ep.20 条件
「おうお待たせ!今日はどうした!?〔坑道〕行って来たのか?」
ベールズが大盛りの料理を持って来て豪快に机に置く。
「いや、今日はもっかいローブ取りに行ってました」
「ってことは〔森〕か?その割にはずいぶん消耗してるみてぇだが…」
「ああ、長生個体と遭遇したんです」
「長生個体!?…ちょっと魔石を見せちゃくれねぇか?」
「?はい。いいですよ」
袋から緑色と青色の混ざった茶色の魔石と、所々に緑色がゆらめく白い魔石を取り出して見せる。
「…本当に長生個体っぽいな…アインは思ってたよりデカくなるかもな!ハッハッハ!」
「痛っ!」
ベールズは肩を音が出るほどの力で叩いて厨房へ戻っていった。
「いつも強いんだよ…」
―翌日―
朝の集会所は比較的人が少なく、受付はほとんど並んでいないくらいには空いていた。
「換金お願いします」
「かしこまりました!これは〔濡れ森〕のものですね!ふむふ…む?これらも〔濡れ森〕のものですか?」
袋の中身をカウンターに広げて査定していくと例の二つの魔石に引っかかった。
「あ、それは長生個体のやつです。茶色の方が歩き木ので、白い方が鳥のやつです」
受付嬢は一瞬固まってしまったがすぐに戻る。
「あ、え、えーっと…す、すみません!少々お待ちください!」
受付嬢は頭を下げて素早い動きで魔石を持って裏に行ってしまった。
なんかこの前もこんなことがあったような…
しばらくして受付嬢と一緒にクインスが紙とペンを持って出てきた。
やっぱりクインスさんだ。
「すみませんお待たせ致しました。どちらもアイン様が討伐したということで間違い無いですか?」
「はい」
「では調書を作りますので色や大きさなど、その魔物について教えていただけますか?」
へぇー調書作るんだ。やっぱり長生個体は珍しいからかな。
「分かりました。まず茶色の魔石の方ですが、歩き木によく似ていて大きさは同じくらいでした。でも普通のとは違ってトゲに覆われていて、かなり硬いです。あと走りますし、水魔法を使ってきました」
クインスは書き込みながら話を聞き、受付嬢はそれを横から見学している。
「それと白い魔石の方は、見た目は黒鳥ですが白い羽に覆われています。大きさはあの緑黒いヤツより少し大きいくらい?ですかね。『乱風刃』と思われる魔法を使ってきました。それと突撃するのも見えないくらい高くからやってきましたね」
2人は調書を確認する様子で小声で話している。
「…はい。確かに両方とも長生個体であることが確認出来ました。ご協力ありがとうございます。では換金致しますか?」
「はい。お願いします」
持っててもしょうがないしな。
「では評定をしてきますのでもう少々お待ちください」
クインスは魔石を持って裏へ行ってしまった。
「ではこちらで他の物の換金だけ済ませちゃいますね!」
受付嬢は手早く換金を済ませる。
「あ、カードありがとうございました」
「ありがとうございます」
換金を済ませて少ししてクインスが戻ってきた。
「すみませんお待たせしました。こちら、両方とも小銀貨3枚になりましたので合わせて小銀貨6枚になります。お受け取り下さい」
思ってたより高かった!
「ありがとうございます!」
「それと…長生個体の発見、討伐の功績が後に認められればBランクまでもう少しとなります。頑張ってくださいね」
クインスは綺麗な笑顔を見せる。
「え!そうなんですね!…ちなみにもう少しというのは…?」
「というのも、Bランクへの昇格の条件が[定められた点数を超える、または功績の認定。かつ、Cランクヌシの討伐]…となっていまして、長生個体の功績が認められれば後はヌシの討伐を残すのみになります」
クインスはさらりと答えるが、その横の受付嬢は驚いた顔をして焦った様子を見せている。
「ヌシの討伐…」
あの蜘蛛を…か。
「はい。功績が認められるまで少し時間がかかりますが、後はそれだけになります」
しばらくは鍛える期間になりそうかな。早速今日からやるか!
「ありがとうございました!」
受付の二人に会釈をして場を後にする。
「ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました!」
―――――
「…クインスさん、なんであの人に条件を教えたんですか?昇格の条件は購入して聞く決まりなのに…」
本部に送る手紙に調書の内容を書き写しているエヤラは当然の疑問を口にした。
「彼は特別ですから」
「特別…というのは?」
クインスに探索者を贔屓しない仕事人のイメージがあったエヤラは思わず手を止めて聞き返す。
「私が”視て”、特別だと思った。それだけですよ」
クインスは長生個体に関する書類を整理する手を止めないまま説明した。
「あっ例の固有魔法ですか!…ちなみにどんな風に見えたんですか?」
「それは個人情報だから言えないわ。それより、手が止まってるわよ。まだまだ仕事あるんだからほら」
「あっすみません!」
エヤラは横に積みあがっている書類を見て急いで手を動かす。
「クインスさん!おとりゅ、お取込み中し、失礼します!”星空”様がお呼びになってます!」
走ったのと緊張とで息の上がった男性職員が部屋に飛び込んで来た。
「!すぐ行くわ。ありがとうレック」
クインスは確認している途中の書類を適当に置いて早足で表へ向かった。
男性もその後ろについていった。
「”星空”様に呼ばれるって何事だろ…あっそれより早く終わらせないと!」
「こんにちは”星空”様。如何様なご用件でしょうか?」
後ろに立っているレックは緊張のあまり汗が止まらなくなっている。
Sランク探索者がチーフを呼び立てるって一体何が…
「あ、別に大したことじゃなくて悪いんですが、〔濡れ森〕の長生個体の討伐報告って来てます?」
「はい、つい先程来ております。」
「そうでしたか!報告した者の名前を聞いても良いですか?」
「アインというCランク探索者です」
「!ふふふっ…」
ナザは最近聞いた名前が出てきたことに笑いを溢す。
わ、笑った…?
「…?」
「ああすみません。討伐報告が行ってるなら大丈夫です。ありがとうございました」
ナザは受付の二人以外、誰にも気づかれることなく集会所を後にした。
「…レック、そんな緊張しなくて大丈夫ですよ」
「と、とはいっても、え、Sランク探索者様を直に見るのも、は、初めてでして…」
「”星空”様は定期的に来るから慣れておかないと心臓が持たないですよ?」
「え!?そうなんですか…気が重いです…」
「大丈夫ですよ。”星空”様はとても優しい御方ですから、多少粗相があっても見逃してくれますよ」
「そ、そうなんですね…」
「じゃ、私は戻るので引き続き受付お願いします」
「あ、はい!承知しました」
クインスは早足で裏へ戻っていった。
…その気になれば国を潰せるって噂のSランク探索者に粗相なんて出来る訳ないでしょう!?
レックは受付のカウンターで頭を抱えた。




