ep.17 固有魔法
「どうしよう…」
目の前には透明な女の子がいる。
多分視線の正体はこの人だよな…それについても聞きたいし、魔法のことも聞きたいし…
「おーい!起きろー!!」
足を揺すりながら大きな声で起こそうとしてみる。
「ん…あれ?ここは…?」
おそらく起きて身を起こしている。
「樹の上から落ちたけど大丈夫?」
「あ!あなた!やっぱり気付いてたのね!」
突然両肩に手を置かれ、ビクッとしてしまう。
透明だからビックリするな…
「あれ?…私まだ透明じゃん!」
アインの反応を見て彼女は自分の姿を確認する。
「ほいっと」
霧が晴れるように目の前にベレー帽を被ったショートヘアの女の子が現れた。
「やっぱり透明になる魔法だったんだ!すごいや…」
「そう。珍しい魔法でね」
「へぇ!そうなんだ」
確かに聞いたことないしな。
「ちなみに、何で気付いたの?見た目はもちろんのこと他にも魔法使ってたから気付かれないはずなんだけど…」
「ああ、なんか視線を感じてさ。ていうか視線の正体は君でいいんだよね?」
「あ、うん。ん~…視線かぁ。なんでバレたんだろ…う~ん…」
うんうん唸って頭を捻っている。
「ちなみに視線はずっと?」
「いや、たまにだね。なんか、ん?ってなる感じで」
「…もしかして『遠視』使った瞬間にバレた?」
訝しんだ様子で聞く。
「『遠視』?」
「遠ーくを見れる魔法でね。もしかしたらだけどこの魔法の気配を感じてるんじゃって思ってさ」
「確かに魔法の気配は感じれるけど」
「えぇ?…ちょっとやってみよっか!」
あっという間に音もなく消えてしまった。
「おお!あれ?どこ行った?」
さっきまで居たところに手を伸ばすが空を切るばかりで既に居なくなっていた。
音もしない…
「…ん?」
右後ろから視線を感じ、振り向く。
「…やっぱり!『遠視』を使った瞬間だ…!君は一体…」
見ている先からふわりと彼女が姿を現す。
「ただの魔法好きな魔法使いで、探索者だよ」
「…うーん…ま、いっか!今まで他に居なかったってことは君が特別ってことだからそうそう同じことないでしょ!」
彼女は肩をバシバシ叩いてくる。
「視線感じるんじゃ気持ち悪かったよね。ごめん。えっと…自己紹介がまだだったか。私は情報屋のラケミク!君は?」
「探索者のアインだ。こっちこそすまん。樹から落としちゃって…」
「大丈夫大丈夫。私こう見えて丈夫だからさ!ところで…取引しない?」
「取引?」
「アイン君の情報はきっと売れる!だから君の情報と、私が持ってる情報で取引しない?」
売れるとかはよく分かんないけど…
「欲しい情報なんて…あ!さっきの『遠視』について教えてほしい!」
「じゃあ取引ね!私は『遠視』について教えるから、そうだな…君が今使ってる宿と飯屋を教えて!」
「”蒼天の花”っていう宿と”熊の背”っていう飯屋だね」
「ほう!あの夫婦で向かい合わせで営んでるところなんだね!じゃあ私の番ね。『遠視』は私の固有魔法で、視界が通るところならどんなに遠くても見えるっていう魔法だね」
「固有魔法なんだ!視界の通るところなら、ってことは…こういう森の中だと使いにくい?」
「開けてるところと比べたらちょっとね。でも固有魔法なだけあって自在に使えるから不便なことはないね!」
「確かに固有魔法なら調整くらいなんてことないか」
「…ちなみに君の固有魔法の情報は売ってくれるかい?」
「あー…あんまり話したくはないかな…」
「…対価は”私のもう一つの固有魔法について”…だったらどう?」
ラケミクは切り札を出すような顔で対価を提示した。
「…魔導書から得た魔法をそう言ってるんじゃなくて?」
魔導書の魔法は固有魔法のように扱えるからな。
「魔導書からじゃなくて、正真正銘固有魔法だよ!どう?」
つまり俺と同じように…?かなり珍しいって聞いたし気になるな。
「分かった。取引しよう」
「やった!ひひひ、これはきっとお高く売れるぞぉ…」
悪い顔で何か呟いているがこの際気にしない。
「じゃあさっきは俺から教えたから今度は先に教えてくれ」
「あいよっ。もう一つの固有魔法というのは…母親から”継承”した固有魔法のことなのよ!」
ラケミクは自慢げに腕を組んでいる。
「やっぱりそうだったのか」
俺以外に受け継いだ人に会うのは初めてかな?
