2.偽られた屍体(その2)
「……旦那もおかしいと思ってらしたんで?」
「あぁ。……このパーティはちとワケありでな。ギルドとしても目を付けていたんだが。……俺が最初におかしいと思ったなぁ肩幅だ」
肩幅ねぇ……生前のホトケさんを知ってりゃ、そういうとこにも気付くか。
「それで気になって調べてみたら、腕に骨折の痕が残ってねぇ」
「……骨折ですかぃ?」
「あぁ、モンドの野郎は若ぇ頃にヘマして腕を折ってるんだ。治癒魔法なんて高級なもんにゃ縁の無ぇやつだったから、暫くは片腕で苦労しながら働いてた」
「なのに、骨折の痕が無ぇのはおかしいと……」
確かに、骨折の痕なんか無かったな。
「……で、骨になった面をとっくりと眺めてみりゃあ、歯並びもモンドのやつたぁ違ってた。……やつぁ透きっ歯だったからな。前歯の間が透いてたんだ」
あぁ……なるほどなぁ……そりゃ、おかしいと気が付くわ。
「で、お前の見立てじゃどうなってる?」
俺の見立てじゃ……
「……多分ですが、こりゃスケルトンですね」
「スケルトン?」
頭蓋骨の中身がこうまで綺麗に空っぽになってるなんざ、普通の焼屍体じゃあり得ねぇ。骨になってからも、長い時間が経ってる筈だ。獣や虫に囓られた痕が無かったところを見ると、表に出てた屍体じゃねぇ。けど、土ん中からそう都合好く白骨を掘り出せるたぁ思えねぇ。おまけに、頭蓋の中にゃあ土はおろか、虫けらの一匹も入ってなかった。という事ぁ……
「斃したスケルトンに獣か何かの肉を巻き付けて、人間の屍体に見せかけようとしたんじゃねぇかと。腸までは仕込んでなかったみてぇですが……手間を嫌ったか、腸の形か量が違い過ぎて、疑われるのを恐れたか……そんなとこじゃねぇかと」
モンドってのが誰だか知らんが、ちゃちな小細工をしやがって……死霊術師を甘く見んじゃねぇよ。
「誰かを殺して身代わりに仕立てたのかと思ってたが……何か個人の特定ができそうなもなぁ残ってねぇか?」
「骨自体が古いなぁともかく、こんがり焼けちまってますからねぇ……」
スケルトン相手に降霊なんざ無理だし、浄化か何か使った痕跡もあったしな。
それでも何とか残ってた歯を調べて、磨り減り具合からみて四十歳以上だろうって見当を付けた。
「モンドのやつぁ二十代だ……決まりだな」
少なくとも残ってたギルドカードと、骨の主が一致しねぇ事ぁ確実になったわけだ。
「これで俺ぁお役御免ですかぃ?」
「いや、他にも見てもらいてぇ屍体がある。……屍体って言うより残骸だがな」
「へぇ?」
そう言われて案内された先にゃあ……
「……こりゃ、確かに残骸でござんすね……」
獣か魔物に食い荒らされた屍体の残りが置かれてた。……あぁ、こっちも霊の気配なんざ、これっぽっちも残ってなかったともよ。
「……これが他のパーティメンバーの成れの果てってわけで?」
「少なくともそう見えるな」
――お? 何か含みのありそうな言い方だな?
「……何か疑うべき理由でも?」
「さっきも言ったが、ちょいとしたワケありってやつでな。後で説明してやるから、今はこれを調べてくれ」
「……何を調べろってんで?」
「全てだ。年齢・性別・死因……判る事は全て調べてくれ。どうせこれだけっきゃ残ってねぇんだ。調べる事も多かねぇだろう」
いや……結構色々あんだけどなぁ……