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4.散らされた屍体(その2)

「こりゃ下顎の骨ですがね、(おとがい)の部分ががっしりしてるんで、男の骨だって事が判りまさぁ。で、残った歯の磨り減り具合から年齢を推定してみると、二十歳(はたち)くれぇに見えますんで」

「………………」

「それからこっちは(あばら)(ぼね)ですがね、胸骨端の化骨状況から見て、四十歳くれぇじゃねぇかと。生憎(あいにく)、性別までは判りませんがね」



 ――肋骨は肋軟骨を介して胸骨と繋がっているが、その肋軟骨は壮年期頃から骨化が始まる。そのため、肋骨は胸骨端で加齢とともに少しずつ伸張してゆき、高齢になると肋軟骨の方に突起物が不規則に張り出すようになる。



「………………」

「こっちの小っこいなぁ椎骨(ついこつ)……多分、腰の辺りの骨だと思いやすが……(こつ)(きょく)ってぇ突起が確認できますんで、やっぱり四十歳くれぇじゃねぇかと思いやす」



 ――腕や脚の骨、或いは(せき)(ちゅう)椎骨(ついこつ)などの関節面では、三十歳代――早いときには二十歳代――から変形関節症とか骨関節炎とか呼ばれる退行性の変化が出現する。椎骨(ついこつ)で見られる(こつ)(きょく)、或いは嘴状骨増殖と呼ばれるものもその一つで、腰の辺りに()く発現する。



「問題のパーティが何人編成だったか知りやせんが、四十絡みのおっさんがそう大勢いたとも思えねぇですから――」

「一人だ」

「……へ?」

「『獅子のたてがみ』で四十代は一人だけ、壁役を務めてたボイルってやつだ」

「……んじゃ、ここにある骨盤と肋骨、それに椎骨は、そのボイルってお人のもんだと思いやす。――で、他に確認できたなぁ、多分男と思われる若ぇのが、少なくとも二人……上腕骨と大腿骨の持ち主が別人だってなぁ判りやすが、下顎骨の持ち主がどっちなのか、それとも別の第三者なのかぁ判りませんや」


 そこまでで一旦報告を終えると、検屍役の旦那は大きな溜め息を一つ()いた。


「……全く……()く調べ上げてくれたもんだ。……さっきも言ったが、こいつらは『獅子のたてがみ』ってパーティで、壁役と斥候に大剣遣いと双剣士……それに魔術師の女が一人って構成だった。……モンドのやつぁ双剣士だ」

「女はその魔術師一人なんですかぃ?」

「あぁ……女の屍体は無かったんだな?」

「ありやせんでしたね。……俺が見た中には――って事ですが」

「……だが、ギルドカードは五人分が確認されている。……おかしな話だぜ」


 確かにおかしな……それも焦臭(きなくせ)ぇ話だな……


「ご苦労だった。報酬についちゃ――」

「ちょいとお待ちを。まだ説明は終わってねぇんで」

「……何だと?」


 個人識別についちゃ終わったけどな、それ以外の報告がまだ済んでねぇのよ。


「まず、屍体にくっ付いてやがった蛆虫(うじむし)の育ち具合から、死後、大体二日ぐれぇが経過してると思われます」

「二日……」

「たかだか二日にしちゃ屍体のばらけ具合が――食い荒らされるって事を考えても――酷ぇように思えたんで、ちょいと注意して調べてみたんですがね……大腿骨と上腕骨の骨端部で、刃物による切断の痕跡が見つかりやしたよ。……戦闘で叩っ斬ったって感じじゃなく……どっちかってぇと、解体された感じに近ぇですな」

「……解体……」

「屍体は食い荒らされた痕があって、近くに動物の死骸は見当たらなかったんでござんしょう? なら、ホトケさんは毒を盛られたってわけじゃなさそうですな」


 ま、肉を食う分にゃ中毒しねぇ毒ってのもあるんだが、そいつぁ入手が面倒だってんで、使うやつぁ少ねぇからな。この件が周到に計画されたもんだとしても、そんな面倒な毒を注文してりゃあ人目を引く。そうまでして使ったたぁ思えねぇわな。


「………………」

「毒を盛るでもなしに腕っこきの剣士や斥候を始末したってんなら、麻痺か昏睡の魔術を使って、動けなくしてから留めを刺した……ぐれぇしか思いつかねぇんですけどね、俺にゃあ」



・・・・・・・・



 あとはまぁ……定番どおり、お察しどおりってやつだな。


 女を巡ってのトラブルでパーティが割れ、女魔術師と双剣士が他のメンバーを殺して、ついでに自分たちも死んだように見せかけようとしたわけだ。

 (あたま)(かず)が足りねぇのを誤魔化すために、スケルトンを身代わりに仕立てたり……仲間の屍体をバラバラに解体して、獣に食い散らかせようと企んだりな。

 死霊術(ネクロマンシー)を使えねぇように、浄化をかけたのも魔術師だろう。


 あぁ……仲間殺しは冒険者の()(はっ)()だからな。ギルドからの指名手配を喰らって、賞金首として狩られたって話だ。


【参考文献】

・加藤克知(一九八七)四肢長骨の長さと太さによる性別判定.長大医短紀要 1:111ー117.

・片山一道(一九九〇)「古人骨は語る――骨考古学事始め」同胞社.(一九九九年文庫化.角川ソフィア文庫)

・水嶋崇一郎・平田和明(二〇一三)性別判定における大腿骨骨幹中央部断面形状の有用性:縄文人と現代日本人を例として.Anthropological Science (Japanese Series) 121(1):19-29.


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