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ep.10 天敵

脱出門までは何事もなく、無事に外に出れた。

リズとルークは日の光を浴びてどっと肩の荷が下りたような顔で一息ついている。

 魔物が居なくて良かった…魔域で魔力切れになるとこうも怖いものか…

無事に魔域を出た安心と魔力切れによる脱力感でとにかく寝転びたくなる。


「ふぅ…ちょっと休憩していいか?」


フラフラと門の横に避けて座り込む。


「ああもちろん。…大丈夫かい?」

「…大丈夫?」


二人はアインの様子を見て心配している。


「ただの魔力切れ。よっと…少し休めば大丈夫」


門の脇の草を枕にして仰向きに寝そべり目を閉じる。

 やっぱり魔力切れはキツイな…今回は二人がいたから良かったけど魔域にいるときは気を付けないと…




しばらくして歩き回れる程度には回復したので起き上がると、二人は話を止めてこちらに向き直る。


「アイン君、改めて助けてくれてありがとう。お礼は何がいい?何でも言ってくれ」


「いや、いいよお礼なんて」


「じゃあ…回復薬分のお金を払わせてくれないか?」


「え?」


「これだけの怪我を治す量ならきっとかなり高価だろう…全額払えるか分からないが、僕に出来ることはこれくらいで…」


ルークは頭を下げる。

 そもそも値段とか色々知らないんだけど…


「回復薬じゃなくて魔法で治したからお金はいいよ」


「…え?魔法?」


「…信じられないけど、本当にそういう魔法を使ってたの」


リズが口添えをする。


「じゃあ魔力切れは”アイツ”をどうにかしたからじゃなくて…まさかそんな魔法…いや、僕がこうして生きているのが何よりの証拠か…」


ルークは痕が残った腕を抱いて呟く。


「…私からもお礼をしたい。何か欲しいものとかある?」


「欲しいもの…魔法かなぁ」


 でも魔導書はあの高いやつ以外ほとんど買っちゃったし…


「あ、あれだけの魔法を使うアイン君に教えられるような魔法なんて…」


リズはしおしおと縮こまってしまう。


「いや別に何でもいいんだ。知らない魔法なら何でも。教えられないなら魔法の名前だけでもいいからさ」


「そう言われても…」


リズは完全に自信を無くしている様子だ。

 本当に何でもいいんだけど…


「…そういえば、ルーク君はこのローブ着てないよね。その鎧が特別?それとも魔法でどうにかしてるの?」


「!う、うん。魔法だよ。でも、それは…」


リズはルークの方に目を泳がせる。ルークは目を伏せている。

 もしかして…


「…固有魔法なの?」


リズは緊張した面持ちで静かにうなずく。


「じゃあしょうがないか…そしたら魔法以外で欲しいもの…うーん…」


「え…?」


「そ、それだけ?」


二人は呆気にとられたような顔で驚嘆の声を上げる。

 正直すっっごい気になるけど…


「昔、探索者だった父さんに教えてもらったんだ。”固有魔法を自らさらけ出して注目を浴びようとする人が多いけど、反対に秘密にしておきたい人もいる。だから固有魔法の扱いには気を付けろ”って」


「っうぅ…」


リズは突然涙を流す。


「え!?ちょっ…どうした!?」


「…リズの固有魔法はとても強力なものでね…篭絡してリズの魔法を我が物にして利用しようとする奴らに追われたこともあるんだ」


 追われたことも…

ルークはリズの背中をさすりながら言う。


「それから必死に逃げてきて、ここに来てからも周りにバレないようにずっと隠してきた。でも…リズのことだから、命の恩に報いるためには求められたら教えなきゃいけないって思ってたんだろう?」


「う”ん…」


包み込むように優しく言うルークにリズは大粒の涙を溢して答える。

 だから俺が固有魔法かって聞いたらあの反応をしてたのか…


「辛い事を思い出させてごめん…」


「違うの、安心したら涙が止められな”くて…本当にありがとう」


 リズさん…


ぐぅぅ~


アインのお腹が鳴った。


「…お腹空いちゃった」


「…フフッ」

「…あははっ」


二人は一瞬ポカンとしていたがすぐに穏やかに笑った。




今日は集会所に行く前に早めの昼ご飯を食べることにした。


「じゃあお礼は昼飯代ってことでいいや」


「いやいやそれじゃ全然恩に釣り合ってないよ!」


「そうか?」


 今回は結構食べるつもりだけど…


「ほいお待たせ!先に二人分な!アインのもすぐ持ってくるからちょい待ち」


ベールズは相変わらず席に着くとすぐに料理を持ってくる。


「よっと!今日は多く食ってくだろ?」


いつもの倍以上の量の料理を豪快にテーブルに置く。

 

