ep.21 竜巻
―数日後―
「おや!君はいつぞやの!」
ここ数日間と同じように体を鍛えるため街の外周にやって来たところ、この前鍛錬をやりすぎてしまった時に介抱してくれた衛兵、バーラズに出会った。
「バーラズさん?」
あれ?巡回は夜って言ってたような…
「どうも最近街の近くでの魔物の発見報告が多くてな。昼間でも巡回する日が出来たのさ」
「へーそうだったんですね」
「てなわけでお前も気をつけろよ?昼間だからってまたぶっ倒れるまでやっちゃダメだからな!」
バーラズはすれ違いざまに頭をポンポンして行った。
単純に魔物が増えてるのか…それともまさか間引きが出来てない魔域が近くにあるとか…?
「まぁそれはないか。じゃ、やりすぎないようにだけ気を付けるか。『身体強化』」
全身にいつもより少しだけ多く魔力を流して外周を走る。
「ふぅっ、こんなもんかな。はぁ」
力を入れると軽く軋む程度で一旦走るのをやめる。
「じゃあ次は、『壁』」
『魔力壁』を生成し、さらに魔力を追加して硬度を増す。
軽く叩いて硬度を確認する。
うん。良い感じ。
「『強化』」
右腕に大量の魔力を流して強化する。
強めの痛みが襲う。
「うっ、オラッ!」
『魔力壁』にヒビが刻まれる。
右腕に割れたような痛みが走る。
「フゥゥゥ…もういっちょ…!『強化』っ!」
今度は左腕で同じことをする。
『魔力壁』は耐えきれなくなり崩れ、魔素になっていく。
「いっっっ…てぇ…」
痛みのあまり腕に力が入りにくいがなんとか握りこぶしを作る。
「うん…でもここしばらく続けてマシになって来てる…かな?」
突然、草原の方から突風が吹き荒れる。
「うおあっ!?なんだ!?」
風に体が持っていかれそうになるがなんとか耐える。
突風が止み、吹いてきた方向を見ると少し遠くに何かが居るのを視認する。
あれは…?
それが何かを確認しようとするがまた突風が吹き荒れる。
「『壁』!」
『魔力壁』を展開し、風を凌ぐ。
「なんなんだ…!?ん?人…?フード被ってるっぽいな」
そいつはアインが『魔力壁』で風を凌いでいるのを見て両手で何かを巻くように動かすと、大きな竜巻が発生した。
「デカい!『旋風』とはまた違う…ってこっちに来てる!」
この大きさと吹き荒れる風の強さ的にこのまま街に行ったらマズイことになる!
「『魔力壁』!」
大量の魔力を使い、街を囲う壁よりも大きな『魔力壁』を展開する。
竜巻は『魔力壁』にぶつかると勢いが落ちていくが、巻き上げられた石や砂利によって『魔力壁』もどんどんと削られていく。
耐えられないか!?
その様子を見て魔力を追加して補修、増強する。
勢いが衰えない竜巻は補強したそばから削っていく。
まだ止まらない…!?そろそろ魔力が…
「ん”ん”ん”…!!」
集中し、頑丈な壁をイメージして魔力を流し続ける。
すると竜巻は急速に勢いを失い、霧散した。
「ふぅっ…!危なかった…あれ?人影がない…」
さっきあったはずの人影がいつの間にか影も形もない。
と、その場所に走って行く大きな衛兵が見える。
あれはバーラズさん?
「大丈夫?…って君か」
横から声をかけてきたのはこれまたこの前会った衛兵、フィリカだった。
「フィリカさん。魔力は残り少ないですが大丈夫です!」
フィリカから魔法の気配がする。
「大丈夫ってその腕は…」
「あ、これは訓練してて…」
「ああ、そういう訓練方法なんだっけか」
「というかそれより、今の大きな旋風は…?」
「おーい!!そっちは大丈夫かー!!?」
人を担いだバーラズが大きな声を出しながら駆け寄ってくる。
「うるさいなぁ…」
フィリカは嫌そうな顔をしている。
「てかまたお前か!一体何があったのか説明してくれるか?」
「突然強い風が吹いてきて、『壁』で凌いでたら多分その人が大きな旋風をこっちに向かうように撃ってきたんです。それでこれが街に行ったらやばいと思って『壁』で止めました」
「あれを止めましたって…」
フィリカは引いている。
「…まぁ多分本当なんだろう。それで、コイツには見覚えはあるか?」
バーラズは担いでいた人を仰向けに寝かせる。
寝かされた男は酷い顔色で眠っている。
「…?あっこの人!」
いつだったか、集会所で絡んできた男の一人、グラウヅだった。
なんでこの人が?
「面識があったか。コイツに恨まれるような事はしたか?」
「いえ…」
…多分してないよな?
