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ep.13 ひょんなことから

昼食後、宿に戻ってナザに言われたことを考えていた。


 ”そのうち分かる”…”好きなことを大切に”…


「そのうち、ね…まぁあれほどの人が”分かる”と言ってくれたんだ。焦ることはないか」


 この後は…そうだ体鍛えようかと思ってたんだった。



「っし。まずは一周行ってみるか。『身体強化』」


街を出て外壁の前で準備体操をし、体に魔力をいつもより少しだけ多く流して走り出す。


「ぐっ…」


全身に軽く軋むような痛みが走るが無視して走る。



「ハァ、ハァ、ハァ…」


 思ったより長かった…次は腕だな。

息を整えてから腕を鍛える準備に取り掛かる。


「『壁』」


『魔力壁』を作り、それにさらに魔力を流して増強する。


「こんなもんかな」


『魔力壁』を軽く小突くと岩のような硬さを感じる。

 よし。


「『強化』」


今度は右腕にかなり多めに魔力を流す。


「うぐっ、フンッ!」


『魔力壁』を思いきり殴ると勢いよく割れる。


「いっっってぇぇ…」


肩から先を割れるような痛みが襲う。

 左も…

左腕でも同じように繰り返す。



「痛すぎ…」


 『治癒』で治したいけどそれじゃ意味ないんだよな…


「そしたら帰…いや、どうせこの後寝るだけだし魔力も鍛えるか。周りに人は…」


辺りを見回しても人影は見当たらない。


「よし。『暴風』『巻き風』『圧風』…」


風を起こす魔法を草原に向かって手当たり次第に放ち魔力を消費する。


「ふぅっ…最後…『旋風』!」


草と砂を巻き上げて回転する風を発生させる。

最後だと力んで少し魔力が多くなってしまい『旋風』は消えず滞留している。


「やべ、ちょっとやりすぎ…あれ?」


足に力が入らず膝が折れうつ伏せに倒れる。


「やっちまった…」


強烈な眠気が襲う。

 まぁ街の周りは安全だし少し寝るくらい大丈夫だろ…




…!…い!…丈夫!?おーい!」


「ん…?」


こちらを呼ぶような声に目を覚ますと鎧を着た体格のいい男性の腕の中にいた。


「良かった!生きてたか!」


「え…あ!すみません!ッ痛っ…!」


急いで立ち上がろうとするが腕が痛すぎて上手く動かない。


「無理するな!すぐに治療してもらえるところに連れて行ってやるから安心しろ!」


「あいやちょっ、ま…」


状況が飲み込めず混乱していると、男性に抱きかかえられて街に入ってすぐの小屋に連れられる。


「おいフィリカ!こいつを診てくれ!壁の外で倒れてたんだ!」


「…そこに寝かしてください」


フィリカと呼ばれた女性は面倒そうに言う。

硬いベッドの上に置かれる。


「ちょっすみません!あなた達は…痛っ…」


「ほら動かないで。診てあげるから」


女性から魔法の気配がする。


「…なんだいこりゃ。内側がえらい傷ついてるじゃないか」


「内側!?魔法にやられたのか!?」


「本人に聞けばいいんじゃないですか?」


暑苦しい男性をフィリカは軽くあしらう。 

男性はぐっとこちらを見る。


「あの…誰かにやられたんじゃなくて、これは自分で…」



「へぇ、そういう訓練方法ねぇ。面白いね」


「全く…体を鍛えるのは立派だが程々にしろよ?あんな外で倒れてたら何かあったのかと思うだろ」


「すみません…その鎧を着てるってことは衛兵さんですか?」


「おう!夜は壁の外を巡回してるんだ。そこでお前を見つけたってわけだ」


 夜?