「ああ。本当よく分かるなベールズさん」


「まぁな!んじゃ、ゆっくり食べな!」


早速肉にかぶりつく。


「…これ全部食べるの?」


リズは軽く引いている。


「ん?うん」


「初めて会った時からなんとなく感じてたけど…ここまで魔力が多いなんて…」


「ああ、魔力があればあるだけ魔法が使えるからさ、魔法を沢山使うために魔力を増やす鍛錬はずっとやってるね」


リズは少しポカンとしたが笑みを溢す。


「ふふっ、どんだけ魔法が好きなのよ」


「そりゃ、一番さ」






「ふぃー…お腹いっぱいだ」


「本当に全部食っちまうとは…あ、ベールズさん、お代は僕が払います」


「あいよ!お代は占めて小銀貨1枚と大銅貨5枚だ!」


「はい」


「まいど!じゃまたな!」


「それじゃ俺はこれ換金して宿に戻るよ」


出魔品が入った袋を手に席を立つ。


「あ、待ってくれ!まだお礼を…」


「いいって!昼飯代で十分…いや、じゃあその傷を負わせたヤツについて聞いてもいいか?」


ルークの火傷跡を見て思い付く。


「ああ…これをやったのは徘徊型のヌシと思われる…巨大な蜘蛛だ。毛むくじゃらな黒い体に赤い模様をしている。そいつが吐いた液体でこうなった…」


――――――


「オラァ!っし!」


赤黒い百足を兜割にする。


「『風錬』!」


リズはすかさずルークの背後に迫っていたもう一匹の百足の首を切り飛ばす。


「もう、慣れてるからって油断しないで」


ルークに近づくと落ちていた百足の頭が動き出してリズに迫る。

ルークはそれを見逃さず半分に切り捨てる。


「油断がなんだって?」


「…悪かったわよ。ありがと」


カサカサ…


「ん…?今の…」


「…私も聞こえた」


カサカサカサ…


「近づいてきてる…!」


ルークが前に、その後方でリズが構える。

坑道の先の暗闇から巨大な蜘蛛が姿を現す。


「蜘蛛…!?」


 蜘蛛なんて今の今まで遭遇しなかったぞ…?


「『氷球(ひょうきゅう)』!」


リズが頭を狙って先制攻撃を仕掛ける。

しかし氷の球は毛に弾かれ天井に命中する。天井には小さな氷塊がパキパキと音を立てて作られる。


「弾かれ…!?」


蜘蛛は隙を逃さずリズに襲いかかろうとする。

しかしルークが蜘蛛を剣で弾き返す。

蜘蛛は連続で襲い来るがルークはそれを全て弾き続ける。


「硬っ!すぎるだろ!今まで傷すら付かない奴なんて!いなかったのに!」


 感触はまるで金属…!


「ルーク!行くよ!」


リズの声掛けで後ろに飛び退く。

ルークが退いた瞬間、蜘蛛は好機と見たか、ここぞとばかりに襲い掛かる。


「『氷界(ひょうかい)』!」


リズが構えた手から先が火山の坑道から一転、氷の洞窟と化した。

蜘蛛はリズまであと一歩というところで瞬間冷凍され氷のオブジェのようになる。


「ハァツ、ハァッ…!」


「大丈夫か!」


リズはふらりと倒れそうになるがそれをルークが支える。


「うん…ふぅ。久しぶりに一気に消費したから…」


「ここまでの魔物は今まで居なかった…」


「もしかして…ヌシじゃない?」


「あり得るな。だとしたら徘徊型のヌシだったのか…通りで今まで会わなかったわけだ…」


パキパキ…


「え!?」


バキャア!


蜘蛛は纏っていた氷を割り破って襲い掛かる。

ルークは咄嗟にリズを後ろに放り投げる。


「ぐあっ!」


ルークが蜘蛛に捕まる。

 なんつう力だ…!


「ルーク!!」


蜘蛛はすかさず顔に毒液を吐きかける。

避けきれず顔の右半分にもろに毒液がかかる。毒液は皮膚を溶かしながら流れて傷を拡大する。


「あああああッ!」


ルークは力を振り絞り剣を持っている右腕の拘束を振りほどき、剣を蜘蛛の口付近に突き刺す。


ギイイィッ


蜘蛛は怯んで拘束を解く。

その隙にルークは立ち上がる。すると毒液が体に垂れていき激痛が走る。


「ぐうううっ!」


「ルーク!」


蜘蛛は少しもがき、剣が抜けるとリズに向かって毒液を放った。


「リズ!」


ルークがリズを突き飛ばしリズは事なきを得たがルークの腕に毒液がかかる。毒液は鎧の隙間から侵入し肌に到達、激痛を与える。


「うぐぅ…!」


「ッ!やめてぇ!!」


リズは蜘蛛と自分たちの間に氷の壁を生成して道を塞ぐ。


「ルーク!ルーク!!」


「触らないで!ぐ…うぅ…水、水で、洗い流せるか?」


「う、うん…『水塊』!」


人の頭ほどの大きさの水の塊を患部を洗い流すように動かす。毒液は洗い流され傷の拡大を防ぐことに成功した。


「ありが…と、う…」


ルークは気を失い倒れる。


「ルークっ!!」


――――――


二人は固有魔法のことはぼかしながら語った。


「…非常に硬い毛に覆われた上に、強力だというリズさんの固有魔法すら効かず、毒液を吐く…か」


 魔法が効かないのが一番やばいな…


「何か弱点は無いのか?」


「うーん…あ、そういえば、口の近くには剣が刺さったな」


「口の近く…毛が薄いとか?」


「かもしれないな。でもあの攻撃を捌きながら口元を正確に斬りつけるなんて…とても出来ない」


「んー…遭遇したら壁を張って逃げに徹するしかないかな」


「そうね。魔法が効かない以上、アイツは魔法使いの天敵。逃げるのが良いと思うわ」


「だな。じゃ、ありがとう。この話を聞く前に遭遇してたら魔法使いの俺は為す術なく大怪我、あるいは死んでたかもしれない…てなわけで、これでお礼は十分貰ったよ」


「!分かった…でもこれから困ったことがあれば遠慮せず言ってくれ。必ず力になると誓おう」


「私も力になるわ」


「ああ、その時はよろしく頼むよ」

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