ep.12 ”星空”
魔域を出ると太陽が頂点に来る頃だった。
「ふー…魔法どころか『壁』も意味がないとは…まさに天敵だ。それに腕がああなるくらいの強化でも精々押し返す程度…」
それに話では剣でも弱点以外は通らないらしいし…
「どうすれば倒せるんだか」
出魔品と魔石の換金をしに集会所に赴く。
「…お待たせしました。合計で大銅貨9枚になります」
今日は落ち着いた雰囲気の男性が受付をしてくれた。
「ありがとうございます」
この後はどうしようかな。久しぶりに体鍛えようかな…
「オラどけや!低ランクども!」
「ほれ道を開けろ!」
この後のことを考えながらお金をしまっていると入口から怒号が聞こえてくる。
なんだ?
荒々しい様相の男二人は列を無視して受付に割り込んでくる。
男の腕が当たってお金が床に落ちてしまった。
「おっとわりぃわりぃ。んな小銭見えなくてな。オラさっさと拾って失せな」
この手の人間に会うのはずいぶん久しぶりだ。今まで優しい人ばかりで忘れてたな。
「ハァ…」
思わずため息を溢す。
「あ?なんだその態度は?俺ぁBランクだぞ?」
男はアインの胸倉を掴み、自信満々に金色のカードを見せびらかす。
「Bランクのグラウヅ様だぞ!態度をわきまえろ低ランクが!」
グラウヅと呼ばれた男の後ろからもう一人の男も悪態をつく。
「Bランク!?じゃあ出魔品で魔導書が出たこともあるんですよね!?どんな魔導書でした?」
「な、なんだコイツ…魔導書とか知らねえよ!」
グラウヅは困惑した様子で手を離す。
「ってことはやっぱりBランクだとまだそんなに沢山出たりはしないんですね…」
「うるせえな!邪魔だ!」
グラウヅに突き飛ばされ尻もちをつく。
「いった…」
「低ランクが高ランクにしゃしゃってんじゃねぇ!」
「そうだ!立場を考えろ!」
どうしたものか…
「職員さん、この街でおすすめのご飯屋さんを聞いてもいいですか?」
え?
グラウヅからさらに割り込んで凛々しい青年が受付に質問をする。
「…テメェ何のんきなこと聞いてんだ?俺の邪魔すんじゃねぇ!」
「ああ、すまない。彼の次は私の番だったからさ」
青年は淡々と言った。
男は怒りで眉をピクつかせている。
「どんだけ俺をコケにすれば気が済むんだこの野郎!この街にいるってこたぁどうせCランクまでの低ランクだろ!その上のBランク様に盾突くんじゃねぇ!」
グラウヅは青年の胸倉を掴み上げて怒鳴る。
「そうか。じゃあ君は私に盾突いてはいけないってことになるな」
青年は懐から黒いカードを取り出した。
黒!ってことはAランク!?
「く、黒…な、なんでAランクがこんな街に…」
「ああすまない。よく見てくれ」
カードをよく見ると星空のように煌めいている。
「あ、貴方様はもしかして、”星空”様ですか?」
職員の一言に場が凍り付く。
白から黒のどの色にも属さないカード、職員の二つ名呼び。
「そうそう。職員さんすまないね。明日着くって話だったと思うんだけど仕事が早く終わってさ」
”星空”と呼ばれた青年はとても愛想よく話す。
「い、いえ!問題ございません!」
「よかったです。あ、ちょっと手を離してもらえるかな?」
グラウヅはハッとして震えながらそっと手を離す。
「さて、君はグラウヅとか言ったね。そんで君は?」
青年はグラウヅにくっついていた男に目線をやる。
男は恐怖からか声も出せないで震えている。
「…『名前は?』」
「ヒュラフ…」
ヒュラフは驚いた様子で両手で口を覆った。
「グラウヅ君とヒュラフ君ね…『今すぐにこの街から出ていけ。そして二度と踏み入れるな。いいね?』」
二人は勢いよく何度も首を縦に振る。
「話せば分かるじゃないか。じゃ、行っていいよ」
二人はすごい形相で走って出て行ってしまった。
「君、大丈夫かい?」
青年は膝に手をついてこちらに手を差し伸べる。
「すみません。ありがとうございます」
青年の手を取り立ち上がる。
「それと、落ちてたこのお金は君のだよね?」
「あっ、はい!」
あれ?床に落ちてたはず…
青年は優しく大銅貨を手渡す。
「あ、すみません職員さん。おすすめのご飯屋さんは…」
「はい!”熊の背”というところがおすすめです!」
「ありがとうございます。早速行ってみますね」
「ありがとうございました!」
職員は深々と頭を下げる。
青年は会釈を返して集会所を後にした。
青年が出て行って少ししてから静寂に包まれていた集会所内はざわめきで溢れる。
「思ってたより若いんだな…」
「あれが噂の”星空”か」
「かっこよかったね!」「ね~!」
「俺はてっきり厳つい大男かと思ってたな」
あれが、Sランク…会話の途中で魔法の気配を感じた。でもそれっぽい言葉は言ってなかった。どういうことだろう…もしかして固有魔法?いやでも…
考えに耽りながら集会所を後にする。
考えながら歩いていると気付いたら宿に戻ってきていて空腹で我に返った。
「そうだ昼飯まだだったな…」
「ん、君はさっきの…」
”熊の背”に入ると”星空”とばったり出会った。
えっ!?
