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タイムストッパー結衣  作者: 楽園
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真実とは?

「家に一度帰ってから、来なくて大丈夫?」

 結衣は、琴乃に自宅に戻ってから来ることを勧めた。あんな事があった後だし、そもそも制服姿だと何かと気になると思ったからだ。

「帰ってから来たら遅くなるし、それに何か悪い胸騒ぎがして、とても気になるの」

 しかし、琴乃の返答は小さい声ながら迷いがなかった。

 結衣と琴乃は、二階建ての一軒家の前で止まった。

 洋風建築の白壁しらかべの家で、ヨーロッパの建築方法を真似た造りで、南向きのオープン外構の家屋だった。

 青色のステップワゴンが家の横に駐車され、隣との境界には大人の肩くらいの高さの塀があった。

 琴乃の家とは塀を挟んで両隣だった。


 結衣たちが到着した時、母親はちょうど車から降りたところで、大きな買い物袋を重そうに持っていたが、琴乃の姿を見ると少し驚いた表情でにっこりと挨拶をした。


「あら、琴乃ちゃん、珍しい。別れたのかと思ったわ」

「ちょっと待て、それ以前に付き合ってないだろ!!」

 何を言い出すんだ。

 目の前の琴乃はびっくりしてるじゃないか。

 琴乃は、クスリと笑って、

「おばさま、失礼します」

 と言って、俺の数歩後を歩いて庭に入った。


 あれえ、と母親は少し不思議そうな表情で結衣の方をニヤニヤしながら見る。

「ちょっと用事があるだけだ」

 俺は扉を開けて琴乃を玄関に入れた。


 家に入ると玄関の靴が少し乱れている。

 いつもなら気にもとめないのだけれど、琴乃に気を遣って整理していると中学2年になったばかりの妹の狩野茜かりのあかねが、2階から降りてきた。

 兄の結衣とは全く似てない妹で、少し茶色かかったボブカットの髪と大きな瞳がチャームポイントで、何度も同じ学校の男子から告白されたと聞いた。

 今のところ学業優先とか理由をつけて、その全てを断っているそうだが……。

「あれ、兄貴、別れたんじゃなかったん? 腐れオタに愛想をつかされたと思ってたんだけど」


 あの親にしてこの子ありかよ。

「あのな、付き合っていねえから、別れられねえよ」

 まあ、腐れオタがバレて距離を取られていたのは確かな事実なんだけれど。


 結衣は靴を片付け空間を作って、琴乃が脱ぎやすいようにした。

「あ、ありがとう」

「それにしても茜ちゃん、久しぶり、あっ、でも茜ちゃんとは先週喫茶店でも話したよね、あっ」

「これ、言わない約束だっけ?」

 ごめん、琴乃は茜の方を向き、頭を軽く叩き舌を出した。


「はぁーーーっ!!」

「えー、それ聞いてないんですが」

「女の話、それにしても琴乃は口が軽すぎ」

 茜は、すこし膨れっ面な表情をした。


(それにしても茜は俺に内緒でなぜ琴乃と会っていたのか?この2人が俺に内緒で会うと言うことは、どうせ俺の話だろう、何の話だ?

 ベッドの横にひっそりと飾っている嫁の話か、それともこのゲーム泣けるんだよ、と妹に布教したギャルゲーの話か……、それともギャルゲーと言われてツレから借りた、じゅうは(ピーッ、自主規制)……。

 あまりにも、妹への罪状が多すぎて、わからない。

 ただ、結衣くん大好き、と言う話ではなさそうだった)


 玄関から廊下を通って数メートル進むと二階への階段がある。ここを上った右側が結衣の部屋、左側が茜の部屋だ。

「懐かしいね、小学生の時には毎日来てたよね」

 そう昔は、結衣、茜、琴乃の三人で遊ぶことが多かった。

 低学年の頃などは、戦隊モノごっこかおままごとかで意見が別れた。だいたいこの場合多数決という実に民主的ではない方法でおままごとが選択された。


 高学年になってからは、琴乃と勉強を2人ですることが多くなって、茜が一緒にいる機会は減ってきたのだが……。

 それでも少し遠出をする時は、三人一緒に出かけることが多かった。

 旅行やお祭りなどイベントは、お隣同士の親たちの仲が良いこともあり、一緒に行くことが多かったし、そもそもいつも一緒にいたことから、それが理由で学校ではオシドリ夫婦とはやし立てられたが、不思議と嫌な気分はしなかった。


「どうぞ、入って、ちょっと散らかってるけども」 

「懐かしいね。この部屋、前からだけども男の子の部屋にしては綺麗かな、まぁ、結衣くんの部屋しか知らないけども……」

 と結衣の方を向いて少し下に顔を向けた。

「……、そうなのか」

「……、……うん」

「何してんのよ、二人でイチャイチャして」

 と、妹の茜は結衣を睨みつける。

「イチャイチャしてねえよ」


 そして、当然のように部屋に入ろうとした。

「あー、今日はダメなんだ」

 と扉を閉めようとする

「なんでよー!!」

「ちょっと、勉強の話、茜は高校生の勉強分かんないだろ」

「わかんなくても、何でいちゃだめなーの」

 扉に手をかけた茜は、粘る。

 仕方がない、こうでもしないとコイツは止められない。

 だから少し小声で、こう言った。

「わかれよ」

 俺の声を聞いた茜は、ラブホテルのおばあちゃんのような表情をして、

「ごゆっくりぃ」

 と隣の部屋に行ってしまった。


「勘違いされてないかな?」

「いやあ、……」

「されてるよね?」

 琴乃の足が俺の足の上に置かれ力が入れられる。

 スカートがたくし上げられ、見えるか見えないかギリギリのところにある。

 そんなことよりマヂで痛い。

「そうかなぁ、ははは」

 冷や汗一杯になりながら、俺は笑っていた。


 まあ、メガネの声によると勘違いされても茜を部屋には入れるなと言ってたから、仕方がなかったのだけれども。

 それにしても痛え、……もしかして嫉妬。

 そんなこと思っていると、琴乃に、また睨まれた。

(何でわかった?)