「あれっ?思ってた反応と違う…っていうかやっぱりってことは”継承”のこと知ってたのね!?」
「まあね」
「なぁんだ…ま、いいわ。で、名前が『不可視身』。透明になれる魔法よ。以上!さぁ早く君の固有魔法を教えて!」
目が怖い…
「実は…」
―――――
青年期も中盤に差し掛かってきたころ…
「アインどうしたの?落ち込んでるみたいだけど…」
夕食を食べていると母さんが物憂げな俺の顔を見て心配する。
「あ…いや、なんでもないよ。ごちそうさま」
「あれ?おかわりはいいの?」
「うん…」
「…」
自分の部屋に帰ってベッドに腰掛ける。
「はぁ…」
ため息をついた次の瞬間、扉が勢いよく開く。
「どうしたアイン!元気ないって母さんから聞いたぞ?」
装備を着たままの父さんが入ってきてそのままの勢いでベッドに座る。
「どうした?またお前がイケメンだからって嫉妬されたのか?」
「…また、ってそもそも一回もそんなことないよ」
「ハハッ!そうだったか!でもあってもおかしくないくらいお前はイケメンだぞ?本当だぞ??」
ふざけている時特有の真顔でこちらを見てくる。
くっ…今はちょっと面白いのはやめてくれ…
「…」
「…まぁアインが話したくないなら無理に話さなくてもいいぞ」
父さんは立ち上がり、対面に膝立ちになって手を取る。
「でも話したくなったらいつでも話してくれ。父さんと母さんはいつでもアインの味方だから」
今度はふざけていない顔でまっすぐ目を合わせる。
「…実は、クウダにまだ”目覚め”が来ないことを馬鹿にされて…一生目覚めないんじゃねぇのって言われて…目覚めない人も居るって聞いたことあるから…それで不安になっちゃって…」
勝手に涙が溢れて止められない。
「そうか…いいかアイン。”目覚め”の時期は人それぞれだって話はしたよな?」
「う”ん…」
「まず、目覚めない人も居るっていうのはそうだ。知り合いにも、父さんより年上で”目覚め”が来ない人が居た」
「…」
自分もそうなるのではないかと思い、目頭が熱くなる。
「でもその人よりもっと年上で、もうおじいちゃんって言ってもいいくらいの歳でやっと”目覚め”が来た人も居たんだ。その人は元々Aランク探索者のすごい魔法使いだったんだけど、目覚めた固有魔法もとんでもなくてな。目覚めてからSランクに行っちまったんだ」
「…!」
Sランク…!
「んで、そんなことがありながら旅をしてたら、『固有魔法を見る固有魔法』を持ってる人に会ってな。その人が言うには、「どんな人にも必ず固有魔法がある」らしい」
「でもさっき目覚めない人が居たって…?」
「そう。父さんも同じことを考えてな。じゃあ目覚めない人はなんなんだと聞いたら、「固有魔法というものは肉体と魔力がその魔法を使うに値した時に目覚めるものだから、体の丈夫さが足りないか、魔力が足りないかのどっちかだ」と答えたんだ。それで実際にさっき言った”目覚め”が来ない人に会わせたら、そいつは『魔域の扉を破壊する魔法』を持っていたのが分かったんだ」
「…えっ!?」
何その魔法!?
「びっくりするよな。まぁ扉壊したらその魔域の出魔品が取れなくなるだろうし、消費する魔力も多すぎて人間には無理だしで、使えないし使わない方がいい魔法とのことだったんだけどな」
父さんは苦笑いしている。
「つまりだな…”目覚め”が来ない、遅い人ほどすごい固有魔法を持ってるってことなんだ!」
「おお…!」
「だからアインもすごい固有魔法をその身に秘めてるってことだ!」
「おお!」
元気が沸き上がってきて思わず立ち上がる。
「よし!その意気だ!固有魔法に目覚めるために徹夜で特訓しに行くぞ!」
父さんは手を繋いで外へ行こうと駆け出す。
「あ」
開けっ放しの扉のところに母さんが立っていた。
「ん?どブヘァ!」
父さんは前方不注意で母さんが展開していた『壁』に激突する。
「お父さん…?もう真っ暗なのにどこへ行こうって…?」
母さんは笑顔だが纏っている雰囲気は修羅のそれだった。
「あ、いやぁその~…ごめんなさいッ!」
目にもとまらぬ速さで頭を下げた。
母さんの修羅の雰囲気が落ち着いていく。
「全くもう…あ、アイン。お腹空いてたらおかわりしなかった分まだあるわよ」
それを聞いてお腹が少しの物足りなさを訴える。
「うん!」
頭を下げているままの父さんを尻目に母さんの横を抜けて小走りでリビングに向かった。
「その…さっきはちょっとアツくなっちゃったというか…」
「もう怒ってないわよ…ほら、お父さんも一緒に食べましょ?さっき帰って来たばっかりですぐアインのところ行ったからお腹空いてるでしょう?」
お腹が待ってましたと言わんばかりに鳴る。
「ああ!」
―――――
「まだ”目覚め”が来てないんだ」
「え…」
ラケミクは目を真ん丸にしている。
悪いことしたな。固有魔法を教えると言ってたのに無いなんて…
「えー!?あれだけ魔法を使えるのにまだなの?ってことは…どんだけ魔力を使う大魔法なんだろ!?すごいすごい!…これは売る人を選べば…うひひ」
ラケミクは興奮してバタバタしている。
「てっきり怒るかと思ってたんだけど…」
「いやいやこんなお金を呼ぶ情報で怒るわけないじゃん!あ!そしたら絶対その話他所でしたらダメだからね!?売れなくなっちゃうから!」
ラケミクはアインの手を握って強く言った。
そこまで…?
「ん…?」
こちらに近づいてくる歩き木の足音が聞こえる。
「歩き木だ。俺が倒してもいい?」
「え?あそっか!ここ魔域か!すっかり忘れてた…私戦えないからお願いするわ」
隠密に長けてる分戦えないのか。
「分かった。じゃあやらせてもらう」
樹の陰に隠れて足音の主を探す。
「…ん?あれは…?」




