表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

Seasons / シーズンズ

1. 縁

作者: 高橋知秋

 本当に、なんかよくわかんない話なんですよ。友達とかに話しても、確かに怖いけどよくわかんないね、って毎回言われるんですけど。


 僕、趣味が旅行なんですけれど、旅行って言っても遠くの観光地に行くとかじゃなくて、いつも乗ってる電車にちょっと長めに乗って、降りたことない駅で降りてみる、みたいなのが好きなんです。だから一般的な意味では旅行とは言わないのかもしれないけれど。

 僕も前は新幹線に乗って遠出するような旅行が好きだったんですけど、前に読んだ本に「本当に旅が好きな人は近所を歩いていても旅情を見出せる」って書いてあって、それ読んでなんかいいなあ、と思って。まあ、そういうプライドみたいなものでこの行為を僕は旅行って言ってるんですけど。

 だから行くのはその気になればいつでも行けるようなたいして遠くないところなんですけど、あくまで旅行のつもりなんで、テンションが上がったらそのままその町のホテルに泊まったりもします。


 その時はですね、…Sって町に行ったんです。私鉄の無人駅が一個だけあるところで、すごく行き辛いんですけど。でも実は前から狙ってた場所だったんですよ。やっぱり、近場なのになかなか行けない、行く機会がない、みたいなところが一番面白いと思うので。私鉄でしか行けないんで乗り換えがとにかく多くて、近場の割に時間も手順も複雑で大変でしたけど、それ込みで楽しんでたんですよね、行くときは。


 それでいざ着いたら…本当に何もない町で。そもそも駅からして自動改札が置いてあるだけの、本当に狭い無人駅なんですよ。まあ無人駅なんて慣れてるっちゃあ慣れてるし、そもそも今はネットで検索したら駅の写真がすぐ出てくるんで、どういう駅かだいたいわかるんですけど、それでもいざ駅に降りて無人駅だと「今回はすごいぞ」ってなるんですよ。毎回。あ、すごい、ってのは、まあ、なんというか…色んな意味でテンションが上がるみたいな。…ですね。

 で、駅の外に出てみたんですけど、…だいたいその駅の真ん前に商店街があるかないかでその町の寂れ具合というか、雰囲気が分かるんですけど、Sは、まあ予想通りというか、駅前に商店街がない方のタイプで。営業しているのかもよく分からない個人商店が、ぽつぽつとあるだけなんですね。あとは民家だったり、駐車場だったり、小さな事務所っぽい建物だったり。

 これは結構コアな場所に来たな~ってなって。僕の中でやっぱり商店街があったり、ちょっと賑わってる場所があったり、って町はやっぱりキャッチーな街だな、って印象があるんです。それが無いと、コアな感じ。そういう感じがありますね。その中でもいちばんハードコアな感じがあるかもしれない、と思った。なんせコンビニすらないですからね、駅前に。ちょっと歩いたらセブンイレブンありましたけど…流石に。


 しばらく歩いてみたんですけれども、本当に…延々と住宅街が続いている感じというか。たまに小さい公園があるぐらいで、ぜんぜん何もない。普通なんか、一つぐらい何か…アイコニックなものがあるもんなんですよ。町って。雰囲気のある老舗っぽい飲食店とか、賑わってる大きな公園とか。でもそういうものがひとつもない。飲食店はぽつぽつとあるけど、そもそもやってるのかもわからない。そういう町もあるっちゃあ…あるけど、それでもこんなに何もないのは少し珍しいなと思ったんですよ。だから逆に興味が湧いて、適当にふらふら歩いてみることにしたんです。

 ただ、歩いてるうちにちょっと不安になったというか。というのも、ひと気が全然ないんですよ。ちょっとぐらい町に住んでる人とすれ違ったっていいと思うんですけど、全然すれ違わない。こんなに家があるのに何でだろう?って思って。確かに平日の昼間ではあったけど、それにしたって、ってレベルでした。途中で意味もなくコンビニ入りましたもん。この中にも誰もいなかったらどうしようと思って。まあ普通に店員さんがいて安心したんですけど…今思うとそこからおかしかったですね。


 それで…どれぐらい歩いたかな。一時間ぐらい?いやもっとかも。とにかくけっこう歩いて、ちょっと半分迷ってるみたいになりかけたときに、ふっと、脇道みたいなところに入り込んで。そしたらちょっと変なものがあったんですよね。こう、…道があるんですけど、その道沿いに塀があって、その塀に沿う形で、等間隔に物が置かれていたんです。なんか、いろんな物が。等間隔…1~2メートル間隔ぐらいだったかな。そんなん変…変というか、異様じゃないですか。しかも全然人がいない町で。

 しかも、それが…、置かれているものが、すごい脈絡が無いんですよ。植木鉢とか椅子とか、道端に置かれててもまあ分かるというか、自然なものもあるんですけど、その隣にフライパンだったり、なんか…型の古いノートパソコンだったり、本、しかも辞書だったり。一応日用品?まあその範疇というか、そういうものっていうのは共通してるんですけど、全然脈絡がない。


 最初は…言っちゃあれなんですけど、頭のおかしい人がこの近所に住んでて、ゴミとかを公道に並べてるのかな、って思ったんですよ。でもそれにしてはずいぶんと長く続くんです。本当に、数十メートルぐらい歩いても、ずーっと続いていて。流石にその線はないだろうと。