外を見るとすっかり暗くなっていた。

 少しだけ寝るつもりだったんだけどな…いてて…

痛みに耐えながらベッドから立ち上がる。


「大丈夫?立てる?」


「はい、すみませんフィリカさん。それと…」


「バーラズだ!」


「バーラズさん。ご迷惑おかけしました」


二人に向かって頭を下げる。


「いいのよ。大事なくて良かったわ」


「おう!無事ならいいのさ!」


「すみませんありがとうございます」


衛兵の小屋を後にし、宿に戻ってそのまま倒れるようにベッドで寝てしまった。



―翌日―



朝一番の腕の痛みに堪えながら朝食を済ませてもうひと眠りする。

次に起きたのは昼過ぎごろで、腕の痛みはあるもののそこそこ引いて来ていた。


「まだ痛い…けど動けはするね。そしたら今日は魔域行こうかな…」


 でも〔坑道〕は出来るだけ万全な状態で行きたいし…今日はDランクの方にするか。


Dランク魔域〔濡れ森〕へ向かう道には結構な人数が居た。

 Cランクは数えるくらいなのにこっちは結構いるのな。まぁあそこは暑いし魔物も結構強いからこっちで稼いでる人が多いのかな。



「〔坑道〕で色々あったから久しぶりな気がするな」


〔濡れ森〕を見回して呟く。


「もうヌシのトカゲに用は無いし…そうだな、あえて中央には向かわないで探索してみるか」


中央の魔力を左前方から感じ、少し右に向かって歩き始める。


少し歩くと二つの足音が聞こえてくる。

 木っぽいな?

足音の方を見ると二匹の歩き木が歩き回っている。

 だね。確か胸の真ん中に核があったような…


「『風刃』」


胸部に切り傷を付けるが核には至らなかった。こちらに気付いた歩き木が一直線に向かってくる。


「あれ、『風刃』じゃ倒せなかったか。じゃあ『風―…いや」


 火を試してみるか。


「『発火』」


歩き木の胸に火を着ける。が、上手く燃えないで消えてしまった。


「あら?『壁』」


歩き木は『魔力壁』に激突し、腕を突き刺すようにして壁に攻撃する。


「もういっちょ。『発火』」


今度はちょっと魔力を増やして火を大きくしてみる。

しかしみるみるうちに火は小さくなって消えてしまう。

 いくら湿気ってるとはいえ…なんかおかしいな?

魔力で足を固定してやり『魔力壁』を解除する。


「『放炎』」


試しに火炎放射を浴びせてみると、水が蒸発するような音を立てている。

炎を止めると乾いた色になっていたが、かすかな魔法の気配とともにすぐに元に戻ってしまう。


「…もしかして水魔法が使えるのか?」


歩き木は固定された足をなんとかしようと無言でもがいている。

 でも攻撃には使わないのか。変なの。


「そうなると火魔法は相性悪いが…これはどうだ?『爆炎』」


手のひらから放たれた火の球が胸部に命中し爆発、二匹は爆炎に包まれる。

二匹はバラバラに砕けてすぐに魔素になった。


「火うんぬんってより衝撃でやれたって気がするけど…ま、いっか」




紙束や食器など出魔品を集めたり、歩き木や黒い鳥を倒したりして適当に探索して回る。


「そういえば水の奴とかあの魔法使う鳥が居ないな。アイツらは真ん中の方に出現するのかな。…ん?」


ふと目の前の樹の幹に違和感を覚える。

 なんか…なんだ?何か居る?


「『乱風刃』」


いくつもの刃が幹に傷を付けると、幹の真ん中から出血する。

 血!?

出血した場所から平べったい手のひらサイズのトカゲが木から落ち、魔素になって薄緑色の小さな魔石を残した。


「おおっ、擬態か。違和感はあったけどどこに居るか分からなかったな。こういうのも居るんだな」


魔石を拾いあげて袋にしまう。


「ん?」


後ろから誰かに見られたような感覚がして振り返る。しかし魔物も人も居ない。

 気のせい…か?



「お、脱出門だ。結構歩いたつもりだけどやっと一つか…」


誰かが門にもたれて座っているのを見つける。

 人?

