ep.18 亜種?
足音の先に居たのはところどころ苔が生えていて、不揃いな歪なトゲに覆われた歩き木だった。
何かを探すように首を振りながらこっちに歩いてくる。
音に気付いて寄ってきたのか。
「しかしあのトゲ…亜種か?」
歩き木とは結構戦ったつもりだけど初めて見るな。
「木なら…『風鎌』」
気付かれる前に『風鎌』を胸部に放つ。
『風鎌』は小さな傷を付けただけで核には至らなかった。
硬っ!?
トゲの歩き木がこちらに気付いて走ってくる。
「走った!?」
歩き木は走らないと思ってた!
「『嵐刃』!」
左右に断つように放つが歩き木は腕をクロスにして受け止める。
刃は腕の半分ほどにまで至るがそこで消えてしまう。
「あ!?こいつ…!」
歩き木は腕を鞭のようにしならせて殴りかかってくる。
「『壁』っ!」
腕を『魔力壁』で受けるが固めた魔力が削り取られる。
割られなかったけどこれはマズイ…!
「『嵐刃』!」
今度は至近距離から胴を上下に断つように放つが歩き木は腕を縦に揃えて受ける。
反応が速い!
歩き木が顔を一瞬こちらの頭上に向ける。
ん?
次の瞬間、突然上から水が降ってくる。
「ゴバッ!?」
水!?魔法か!?
急いで水を拭って目を開けた瞬間、歩き木の殴りが右肩に命中する。
トゲに覆われた腕は皮膚を裂き、肉をえぐった。
「うぐぅっ!」
痛っっっ!
歩き木は隙を逃さず、追撃が左頬に迫る。
「『壁』!」
咄嗟に『魔力壁』を展開して後ろへ跳び退く。
『魔力壁』は一瞬耐えたが割られ、鼻先をトゲが掠めた。
「『壁』!!」
魔力多めの『魔力壁』を展開する。
歩き木はやたらめったらに『魔力壁』を殴りつけてくる。
確実に削ってきてるけど少しは時間を稼げるな。
「フゥーッ…」
痛ぇ…しかしこいつ強すぎるだろ…なんなんだ…
「ん、腕に付けた傷はそのままだな。再生はしないのか」
なら『嵐刃』を当ててればそのうち倒せるだろうが…傷のことも考えるとそこまで魔力を使いたくない。水は効かないだろうし…
「歩き木に火は微妙だったけど試してみるか。『墳炎』」
トゲの歩き木の足元から体を覆うほどの火柱を発生させる。
体に火が着いた歩き木は少し暴れた後に自らに水塊を落として鎮火した。
「む、火が着いた?コイツには火が効くのか!『放炎』!」
歩き木は炎を浴びて暴れる。
よしよし効いてる。
しかし歩き木はすかさず水塊を頭上に発生させている。
「させない!『壁』!」
『魔力壁』で水を遮って鎮火を防ぐ。
歩き木はなんとか火を消そうと暴れているがそのうち動きが遅くなり、遂には止まって魔素になっていった。
後には普通の歩き木のものよりも二回りは大きな茶色の魔石が残っている。
「よし!ふぅ…強かったな。いつつ…」
魔石を拾いあげる。
光にかざしてみると緑と青のきらめきが見られる。
「色は同じ茶色だけど少し緑色と青色が混じってるな…」
魔石を袋にしまう。
とりあえず肩を治そう。
「『治癒』」
右肩の傷に左手をかざして唱えると、肉が盛って皮膚が繋がり痕も残さず綺麗に治る。
「ふぅー…よし、こんなもんだな」
肩を回して具合を確認する。
「今の魔法は…」
声に驚いてその方向を見るも誰も居ない。
「!?…あっラケミクか!」
「ああ。解いてなかったね。よっと」
見ていた方向から霧が晴れるようにラケミクが現れる。
しかし面白い魔法だな。
「そういえばさっきの歩き木、私は初めて見たけど君は?」
「いや、俺も初めて見た。Dランクとは思えない強さだった…」
右肩をさすって答える。
「うーん…遭遇したのが君じゃなくて他のDランクの人だったらおそらく死んでいただろうし、これは集会所に報告しといた方がいいかも」
「そうだね。この魔石を換金する時に話しておくよ」
「お願いするわ。じゃ、私はそろそろ帰るからここでお別れね」
「ああ、またな」
「ええ、また何処かで」
ラケミクはこちらに背を向けると霧に隠れるように消えてしまった。
あっという間に…面白っ。
「俺も行くか…こっちか」
目を瞑り集中し、中央の魔力を感じてそちらへ足を進める。
空気が乾いて来ているのを感じる。
「ん、もうすぐだな」
あのトゲ歩き木以外はいつも通りだったな。
「誰かァ!助けて!助けてー!!誰かァーー!!」
後方から助けを叫ぶ声が響く。
近い!
