩に手を添えて唱えると上に着ている服が温まる。
「おお!」
服だけなら『温か服』があるけど対象って言ってたしこれなら寝床とかも温められるのか?
「この魔法は野宿する時とか寒い時に寝床に使うと温かくして寝れるから最高よ。イメージがしにくい、というか私はしてないからその分魔力を使うけど、多いって程じゃないから安心…ってアインなら魔力量の心配はいらないか!」
リリアはアインの肩を軽く叩く。
これ手にやったらどうなる?
「『温暖』」
手を合わせて唱えてみると手首から先だけが温かくなる。
「おお~!これなら指先が冷えて辛い時にも使えるな!」
「火を出さなくていいってのは便利だよな」
…暑い。
寒くもないのに服と手に使ったがためにどんどん暑くなってくる。
「あの、これ解除は出来る?」
「んーん。でも普通に水とかで冷やせるわ」
「ああそうなんだ。『水』、『冷霧』」
手を洗うように水を出して冷やし、服は霧で冷やす。
『温か服』だと濡れても温かいままだったけど、そこは違うんだな。
「じゃ、これアインが倒した奴らの魔石」
魔法を教えてもらっている間にリクトは魔石を拾い集めてくれていた。
「お、ありがとう」
「よし、先へ行こう。それと…アイン、悪いんだがこの先は出来るだけ手助け無しで頼めるか?アインがやると僕らが居る意味がなくなっちゃうから…」
全部俺が倒してたら取り分も無くなるしな…後ろで見てて危なくなったら助けるか。
「それだとアインは私たちに付いていくだけになっちゃうわ。いっそのこと、ここで別れるのは?」
「う…まぁそうした方が僕たちもアインもそれぞれ稼げるしそっちのがいいよな…」
まぁ長い事ここでやって来たって言ってたし俺いなくても大丈夫だよな。
「そういえば、中央近くの魔物は大丈夫だった?」
そいつらが厳しそうなら付いて行ってあげたいが…
「ん、ああ。上位種は問題なく倒せてるよ。さっきみたいに群れられたら危ないと思うけど」
「だったら大丈夫そうだな」
あとは長生個体だけ怖いけど希少な存在だしそれはいいか。
「リクト楽しようとしてたでしょ?全く情けない…」
「は?別に楽しようとはしてないが?ただ居てくれると心強いと思っただけだが?」
「それも同じく情けないわよ。自信ないってことじゃない」
「う…でもリリアだって居てくれたらいいなとは思ってるだろ?」
「贅沢を言えばね?でもこれから本格的に上を目指すってのにそんなんじゃダメでしょ?」
「…そうだな。じゃあアイン、ここまで一緒に来てもらって何だがお別れでいいか?」
俺は別について行っても良かったけど…ローブなら別の日でもいいし。でも…
リリアはまっすぐ意志の灯った目をしている。
あんな目をしてるところに邪魔しちゃ悪いな。
「ああ。いつも一人だから楽しかったよ。無理しすぎない程度に頑張ってな」
リクトは握手をしようと手を差し伸べる。
「そちらこそ。じゃ、元気でな」
手を取って握手を交わす。
「ねぇアイン。Bランクになったってことは別の街へ行くんでしょ?どの街へ行くの?」
「ルーツっていう大きい街だよ」
「ルーツ…ね、アイン。きっと…きっと追いつくから。私のこと、覚えてて」
リリアはアインの手を取り、力のこもった目でまっすぐ見つめる。
綺麗な目…
「…もちろん忘れないよ。なんたって『鈍化』と『温暖』を教えてもらったからね!」
「…ふふっここでも魔法なんて、どんだけ魔法が好きなのよ」
「そりゃ、一番さ!」
笑顔で決めるように言い放つと、場は笑顔に包まれた。
―――――
「…リリア、僕はアインなら手放しで応援するぞ」
魔域を歩き進めながら切り出す。
「…は?急に何?」
「ん?さっきのからしてアインのことが好きなんじゃないのか?」
「は!?違うし!」
「えぇ?じゃあ何だったんだよ」
リリアは足を止めて胸の前で両手を握る。
その様子を見て足を止める。
「…魔力を増やすあの訓練を楽しくこなしてたって聞いて、ああ、魔法の天才は居るんだ。って思ったの」
「ああ、アレを楽しくなんて、住む世界が違うよな」
「でもそれを知って…”目覚め”が来ない私みたいな、天才とは反対の自分はどこまで頑張れるんだろうって思った」
「…」
苦い話に口をつぐむ。
「あの天才に追いつけたら…追い越せたら…!見返してやれる…!」
リリアは歯を食いしばる。
やっぱりまだ…
辛そうな表情を見せるリリアの背中にそっと手を添えてあげる。
「……辛いぞ」
「…分かってる。でも、決めたの。私もルーツに行けるくらい強くなって、追いついて…師匠って呼ばせてもらって、いつかきっと追い越すって」
「…僕も一緒に頑張るよ。リリア、二人でアインを追い越そう!」
「ん…ありがと。…頼もしいじゃん」
「ま、お兄ちゃんだからな!」
胸を張って意気揚々と答える。
「…本当にありがとうね…お兄ちゃん」
「…!」
お兄ちゃんって何年ぶりに…!?なんか恥ず…
ア”ーー!
