重犯罪、常習犯。
偶然ではなかったゾーシの救いの手とは…?!
第五十六章
『姉さん。』
『あぁ、ゾーシかい?すまないね、なんだか、懐かしくて…』
姉の言葉に、ゾーシと兄は頷いた。彼らの故郷、アイスレイクの森には、澄み渡った水が魅力的な、小さな湖があったのだ。
『行こう。自分達の様に、被害に遭う動物達が多くなる前に。』
『…そうだね。行こう。』
ゾーシは召喚魔法を解いて兄妹達を異空間に戻らせると、道に出て馬車を呼んだ。
「…坊主、親はいないのかい?」
御者がゾーシを怪訝そうな顔で見て言った。
「…金……」
「…乗りな。」
決して御者は金に目が眩んだ訳ではなかった。まだ小さな少年が一人で彷徨っていることに、慈悲の心を持ったのだ。
「…」
ゾーシは一人、馬車に揺られていた。窓の外の景色は、自分の足で歩くのよりもずっと早く、過ぎて行く。
しばらく行くと、馬車が止まって、領地入出検査が始まった。ここから先は、パラディゾ侯爵の治める土地らしい。
「馬車の操縦許可証を見せろ。」
「客は一人か?」
「…よし、行っていい。」
ー王国騎士団の奴らか…あの王とは違って、きちんと仕事はしてるんだな…
馬車はパラディゾ領地の中を馬を走らせ、進んでいく。
「坊主、行き先は、アイリスの森で合ってるっ…!!!」
御者の男がゾーシを振り返って尋ねようとした瞬間、馬車が大きく揺れた。
「…は…?」
「ノノノノノノノノノノイッ?!だ、大丈夫?!いや、大丈夫じゃないよね!!うわっ、なんか骨出てない…?」
「どどどどどどどどどどどどどうしましょう!!シェ、シェラ、あなた、人を、殺っ…」
一つは高く、もう一つは上品な、二人の女の声がした。どちらの声も、うわずっている。
ゾーシは馬車の外へ出た。周りから、ガヤガヤと人が集まってくる。御者は、二人の少女達に必死に謝っている様だった。
ー人間は苦手だ…
「いや、えっと、これは、ぼく達のせいなので!!」
「そうです!!わたくしの、妹は、重犯罪を犯してっ…」
「アッ、アニー!この近くに、検問があるし、すぐに王国騎士団の人たちが来ちゃうよ!!」
「えぇえっ!!なっ、なら自首を…」
「血迷ったこと言ってないで、早く逃げようっ!!」
ー犯罪者だ…常習犯だなコイツ…
ゾーシはこの集団には関わらない方が良いと判断し馬車の中に戻ろうとした。
「あのっ、ごめんなさいっ、ほんと!!それじゃ、ぼく達はこれでっ!!」
高い声の女に言われ、振り返ると、目に映ったのは、綺麗な赤髪だった。
「母さっ…」
慌てて叫んだが、赤毛の持ち主はもう目の前から消えていた。
「…ここ…」
ゾーシは代金を御者に手渡すと、走り出した。
「おいっ、坊主っ…!!」
御者の男が声を張り上げたが、ゾーシは止まらずに走った。ただ、その赤い髪を求めて。
なんか悲壮感溢れる章になったなぁ。