「ふむ…一旦詰所に連れて帰って目が覚めたら話を聞くか」
「ん?コイツあの時の…なんて名前だっけ?」
いつの間にか、最初からそこにいたかのように”星空”ナザが隣で顔をのぞき込んでいた。
「うわっ!ナザさん!?」
「や、また会ったね。ところで衛兵さん、ちょっとコイツ調べさせてもらうけど良いかな?」
「調べる?というかあなたはどこから…」
バーラズは突然現れた不審な人物に混乱している。
「失礼。あまり時間がなさそうだ」
ナザはそう言ってグラウヅの胸に手をかざすと魔法の気配がした後、グラウヅの顔色がどんどん良くなっていく。
「一体何を…」
グラウヅから手を離し、ナザが手のひらを上に向けると少量の深緑色の液体が球になって浮いている。
ナザの表情に陰りが見える。
「…やっぱりこれか」
「これは…?」
「これは風魔力増強薬だね。飲むと風にだけ変換できる魔力が体に満ちて強力な風魔法を使えるようになる。しかし副作用で理性が少しトぶし、魔力切れを超えても魔法が使えてしまうようになるから使い方には気を付けないといけない代物だけどね」
「っ…そんな強力な物…」
フィリカが顎に手を置いて答える。
「そう。出魔品だね。それもAランクの」
にこやかにナザは答える。
Aランク出魔品!?
「なんでそんなものを使った人がこんなところに…」
「…私のせいだ。でも安心してくれ。きっちり解決するから」
ナザは真面目な顔でそう宣言する。
ナザさんのせい?
「隊長!街では竜巻の発生、消失による混乱を鎮めるため衛兵のほとんどが対応している状況です!一体何があったんですか!?」
何人かの衛兵が駆け付けてきた。
「この件に関して君たちにはこう報告してほしい。「Sランク探索者ナザの預かりになったため捜査は不要である」と」
ナザはグラウヅを担ぎ上げてバーラズに言った。
「え、Sランク探索者!?」
「じゃあ私はここで失礼するよ」
「えっちょっ待っ…!き、消えた…」
もっと詳しく話を聞こうと止めようとしたフィリカの手が届く前に消えてしまった。
消えた…ラケミクみたいに透明になった?
さっきまでナザが居たところに手を伸ばすが空を切るだけで何も居ない。
「?何をしているんだ?」
「透明になったのかと思って…」
でも仮に透明になったとしても周りには人が囲うように居るし、この場の誰にも気づかれずに抜けるなんてことは出来ないよな…一体どんな魔法を…?
「?…気になることは多いがまぁいい。とりあえず街に戻り、あの竜巻を見て混乱した住民に心配はないことを説明しに行くぞ!」
バーラズは衛兵を連れて走って行った。
「えっとそしたら俺は帰っても…?」
もう訓練は終わったし魔力も少ないから飯食って寝たいんだが…
「すまないが重要参考人として話を聞かせてもらうから一緒に来てくれるかしら」
フィリカが後ろから肩に手を置いて引き留める。
「…了解です」
「…まぁさっき聞いた通りね。すまないね訓練終わりに」
詰所の一室にて、フィリカはさっき起きたあらましを記録した紙を見直ししている。
「いえ、特に予定も無かったので大丈夫ですよ」
「…しかし、あの風魔法は”竜巻”と呼ばれる災害と酷似していたわ。それを止めて涼しい顔をしていた君は…何者だ?」
フィリカの雰囲気が変わり、疑いを込めた鋭い目つきで魔法の気配を放つ。
ん、魔法?…てかアレ竜巻って言うのか。しかし災害とは…
「涼しい顔なんてしてませんよ!魔力ももう少しで無くなるところでしたし…あの魔法が勝手に消えなかったら危なかったです」
フィリカは変わらず鋭い視線でこちらを見ている。
な、何かマズイ事しちゃった…?
「…悪かった」
フィリカは目を閉じて両手を上げる。
「え?」
「昔の話だが、探索者ランクを故意に弱く偽り、魔域内で強盗や殺人などを繰り返した凶悪犯罪者が居た…魔域内で起きたことは自己責任というルールを笠に着て好き放題していたの」
そんな酷い事…
「そして君はCランク探索者になったばかりとは思えない魔力量をしている」
そうなんだ…そりゃ確かに疑うよな…
「そこで私の固有魔法で君のことを隅々まで調べさせてもらった。その魂までもね」
魂?
「しかし結果杞憂に終わって良かった。そして申し訳なかった。魂を視られるなんて気分のいいものではないだろう」
フィリカは誠実に頭を深く下げる。
言わなければ視られてたなんて分からなかったのになんて誠実な…
「いやいや全然大丈夫ですよ!というか…魂を視るって一体…?」
魂を視るってどんな風に見えるんだろうか。そもそもどんな魔法なんだろう!