 それで次に思ったのが…町おこしでアート…なんか美術展とかやったりするじゃないですか。町ぐるみで。そういうのかな、って思ったんですよね。なんか、アーティストの人が地元の住民からもらったものとかを、一定の法則に沿って並べてる…なんて言うんですっけ?あ、それですそれ、インスタレーション。そういうのかなって。

 あとは…なんか知らない風習がこの辺にあるのかなー、とも考えました。ちょうど夏でお盆が近かったので。そういう形で何か…うーん…風習…そういうのがあるのかな、って思ったんですよね。

 でも、だったらここに来るまでの道にもなんかあっていいはずだよな~と考え直して。これ、どっちかだったとしたら、どっちにしても「この一角」にしかないのはおかしいんですよね。

 もしも風習だったらここまで歩いて来た町中のどこかで似たようなものを見ているはずだし、あるいは美術展とかだったら、他にも町の中にちょっと変わったものとかがあるはずなんです。そういうものも無くて。


 なんだろう、って思いながらしばらく歩いてたら、狭い曲がり角に差し掛かって。そこでなんでか分からないんだけど、急に立ち止まって、足元を見てみたんです。今でもなんで立ち止まったのか、よくわからないんですけど。

 足元に、小さくて白いカードみたいなものが置いてあったんです。あー、これも…並べられてる日用品の一つとして置かれてるんだな、と思ったんですよ、なんとなく。でも今までは食器とか家具とか家電とかだったからわかりやすかったけど、急になんか一目で見てわからない小さいものになったから、ちょっと気になって。拾ってみたんです。


 そしたら、免許証だったんです。僕も自動車の免許持ってるからすぐわかったんですけれど、ちょうど裏面の住所が書いてある欄の所で。うわ、これちょっとさすがにヤバいんじゃない?と思って。今までは食器とかだったから気にしてなかったんですけど、免許証ですからね。なんか一気に変な感じになってきたなーと思って。うわヤベえ、とか思いながら、なんとなく裏返してみたんです。

 そしたら、そこに書いてあった名前が中学生の頃の同級生で。流石にえっ!?ってなって…なんですぐわかったかって言うと、そいつ、ちょっと珍しい名前だったんですよ。ありふれた苗字より一文字多い、みたいなそういう名前だったんで、なんとなくずっと覚えてたんです。つってもちょっと話したことがあるぐらいで特に仲も良くなかったんですけれど。

 でもさすがに同姓同名かな?と思って顔写真見て、…なんて言うんですかね、全身に寒気が走るというか。明らかにそいつなんですよ。同級生の。だいぶ大人になってはいたけど、面影が残っていて、あとそいつ、ちょっと大きいほくろが顎の所にあって。全部そのままでした。間違いない。


 それで、急にいまここにいることがすごい怖く思えてきて。だって縁もゆかりもない土地で中学の同級生の免許証を拾うとか、あり得ない…とまで言っていいのかわからないけど、でも、あり得ないじゃないですか。あったとしても天文学的な確率ですよね。しかも普通に落とし物として拾ったんじゃないっていう。そのことが突然めちゃくちゃ怖く思えてきたんですよ。

 あと、ここまで並べられてきた色んなものも、僕自身が気付いていないだけで、僕と何かしら関わりがあるものだったんじゃないか?って思って、その瞬間ここまで見てきた全てがもう無性に怖くなってきちゃって。


 で、なんか、この曲がり角を曲がったら、その先に僕に関係が深い、何か…とんでもない何かが待ち受けてるような気がしてきて。それがなんなのかは分からないんですよ。分からないんですけど、そういう想像が頭の中を…こう、駆け巡るというか。とにかく、この先に進んだら絶対にヤバいって直感的に思ったんですよね。

 多分だけど、このまま角を曲がると取り返しがつかないことになる。そう思ったんです。


 それでもう…免許証を地面に捨てて、駆け足で来た道を戻りました。大きな道に出て、それで半分迷ってたことを思い出して。今こうやって思い返すと笑っちゃうんですけど…でもその時は笑い事じゃなかったですね。それでもう早歩きでなんとかしてきた方向はこっちなんじゃないか、って当たりを付けて歩き回って。

 そしたらさっき入ったコンビニがあったんで、そこに飛び込んで、店員さんに「駅どっちですか!?」って聞いて。それでなんとか駅まで戻りました。ホームで電車を待ってる時間が本当に長く感じましたね。実際には電車来るまで10分も無かったと思うんですけど。人生で一番体感時間長かったかもしれないなあ。電車に乗って座席に座ったときに、やっと安心できた記憶があります。


 それで…あとから考えたことなんですけど。我ながららしくない、難しいことを考えて。僕とあの町にどんな縁があったんだろう、って考えたんです。縁っていう言葉が正しいのか…ちょっと分かんないんですけど。

 だって、一回も行ったことない町でこういう体験をするってのは…なんか、あの町と自分の間に何かしらの縁があったんじゃないか、って思っちゃうんですよね。それが正しいことなのかも、というか本当にそういうものがあるのかすら、僕にはちょっとよくわからない。でも、根拠はないけど、なんとなくそういうものがありそうな気がする。

 …ただ、もう一回あそこに行ってそれを探る気にはなりませんけどね。二度と行かないと思います。なんか、またあそこに行ったら、いよいよ取り返しの付かないことになる気がするんですよ。これも全然根拠がないんですけど。だから絶対に行きたくないですね。


 …本当によくわからない話ですみません。ただ、本当にこれ人生で一番怖かったです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