座っていた人が足音に気付いて顔を上げる。


「カーラ!?…じゃないね」


こちらを見たショートカットの女性は明らかにがっかりしてうなだれる。


「な、なんかごめん…どうしてここで座ってるんだ?」


「ここまで来てあたしが大事なものを落としたことに気付いてね。探しに行こうとしたんだけど魔力切れのあたしじゃ足手まといなだけ。それでカーラ…相棒が行ってくれたんだけど…まだ戻ってこないんだ」


女性は心配そうに目の前を見つめている。


「…心配なら俺がその相棒と落とし物を探しに行こうか?」


 魔力はまだまだあるし。


「…いや、あたしはカーラを信じてる。だからいい」


女性は一瞬迷った素振りを見せたが申し出を断る。


「そうか。じゃあ気をつけてな」


「ああ、あんたこそ」


一旦そのまま通り過ぎるようにしてその場を離れる。

 さて、さっき彼女が見てたのはあっちの方向だったよな。


「『トゲ』『身体強化』」


見逃さないよう周りを見ながら今出来る最高速度で走る。


少し走ると大量の鳥の声が聞こえてくる。

 なんか多いな…?

声の数が気になりそちらに急行する。

木々の間から遠くに大量の鳥に襲われてうずくまっている女性を見つける。

 あれか!?


「『壁』!」


女性を『魔力壁』で包んで攻撃から守る。

しかし壁は数度の攻撃で崩れていく。

 クソ!遠すぎる!

足に全力で魔力を流して樹の幹を足場に跳び、女性の前に着地する。


「えっ!?」


「ぐっ、『壁』!」


自分と女性をまとめて『魔力壁』で包み込む。次々と鳥が攻撃を仕掛けるが阻まれる。

 あぶねー…あ?

足に力が入らず倒れ、次の瞬間足に砕けたような痛みが襲い掛かる。

 いっっっ…!痛すぎる!


「あの…」


「『治癒』!」


あまりの痛みに急いで足を治す。


「ふぅー…やりすぎた…はぁ…」


上を見ると壁を前に大量の鳥たちが攻めあぐねている。

 そうだ!あの人は?