「喋っておいてなんだが詳しく話すことは出来ない…重ね重ねすまない」
そうか、固有魔法だもんな…気になるけどしょうがない。
「話せないことならしょうがないですから大丈夫です!」
「心遣い、感謝する…それじゃ記録することは終わったからもう帰っていいわ。ありがとう」
フィリカは元の柔和な雰囲気に戻って伸びをしている。
「分かりました。それじゃお元気で」
「ええ。アイン君もまた、倒れない程度に頑張ってね」
「あはは…」
少し耳が痛い…
―――――
「なぁ、なんか魔物が増えてるって噂だけどよ。お前はどう思う?」
見回り交代のため、詰所から外へ向かう衛兵が噂について話していた。
「もうそろそろ魔物が増える時期だし、少し早いだけで時期に入ったってだけだと思うな」
「だよな…まぁいつも通りちょろちょろ魔物が出てそれの対処って感じの流れになるよな」
周囲が何かざわつきはじめるが、衛兵たちは気付かない。
「今日からまたしばらく歩き回ってばっかになるのは嫌だぜ…」
「んー歩いてればいいから俺はこっちの方が…ん?なんだあれ?」
彼が指差した先には外壁を超える大きさの竜巻があった。
その先を見た衛兵は青ざめる。
「…っおいおいおい嘘だろ!?ありゃ竜巻だ!」
「竜巻?」
「お前竜巻の話聞いたことないのか!?風を司る竜が遊びで作った風が街を滅ぼす話!」
「ああ、それ俺は竜風って教わったな…ってあれはおとぎ話じゃないのか!?」
「実話だ!」
気付けば周りは混乱に陥っていた。
「おい!お前は竜巻と反対の方向に誘導するんだ!とにかく急がせろ!俺は逃げ遅れそうな人を助ける!」
そう言って彼は竜巻の方向へ駆け出す。
「わ、分かった!皆さん!こっちへ!こっちへ逃げてください!!こっちへ―」
もう一人はその場に留まり大きな声で群衆を誘導していく。
「何してる!あっちへ逃げるんだ!」
混乱して動けなくなっている人に声をかけて避難を誘導していく。
「あてっ!」
「あうっ!」
外周の近くまで来たところで、手を繋いで逃げようとしていた小さな兄弟が目の前で転んだ。
「もう大丈夫だ!お兄ちゃんが連れて行くからな!」
2人を担ぎ上げて全速力で走る。
「衛兵さん!」
「うわああああん!」
小さい方の子は竜巻の恐怖と衛兵の安堵で混乱し泣き出してしまう。
急げ急げ急げ!!
「あれ…?衛兵さん!衛兵さん!!」
大きい方の子が何かに気付いて頭をペシペシ叩くが一心不乱に走っていて気付かない。
と、竜巻の方を向いて立ち呆けてる人を何人も追い抜かす。
?
「衛兵さん!!!」
やっと声に気付く。
「なんだ!?」
「おっきいのが…ない」
振り返ると嘘のように竜巻が消えている。
「な…ハッ、ハッ…どう…どういうことだ…?」
さっきまで竜巻が…まさか見間違い…なわけない!一体…
周りの群衆と同じように一瞬立ち尽くすがすぐに正気に戻る。
誘導した先の人たちは気付いてないだろう!急いで伝えなくては!
誘導先へひた走る。
しばらくして、何の被害もなく竜巻が消えたことが伝わり、街の混乱は鎮められた。
・少し前の竜巻の話
隊長の話ではあの竜巻は一人の男が起こした風魔法で、これまた一人の男がそれを止めたのだと言う。全く信じられない話だ。そしてあの”星空”がこの件を預かるとのことで捜査は不要だそうだ。その時は意味が分からなかったが、今日領主から”星空”に直接話をされて了承したとの手紙が来た。Sランク探索者ってのは領主も軽々動かせるらしい。噂じゃSランク探索者はみんな国をひっくり返せる力があるらしいし竜巻を消すなんて造作もないのだろう…全く化け物だな。
それとアレ以降ボリーが真面目に働くようになった。明確な危機を前にして衛兵としての自覚が芽生えたんだとか。仕事は出来てたが不真面目だったあいつがああも変わるとはな。と人のことを言いつつ俺も今までより気合が入るようになった。気付かないうちに平和ボケしてたんだな。あれから仲良くしてくれる3人を守るためにも、それこそ竜巻を止められるようになるくらい鍛えようと思う。
「ふー…」
「ねーなにかいてるの?」
いつの間にか部屋に入って来ていた下の子が寄ってきて疑問を投げかける。
「ん、これは俺の記録というか…思い付いた時に書いてる、ある意味日記みたいなやつだな」
彼は紙を男の子に見せる。
「へー…わかんないや!」
「ははっ、そうか」
彼は優しく頭を撫でてやる。
「えへへ…あ!ごはんだった!おかあさんがよんでる、いこ!」
男の子は袖を掴んでぐいぐい引っ張る。
「おうおうわかったわかった!ちょっと待ってな」
彼は紙を引き出しにしまい、男の子に引っ張られて部屋を出た。




