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第3話 義理の妹と結婚したい

 走って向かう前に少女は飛び降りた。


 マジかよ……!


 崖の底へ落ちていく。


 ふざけんな、俺が先に逝くはずだったのに……よりによって何で目の前で落ちやがる。

 しかも、普通にしていれば人生イージーモードだろうに、そんな簡単に身を投げ出すとか……!


 怒りや悲しみ、そして俺は少女を助けたいという思いで飛び込んだ。


 これは決して自殺ではない――!


 こんな可愛い子を死なせてたまるかという、俺の身勝手な願いが体を動かした。



「うおおおおおおおおおお……!!」



 なんとか追い付いて少女の手を掴んだ。しかし、そのまま海へ落ちた。



『――――――』



 幸い泳ぎが得意な俺。良かった、スキューバダイビングのライセンスを持っていて……! まさかこんなところで役に立つとは。


 しかも、更に幸運なことに岩に激突せず、波が穏やかで流される心配もなかった。これなら戻れるぞ。


「……うっ」


 少女は水を飲んで苦しそうにしていた。

 急いで戻らないと!


 泳いで岩場まで向かう。

 東尋坊には崖っぷちだけでなく、岩場もあるんだな。知らなかったよ。


 なんとか陸に上がれた。


 俺は少女を寝かせ、様子を見た。……改めて見ても美しい。恐らく年下。中学生か高校生のようにも見える。

 でも多分、高校生だ。



「おい、大丈夫か……!」

「…………けほっ、けほ……」



 水を吐き出す少女。

 意識を取り戻し、目を開けた。ぼうっとした表情で俺を見て、少し驚いていた。



「おい、君。死ぬんじゃない……命がもったいないだろうが!」

「そ、そういう……あなただって……飛び降りようとしていたでしょ……」


「え……」


「あなた……わたしが来る前からずっといましたよね」

「そ、それは……まあ……」



 東尋坊には四時間以上は滞在していた。俺はずっと思いとどまって、飛び込めないでいた。……だって怖いじゃん。



「なんで助けたんですか」

「なんでって……死ぬくらいなら俺と付き合ってくれよ! 婚約者を寝取られて人生最悪なんだ……! いっそ君となら付き合いたい」


「へ……」


「頼む!! 切実なんだ!!」


「あは……あははは……。面白い人ですね」



 少女は面白おかしそうに笑った。なんだか、吹っ切れたような表情さえしていた。



「なんだ、笑えるじゃないか」

「わたし……人生をやり直したい」

「重そうだから詳しいことは聞かないぞ」

「はい……いつか言います」

「ああ。よし、じゃあ俺と一緒に人生やり直そう。金なら腐るほどある」



 そう冗談みたいに言うと、少女は納得した。

 死ぬことを思いとどまり、腕を伸ばしてきた。



「わたしの名前は……詩乃(しの)(はく)() 詩乃(しの)です。高校二年生で……両親も親戚もいなくて……頼れる人もいなくて、ひとりぼっちです」


「詩乃、いい名前じゃないか。俺は八一だ。大学生だよ」

「じゃあ……お兄ちゃんですね」

「そうだな。そうだよ! ひとりぼっちなら俺の義理の妹になれ」


「……うれしい」



 涙を零し、嬉しそうに微笑む詩乃。だが、入水のダメージがあったのか気絶した。……いかん、低体温床かもしれない。直ぐに救急車を手配せねば!


 俺はスマホを取り出し、迅速に通報。

 すぐに来てもらった。


 その後、詩乃は病院へ運ばれた。

 俺も付き添いで向かうことに。



 驚いたことに詩乃は、ただの風邪で済んだ。重いケガもなく、それだけで済んだ。

 しばらくして迎えがやってきた。


 俺は“実家”に電話して専属の執事に迎えにこさせた。



「お久しぶりです、坊ちゃん」



 マイバッハで現れる執事のジークフリート。

 ドイツ系の老人。幼少から俺と共に過ごして、今でも変わらず接してくれている。



「坊ちゃんはヤメロ。ジークフリート、この少女は住む家に困っている。死にかけていたところを俺が救った。妹にする」


「なるほど……って、なんですとォ!?」



 ジークフリートは飛び跳ねるほどに驚いていた。



「黙って家出したことは悪かった。父上も怒っているだろう……でも、今回の旅で俺の頭は十分に冷えたよ」


「坊ちゃん……まさか死ぬおつもりだったのですか」


「婚約者を寝取られたんだぞ。世界が終わった気分だったよ」


「……八塚様の件ですね。これは出過ぎた真似を」

「いや、いいんだ。確かに辛かった。でも、あっちこっち旅をしたら人生観が変わったよ。それに、詩乃とも出会えた」


「本気で妹にされるのですね?」


「ああ。いつか義理の妹と結婚したい」



 俺は大まじめに、ありのままの気持ちをジークフリートに打ち明けた。


 そうだ、俺も人生を変えるんだ。

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