振り向くと女性は足を見てぼーっとしている。


「大丈夫?」


「あっ!はい!おかげ様で!」


細かい傷はあるが平気そうだ。


「良かった。そしたら鳥だけど…多いな」


 どうしたもんかな…


「すみません…私が沢山連れてきてしまって…」


「あ、いえいえ大丈夫ですよ」


 とはいえ流石に…鳥に良い魔法ってなんかあったっけ…あ。

この前『スロウ』がとんでもない効き目だったのを思い出す。

 この数相手にいけるかな?やってみるか。クモの巣に捕らえる感じで…


「『スロウ』」


大多数の鳥に魔法が掛かり翼の操作が鈍くなって落下してくる。


「ええええ!?」


女性は驚きのあまり声を上げる。

掛からなかった少数の鳥は異変を察知して逃げて行った。


「おお、いけるもんだ。っぐ…!?」


抵抗する鳥たち全員の力を一身に受けて魔法が綻びそうになる。

加えて魔力を一気に消費したことによる脱力も襲い来る。


「だ、大丈夫ですか!?」


「ぐっ!トドメを!」


『魔力壁』を解除する。


「あっはい!」


女性は短剣を両手に次々とトドメを刺していく。



「これで最後っ!」


最後の一匹の首を断つ。


「ふぃー…危ない危ない。解けるとこだった」


 複数に『スロウ』を掛けると抵抗する力が合わさるとは…『強化』込みでギリだった。良い勉強になったな。


「ありがとうございます!助かりました!」


 多分この人がカーラさんだと思うけど…


「どういたしまして。俺はアインです。貴方は?」


「カーラです!」


「やはり貴方がカーラさんですね。急ぎましょう。相棒が心配してましたよ」


「ワフィカに会ったんですか!?」


「はい。落とし物を探しに行ったと聞きました。あ、落とし物は見つかりました?」


「はい!」


カーラは懐から小さな白猫の人形を取り出す。

 可愛いっ。


「良かったです。じゃ、俺はこの辺で」


「あ、待ってください!せっかくなら一緒に戻りません?」


 確かに結構時間経った気もするし、なんならかなり消費してるしな。こっちも人が居る方が心強い。


「そうですね。俺も誰かと一緒の方が安心ですし助かります」


「ありがとうございます!じゃっ、行きましょ!」


また視線を感じる。


「ん?」


感じた方向を見るが何もいない。

 さっきもあったよな…


「?どうかしました?」


「あ、いえ。行きましょう」


 何だ…?




「…アインさんのランクって聞いてもいいですか?」


「ええ、Cランクです」


「やっぱり!あんな魔法バンバン使える人がDランクなわけないですよね!そしたらCランクの魔域に行ったことももちろん…?」


「はい、ありますよ」


「あのっ!私たち、Cランク魔域で探索して稼いで、家を買うっていうのが目標なんです!それで、行ったことのある人に一度実力を見てほしいなって思ってたんです!Dランクになって濡れ森(ここ)を探索するようになって結構経ちましたしそろそろCランクにどれだけ通用するか知りたいんです!」


「…正直どれだけの力があれば大丈夫か俺には分かりませんが、少しでも力になれそうなら手伝いますよ」


「ありがとうございます!よろしくお願いします!」


一旦足を止めて振り返って頭を下げる。


「いいんですよ。急いでることもないですし」


進行方向から何やら声が聞こえてくる。

 今の声は…


「ワフィカ!?」


カーラは急いで走り出す。

続いて走って追いかける。


木々の間に男に腕を掴まれているワフィカが見えた。

カーラがそれを視認した途端、何かを呟き急加速する。

 速っ!?

次の瞬間には男の首に短剣を突き立てていた。


「あんた、何してんの?」


鋭い目つきで睨みつける。

男は驚きと恐怖で動けなくなっている。


「待ってカーラ!この人は立つのに手を貸してくれただけなの!」


「っ!ごめんなさい!」


短剣を下げて頭を下げる。


「あ、ああ。誤解が解けたならいいっす」


「あれ?大丈夫な感じ?」


 剣を突き立てたかと思えば頭下げてて何のこっちゃ分からんが…


「大丈夫っす!ちょっと誤解させちゃっただけっす!」


男は能天気に言う。

 コイツ今殺されかけてたと思うんだけど…


「あんた、優しいな…」


「え?そっすか?ありがとっす!あ!自分先に行くっす!お疲れ様っす!」


勢いのままに男は脱出門を抜けていった。

 なんか人当たりのいい人だったな。


「ごめんワフィカ!私また早とちりしちゃって…」


カーラはワフィカに抱き着く。


「んーん。ありがと、心配してくれて」


ワフィカも優しく抱き返す。

それを見てほっこりした気持ちになる。

 良かった良かった。


「あれ、あんたさっきの…」


ワフィカがこちらに気付く。


「あ!そうだ!この人はアインさん!なんと、Cランク探索者さんです!」


「えっそうだったの?」


「そうなの!それで、そろそろCランクかなみたいな話したじゃん?そこで、Cランク魔域に行ったことがある人に実力見てもらえばいいなって思って協力を頼んだの!」


「…ちなみに本当にCランク?」


ワフィカは疑っているようだ。


「あ、そしたらカード…はい」


銀色のカードを取り出して見せる。


「本当にCランクなのね…ごめんなさい疑ってしまって」


ワフィカは軽く頭を下げる。


「全然気にしてないからいいよ。んじゃ、一旦出てから話そう」


「そうですね!行こ!ワフィカ!」


カーラとワフィカは手を繋いで先に脱出門を抜けた。


「さて…」


振り返って少し上を見る。

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