「『強化』」
声のした方向へ急行する。
少し先に、何匹かの黒鳥に襲われている男性を見つける。
男性はうずくまって攻撃に耐えている。
「『壁』『暴風』」
とりあえず男性を『魔力壁』で覆い、鳥たちを吹き飛ばす。
「おい!大丈夫か!」
男性に駆け寄ると、全身に細かい傷を負っている上に右足首から大きく出血していることに気付く。
男性はアインの声に目を開ける。
「うう…あ、あなたは一体…?ていうか鳥は…」
「ああ、黒鳥なら吹き飛ばしておいたから大丈夫だ」
「ち、違う!黒鳥じゃない!白い鳥だ!」
白い鳥?
ガァー!
背中を横一閃に切られる。
「ッ!?」
「わああ!」
『強化』してたのに…!
振り向くと黒鳥より大きな緑黒い鳥より、さらに一回り大きい白い鳥が枝に止まっていた。
「なんだアイツは…!」
ガァッ!
白い鳥が声を上げて翼を広げると無数の風の刃が発生する。
『乱風刃』!?
「『壁』!」
無数の刃は『魔力壁』によって防がれる。
「わあああ!」
男性は声を上げて驚いている。
この威力なら問題ないな。
「『治癒』」
隙を見て背中の傷を治す。
白い鳥は刃が通らないのを見て飛び立ち、一気に樹の上まで上昇する。
「飛…クソッ、見えない。ふぅー…」
飛び次第『スロウ』掛けてやろうと思ってたのに…次はあの鳥と同じように突撃だろうな。なら避け…
「に、逃げた…?」
そうだこの人が居た。『壁』で受けるしかないか…
「いや、逃げてない。『魔力壁』!」
出来る限りでの強度の『魔力壁』を生成すると、直後に白い鳥が突撃してきた。
「うおっ!」
「うわああああ!」
かなりの強度で作ったはずの『魔力壁』をクチバシが貫通している。
白い鳥はすぐにクチバシを引き抜き、飛び立とうとする。
今だ!糸が絡むように…
「『スロウ』!おわっ!」
『スロウ』を掛ける事には成功したが、力が強く解かれそうになる。
「んんんんん!」
腕を強化してなんとか耐える。
翼が上手く動かない白い鳥は風を操って飛ぼうとしたが上手くいかず落下した。
「ぐぐっ…!」
なんて力だ…!
「おい!あんたがトドメを刺してくれ!」
「あ、ああ!うぐっ…そうだ足が…うう…」
男性は立ち上がろうとしたが腱が切られていて右足が使い物にならない。
無理そうか…解いてすぐに撃てば間に合うか…?
「うう…僕は…僕は!変わるんだ!!」
男性は使い物にならないはずの足で踏みしめ、短剣を持って白い鳥へ跳びかかり、首に突き刺した。
白い鳥は少し痙攣した後に魔素になって霧散した。
「フゥーッ…さっきの歩き木といい、何なんだ一体…」
「ハッ、ハッ、ハッ…血が…血が止まらないよぉ…」
男性は手で傷口を抑えているが流血の勢いは収まらない。
もう魔力に余裕はないけど…
「傷を見せてみてくれ」
「うう…」
切り傷は深く、骨まで達している。
うーん深いな…魔力切れは避けたいし、少しでもイメージを固めたい。
「んー…もう片方も見せてくれ」
「あ、ああ」
男性は左足を差し出す。
イメージの足しにするために左足首を触る。
こんな感じか…
「な、何を…」
「ふぅー…『治癒』!」
肉が繋がり、傷が塞がっていく。
「えっ!血が…!」
これ以上は…!
「ぐっ…!ふぅ、はぁ、はぁ…」
治しきれなかったけど…十分だろう。
「すげぇ!血が止まっ、痛ッ!」
男性は感激して傷を触ってしまい、痛みを覚えている。
「ふぅ、まだ、治りきってない、から…」
襲い来る脱力感、疲労感を肩で息をして耐える。
「ありがとう!ありがとう!あの鳥たちから助けてくれた上に治療まで…!あなたは命の恩人です!」
男性は手を取って上下に振っている。
「ふぅ、ああ、どういたしまして」
この魔力量だともうトカゲどころかこの先も無理だな…
深呼吸をして息を整える。
「…とりあえずここを出よう。近くで脱出門を見たか?」
「ああ!あっちに!痛っ…!」
男性は勢いよく立ち上がり先導しようとしたが痛みでふらつき、樹に寄りかかる。
「無理しない方がいい!治しきってないから下手したらまた血が出るかも。ほら、肩貸すよ」
立ち上がり、白い魔石を拾って手を差し伸べる。
「申し訳ないです…」
「”探索者同士仲良く”だからね」
「ははっ師匠とは真逆だ」
「師匠?」
「ああ、僕が小さい頃から探索者になるために修行をつけてもらってまして、〔濡れ森〕を一人で攻略出来たら一人前として認めてもらえるんですけど…魔物が怖くて何回も途中で脱出しちゃって」
「へぇ…」
魔物が怖い、か…
「それで今回逃げ際にあの鳥に足をやられて…もう終わりだと思って最後に駄目元で声を上げたらあなたが現れたんです。本当にありがとうございます」
「ああ、どういたしまして。お、あれか」
「はい。あれです僕が見たのは」
「よし、帰ろうか」




