深緑と白の応援
「ねぇユイ、この後時間ある?」
放課後、公立受験を控えた受験生にとって2月に入れば毎日時間さえあれば机と向き合う時間を増やさなければならないため、時間があるとは言えないだろう
かくいう私だって例にもれずその一人
志望校の受験を控えているのだ
「時間、、、あるっちゃあるけど、勉強しないと」
「マジでちょっと! 本当にちょっとだけ時間欲しい!」
「ミナが其処まで強請るなんて珍しい、1時間だったら時間あるから良いよ」
私立受験の終わっている友人、ミナが此処まで時間を欲しがるのは珍しい。
何かと思いつつもOKを出す
「で?用事ってなんなの」
リュックを背負い、何時ものように彼女の用事を聞き出す
「連れていきたいところがあるんだ」
そんなことを言う彼女の横顔は、悪戯っ子の様に満面の笑みを浮かべていた
学校を出て、何時もの家路とはまた違った道を、友人に手を引かれて進む
進んでいくにつれて、人も少なくなり、次第に居なくなっていった
何処に連れていかれるんだろうか、などと手を引かれて考えていると目の前を歩いていた友人が足を止める
「ちょっと目ぇ瞑って!」
と、後ろに回ったと思ったらすぐに手で視線を遮られる
なに、と声をあげそうになったがミナはすぐに はい歩くよ~! と言葉を遮る
こうなったら私には止められない
学校の校庭とはまた違ったような地面の感触を感じつつ、友人に連れられて足を動かす
そよ風が心地いい、此処まで来るのに少し丘を登ったからな、騒音も聞こえない、ほとんど人が来ないのかな?
そんなことを考えていると、友人が視線を遮っていた手を退ける
「じゃ~ん!綺麗でしょ、一面のクローバーにシロツメクサ!」
此処、受験前に見せたかったんだと悪戯の成功した子供のような楽しそうな顔を浮かべる彼女
目の前に広がるのは、野原特有の深緑に点在する白い花、、シロツメクサ
一ッ葉、二ツ葉、三ツ葉、、足元にある、四ツ葉
彼女なりの、勇気づけなのだろうか
「シロツメクサの花言葉は 約束 クローバーにも葉の数によっては言葉が違うんだけど、、」
言葉を切って、しゃがみ込んだと思えば、あまり見ることのない一ッ葉のクローバーをちぎって此方に差し出す
「一ッ葉の花言葉は 困難に打ち勝つ とか 始まり っていう言葉があるんだよ」
凄いでしょ!と嬉々とした表情で語ってくる彼女
「ユイ、受験で最近張りつめてたからさ、勇気づけって感じで」
「、、うん、有難う 絶対合格しなきゃね」
がんばれ!と手を差し出してくる私の友人の顔は、嬉しそうで
此方も釣られて微笑み、手を握る
十五の冬、大きな舞台である高校受験を控えた私に、背中を押してくれた、自由人な彼女との何気ない日常だ