 やっと足を離してくれた琴乃は久しぶりに入った部屋を見渡す。

 一本の可愛い美少女の描かれたゲームを見つけて、慌てて目を逸らせた。

(しまった、一本隠し忘れてた)

 それにしても、と思う。琴乃はまだ、苦手意識が依然としてあるようだ。

 そう思っていると、眼鏡から声がした。


「これから、外部音声に切り替える。それと母親や妹には聞こえないように、ここの部屋を外界から遮断する。外から中には入れないし、音も聞こえなくなる」


「誰が喋ってるんですか?」

 自称救世主の存在を知らない琴乃は、不思議そうな瞳で辺りを見渡す。

 そして、俺の目の前、数十センチまで近づいてじっと見つめた。

「発信元は、これ、……かな?」

 メガネを指差してじっと見つめている。

 勿論メガネを見ているわけだが、結果的に見つめているように見えて、少し照れくさく顔を赤らめる。

 顔の赤らみに気づいた琴乃は、

「何を考えてんのよ」

 と少し照れながら、顔を下に向けた。

 表情を隠そうとしたのだろうが、結果よろしくお願いしますとお辞儀をしてるようなことになる。

 二人床に座ってお辞儀をする光景、それは妙につやめかしく見えた。


「えー、ごほん」

「あぁ、そうだ、そう言えば、……何この声?」

「救世主らしい」

「救世主???」

「本人がそう言ってるんだ」

 ふーん、と言う納得を全くしてない表情を明らかに顔に浮かべながらも。

「でも、結衣くんは昔から嘘はつかないよね、エッチだけど、…ねえ」

 と余計な一言を付け加えた。


「で、何が起こっていたの?」

 真剣な表情に変えた琴乃が顔をこっちに向ける。

「それは、俺からする」

 と自称救世主の声……。


「非常に荒唐無稽な話に感じるかもしれないが、目の前のメガネは時間を止めることができるんだ」

「このメガネの名前はタイムストッパー。十数年後には、ショッピングモールでも手に入る人気商品になっている」

「俺は未来から結衣にこのアイテムを通して話しかけている」

「そんな話、ちょっと現実味がなさすぎて信じられないよ」


「それもそうだな。じゃあテストをしよう。完全に止めてしまうと眼鏡の持ち主以外は止まってしまうので、軽く……、これはあくまでテストだ」


「結衣、鉛筆を持って来い」

 自称救世主の指示で結衣は、目の前の勉強机から鉛筆を一本琴乃の前に持ってきた。

「鉛筆から手を離せ……」

 声の言う通り結衣は鉛筆から手を離す。

 鉛筆は暫く落下したのち、カチッと言う音とともに空中で停止する。


「凄い、……何で……」

 手品でも見ているかのように琴乃は鉛筆の周囲を見渡す。糸もなければ、目の錯覚でもない。

 鉛筆は手に取って、再度落としてみても落下することはなかった。

「今、鉛筆の周囲の時間を奪った」

「えっ? 凄い……」

「信じてもらえたかな?」

 琴乃は、不思議そうな瞳を結衣の方に向けた。

「この力でわたしを助けてくれたの」

「うん、そうだよ」

「そっかー、よかったあ、もし死んでたら、きっと後悔してた」

「で、これで解決……、めでたしめでたしなのかな?」


 少し安堵した表情で琴乃はこっちを見る。

 だが、どうやらそうではないようだ。

 もしそうであれば、自称救世主は今日のことは説明もしなかっただろう。

 リスクを犯してでも説明しなければならないのは、そこに理由がある。


 数秒の沈黙があった。

「いや、まだだ」

「とりあえず犯人を捕まえないと」

 数秒の沈黙が何を意味するのか。本当に犯人を捕まえれば解決するのか。

 結衣は不安になった。

 しかし、そんな理由わけも知らない琴乃は、

「探せばいいの?」

 とこれが解決すれば終わると判断したらしい。


「見つけても、確信が持てないだろ、ハッキリと見てもいないのに」

「いや、そんなことをする必要はない」

 自称救世主は、数秒の沈黙の後。

「俺は犯人がいつ次に琴乃を列車に突き落とすのか知っている!!」

「なっ……」


 結衣と琴乃はお互い見合わせて、声を上げた。

 犯人は、まだこの惨劇を続けようとしていたのか。

 しかも、他の誰でもなく、また琴乃なのか。

 結衣の口元が、緊張でカラカラになっていた。


読んでくれてありがとうございました。

どんどん更新していきますので、ブックマーク、いいねなどいただければ、とても作者は喜びます。


どうか、皆さまよろしくお願い申し上げます

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