「”星空”さん!?」
「二つ名は嫌いじゃないけど、せっかくなら名前で呼んでくれ。私の名前はナザ。よろしくねアイン君」
「あ、はい…ってなんで名前を知って…」
「ベールズ君と話してたら君の話題になってね。それじゃ、また会おう」
ナザは肩に手を置いて笑顔で言い”熊の背”を出ていこうとする。
さっきの魔法の気配のことを聞くチャンスだ!
「待ってくださいナザさん!」
「ん、なんだい?」
「さっきあの男たちに魔法を使ってましたよね?でもそれっぽい言葉は言ってなかったと思うんですけど…」
「ああ、君ならきっと私が教えなくてもそのうち分かるさ。じゃ、これからも自分の好きなことを大切にね」
ナザはそう言い残して出ていった。
そのうち分かる?
「それってどういう…」
追いかけて道に出るがナザの姿はなかった。
え?消えた…?
「ナザさんはエリルーアの親戚らしくてな。たまーにこうしてこの街に来るのさ」
ベールズが肩に手をまわしてくる。
「ベールズさん」
「ほら腹減ってんだろ?席に着きな!」
店内に連れられて背中を平手打ちされる。
「いっった!」
体治しとけば良かった…
―――
「いらっしゃい!どっか好きな席に―」
誰かが入店してきたことに気付いていつものセリフを言いながら入口を見ると、見知った人が居た。
「やあベールズ君」
「え!ナザさんじゃないですか!ちょっと待っててくださいすぐ出しますんで!」
「時間はあるから急がなくていいよ」
ベールズの普段とは違う様相に周りの客はどよめいている。
「すいませんお待たせしました!」
いそいそと料理を持ってきてさっとテーブルに乗せる。
「ありがとう。そういえば、集会所でおすすめの店を聞いたらここだって言ってたよ。頑張ってるみたいで何よりだよ」
「ありがとうございます!これからも頑張ります!」
「ああ。そしたら食べてる間、話を聞かせてくれるか?」
「はい!もちろんです!」
「あ!あと最近面白いやつが来ましてね!期待が膨らんでますよ」
ナザの食事の手が止まる。
「へぇ?君が期待するとは珍しいね」
「ええ、久しぶりですよ。間違いなく彼は大物になりますよ」
「して、名前は?」
「アイン、です。これまた珍しいですね。ナザさんが名前を聞くなんて」
「君にそこまで言わせる相手なら気になるさ。ま、目星は付いてるけどね」
「会ったんですか?」
「ああ、集会所に到着の報告に行ったときにね。輩に絡まれていたが、奴ら程度アイン君なら私が居なくてもなんてことはなかっただろうな。やるかどうかはさておきね」
「ええ、彼は強いですよね」
「あの歳であの魔力は大したもんだよね。一体どんな生い立ちなんだろうか」
「あ、生い立ちは知らないですけど思い当たる節がありますね」
「ほう?」
「彼は魔法が一番好きなんですって」
それを聞いてナザは笑いを溢す。
「フフフ…いいね。楽しみだ」
食事を終えて席を立つ。
「確かお代は大銅貨4枚だっけ?はい」
「いやそんな!ナザさんからお代はいただけませんって!」
「え~?じゃあ『これ』で」
ナザが指先をくるりと回すとソースや肉汁が付いていた食器があっという間に新品同然に綺麗になり、さらに魔法の気配が店を駆け巡る。
「いやいやそしたらこっちがお代払わないといけないじゃないですか!」
「んじゃ、お代は”君たちが幸せに暮らすこと”で。またね」
「は…はい!お元気で!」
頭を下げて見送る。
全く…この人はほんとデタラメな…
「ん、君はさっきの…」




