束の間の、庭園での幸福な時間
束の間〜束の間〜♪
と、いうわけで、今回はちょっと緩く、ギルドメンバー達の朗らかな対話などをメインに描写させて頂きました。どうぞ、楽しんで!
第六十二章
「…流石に、可哀想になってきました…」
「いやいや。義手が治れば、また腕、使えるんだから。」
「と、いっても片腕、しかも義手の方だけですけれど…」
「…義手が本当に治るかも分からないしな..」
「あっ、ゾーシくん、動かないで、下さい!まだ治療中、です!!」
個人ギルド、リバティマジックの五人は、ウィグズリー侯爵邸の庭園で優雅な時を過ごしていた。多分。
「…ごめん。」
ゾーシは起こした身体をまたベンチに寝かせた。彼の頭上では、子ウサギが檻の中ですやすやと眠っている。
「こんなに広い庭があるなんて…しかも、ベンチ付きですよ?凄いっ、あっ、見て下さい、薔薇の花です!!」
平民のノイは先程からキョロキョロと庭園を見回している。
「薔薇の花があるのって、当然の事じゃない?薔薇の花がない庭って、庭なの?」
ディケはアニーに尋ねた。この言葉には、全く悪意はない。ただ、純粋に、疑問だったのだ。
「え、ええっと…確かに、パラディゾ邸にも薔薇は咲いていますけど…平民の方々は、そこまで大きな庭は持っていないんじゃないでしょうか?」
アニーは困った様に答えた。
「え、そうなんだ…あ、これも改善するべき点なのかな…」
ディケは一人、静かに呟いた。
「どうかされまして?ディケさん?」
「いっ、いや、なんでもない!!ありがと、アニー。」
「そうですか…あっ、そういえば、お二人の出身はどちらなんですの?まだ伺っておりませんでしたわね。」
アニーの何気ない言葉に、ディケとノイは固まった。
この間、ルドルフ・ウィグズリーは一人、正門前でディケの作りだした炎に手を突っ込み、痛みと戦いながら粉々になった部品を集めていた。
「わ、私は、レイヴォルフ公爵領、ブルーファウンテンで、母と二人で暮らしていました。ディケと出会ったのは、王都の城下町で、確かあれは一週間ほど前のことだったかと。パラディゾ領地に入るまで、ディケを診てくださる方を探して、何日か移動し続けましたから…」
「では、お二人も、まだ出会って間もないのですか?」
アニーが二人に尋ねた。その間も、回復魔法の手は休めない。
「あっ、そうだね、なんか、こう、偶然会ったんだ!路地裏から出て来た所にぶつかって!」
「ぶつかる…?なんだか異世界漫画みたいな展開だな…」
「異世界漫画、ですか?えっと、パンを咥えて走ってたら、転校生さんとぶつかって、それで…」
「えっ、シェラペティー、知ってるのか…?」
「うん、お母様の部屋にあった、ので!」
「っ?!シェラ、お母様の部屋に勝手に入ったの?!」
「えっ、いや、そんな、別に、違う、わたし、別に…違う…別に…」
分かりやすく慌て始める妹に、アニーは呆れた表情をみせる。
「はぁ…本当にあなたは…」
「まぁまぁ、小さい頃はみんな、好奇心いっぱいだし、いいんじゃない?ぼくも、好奇心だけで魔法とか、剣術とか、覚えたしさ!そしたら、師匠がもっと教えてあげようってぼく達に…」
ディケが楽しそうに笑いながら言った。過去の至福な記憶を思い出していたのだろう。
「わたくしは…そうですね、シェラへの対抗心、も確かにありましたけど、マリオ兄妹から魔法を教わっていた時間は、有意義で、大切な宝物ですわ。」
「わたしも!マリオンさんも、マリオネットさんも、すっごく優しくて、楽しかった、です!」
シェラも話に加わる。
「自分も…母さんに教わった…召喚魔法…氷結魔法は…大変だった。けど、いい思い出だ。」
ゾーシも空を見て微笑んだ。それに賛同するかの様に優しい風が二回、ゾーシの髪をかき上げた。
「あっ、今の、お兄様と、お姉様、ですか?!すごい、こんなこともできる、んですね!」
シェラも空を見上げると、彼女の白い髪が風になびいて揺れた。
「えっ!!面白そう!!ぼくにもやってやって!!」
ディケが立ち上がって言うと、彼女のローブのフードが持ち上がって、ぽすっと頭にかかった。
「うわっ、前が見えないっ…あははっ、も〜!」
ノイはそんなディケの様子を見て微笑んだ。何故家出をしてきたのかはわからないが、無邪気に笑う姿は、ノイを幸福で満たした。
「ふふっ、モーシアさん、何を考えているんですか?表情が、溶けそうなくらい緩んでますわよ。」
「えっ?!」
クスクスと笑いながらアニーに指摘され、ノイは慌てて真面目な表情を作る。
「こっ、これでどうでしょう?」
「ふふふっ。凛々しいお顔で。」
冗談混じりに言うアニーに、ノイは頭をかいた。
「お恥ずかしいなぁ…」
「笑っていた方が、福も来ると言いま…」
『王国騎士団だ!!この屋敷は包囲されている!!国に仇なす悪党共よ!!その首を我らに差し出せ!!』
男の声がウィグズリー侯爵邸に響き渡った。
なんか来ちゃったねぇ。なんか来ちゃったねぇ。第ピンチですわ。うふふ。