ア”ァーー!
気付けば大量の黒鳥に囲まれていた。
「いつの間に!?リリア!」
「任せて!『身体強化』!『鈍化』!んぎぎ…!キャッ!」
リリアは目に視界内の飛んでいる黒鳥に『鈍化』を掛けるが抵抗に耐えきれず解けてしまう。
リリアは反動で尻もちをつく。
「これは…やばいな?」
一瞬『鈍化』を掛けられた黒鳥たちは落ちかけるが持ちこたえ、怒って突撃してきた。
怒りは伝播し、様子を見ていた他の黒鳥も一斉に襲い掛かってきた。
「さすがに無理だってぇぇ!!」
リリアを担いで一目散に逃げだす。
「ごめんリクト!『風刃』!『風刃』!『風刃』!」
リリアは迫りくる黒鳥に『風刃』を当てて落としていくが処理が間に合わない。
足に自信はあるけど流石に鳥に走り勝つ自信なんてない!やばいやばいやばい!どうしよう!
「『風…あれ?もう追ってきてない…?」
「え?」
速度を緩めて後ろを見ると一羽たりとも追ってきていなかった。
「なんでだ…?明らかに怒ってたのに…」
「…縄張りの概念があるとか?」
「ん~…分かんないな…ていうかそれより!なんでいつもの『旋風』じゃなくて『鈍化』にしたんだよ!」
「だ、だって!アインがそうやってたから…」
「急にあの数相手に試すんじゃない!危なかったじゃないか!」
「…ごめんなさい」
「全く…」
リリアは目標に盲目になるというか考えが浅いところがあるんだよな…
「…でもリクトもあの数くらいは捌けるようにならないとだよ?」
「剣握ったことないからって簡単に言ってくれるな…アレを長剣で捌けたら苦労しないわ!だったら『鈍化』であの数くらい止めて見せろって話!」
「はぁ!?くらいって何よ!どんだけの力がかかると思ってんの!?それに『身体強化』だって難しいんだからね?ぜーんぜん魔法使わないから分かんないだろうけど!」
「なんだその言い方!」
「そっちこそ!」
…
「ははっ、仲のいい兄妹だこと。あの子は良い心意気だったけど…まだ未熟だったね」
〔濡れ森〕にてナザと背の低い女性が並び立っている。
「…急に連れて来られたから何かと思えば〔濡れ森〕って」
「悪いね。クトラの固有魔法が最適だなって思って」
「こんなとこならあたしの固有魔法なんて要らないでしょ?」
「いや、バレない方が良くてね。私がやると派手になるから助かったよ」
「フン…ちゃんと礼はしてもらうからね。それで…まさかコレ拾うの手伝えなんて言わないわよね?」
2人の目の前には落ち葉のように散らばった無数の黒鳥の魔石があった。
「そのまさかを言ったら?」
「…礼は10倍にしてもらうわ」
クトラは刺すような視線をナザに送る。
「ははっ怖い怖い。冗談だよ」
ナザが片手を軽く振るうと散らばった魔石がひとりでに集まり、目の前で一つの塊になる。
浮いている塊を手に取る。
「手を」
「ん」
クトラがナザの手を取るとあっという間にその場から消えてしまった。




