きれいな花
ここに、一輪のとても美しい花があります。
日に向かい、咲く美しい1枚1枚の花びらたちはとてもきれいにまとまって、決して大きくはない花ですのに、まるで華やかな大輪のように咲いています。
その花を支えている細い茎には、青々として自信いっぱいに左右に開く緑の葉たちがおります。
地に咲く小さな一輪の花ですが、そのたたずまいはまるで、堂々と空に向かって手を伸ばす女神のようです。
今日も空は青く広く、どこまでも広く広がっています。
風もやわらかく流れていて、なんと心地がいいのでしょう。栄養をあたえてくれる大地は、この世界を静かに見守っすていてくださり、その姿を決してひけらかす事なく、いつも静かに眠っていらっしゃる。何かがない限り、決して表には出ていらっしゃらない。
そんな大地の上をしばらくすると、可愛らしい小さな生き物たちが列をなして歩いて来ました。「あー天気が良い。そしてあー忙しい。こんにちは、きれいな花さん。」
花は空を見ていましたが、挨拶が聞こえましたので
花はすぐにこたえました。
「こんにちは、働き者の小さな方たち。今日も頑張ってらして。お気をつけてね」
「あーありがとう。もちろん私達は頑張るさ!君は大きいから暑さには気をつけて、ずっときれいに咲いていておくれ。君を見ていると私達は頑張れる。じゃあね」
美しい花の緑の葉達がそよそよそよぎ、手を振るように挨拶しました。
しばらくすると、今度は大きな生き物が歩いて来ました。
「おっと危ない!すまんすまん、きれいな花さん。こんにちは。」
花はこたえます
「びっくりしてしまいました。こんにちは、大きな方。今日はどちらへ?」
「今日はまた、とても天気がいいからね、一族を連れて大移動さ。私達は時々住むところを変えねばならんのでね。大変だが、この地はまだまだ俺たちには果てがないから住むところには困らないのさ。美しい花さん元気でな」
花はこたえます。
「皆さんの旅の無事を微力ながら祈ります。私はここから動くことができないので、私の分もたくさんたくさん素敵なところを見て来てくださいね。お気をつけて」
「ああ、ありがとう。」
大地が暫く、彼らが歩きやすいように、優しくささえていたことを花はしっていました。
明るく、全ての大地を照らす太陽に向かい、その大地と共に果てしなくどこまでも続く大空に見守られ、花はそれぞれの優しさに感動しながら自信一杯に1日を過ごしておりました。
そしてやがて空はだんだんと暗くなり、その闇が地球の広大さを消し始めた時に、光輝く星々が現れ、それを防いでいくかのように、空の広大さを闇の中で示していきました。
やがて月も明るく輝き、闇に消えてしまっていた花の姿が見えてきました。
「こんばんは、花さん。」
月夜にさいている花ですが、
挨拶の声が聞こえましたので、花はこたえました。
「こんばんは、小さな羽のあなた。星の明かりの夜ですが、これからあなたはどちらへ行くのですか?」
「あらあら花さん、いつもあなたの横を飛ぶ私たちではないですか。ご存知なかったのですか?」
花は、小さな羽の方たちをいつも見て知ってはいましたが、特に興味がありませんでしたので、知りませんでした。
ですので、申し訳なさそうに答えました。
「はい。皆さん、いつも急いでとおりすぎられるので。すみません。あらためておしえていただけますか?」
小さな生き物は耳を澄ましても聞こえないほど小さな羽をバタバタとさせながら、胸をむんっと張りまして話し始めました。
「私達は、月のさす光の道を通って、夜の国の玉座にいらっしゃる王に会うために進んでいるのだよ。」
花は驚いてすぐに答えました。
「あの高い場所にいて美しく輝くあの月にですか!素晴らしいです。」花は感動しました。
そしてまた聞きました。
「その国に、皆さん向かうようですが、そこにはなにがあるのですか?」
花は闇夜も深まってきたため、実は少し眠くなってきていましたが、とても聞いてみたいことだったので聞いてみました。
小さな生き物はさらに胸を張り、自信たっぷりにいいました。
「そんなのは私にも皆んなも分からないさ。何せ、まだ誰も辿り着いたことがないからね。」
花はポカーンとしてしまったので、もう一度聞きました。
「わからないのに向かうのですか?」
花がそう言うと小さき羽の生き物は、少しムッとして、こう言いました。
「君はまた、わからないことを言うな。いいかい。分からないから向かうんだ。私達は分からなくてもいい。これは、習い事なんかじゃないんだ。私達の生まれながらの使命でもあり、そこには私達の夢と希望もあるんだ。どうだ考えると素敵なことだろう。」
花は、まだよく分からなかったけれども、何かとても素敵なことが待っているのではないかと言うことだけはわかりました。
「小さな羽のあなた。教えてくださり、ありがとうございました。月の光の道中お気をつけて。」
花は丁寧にお辞儀をすると、小さな生き物は自信たっぷりに手を振るかのように羽を動かし、月の明かりに向かって飛んでいきました。
花はそのまま眠りにつきました。
真夜中の大地も、月明かりの中で眠っております。
心地よく眠れるように風は優しくそよぎます。
木々の葉が、風にこすれてさわさわと音を鳴らし、夜に泣く小さな生き物たちがさらに音を加えて、静けさのなかでも、そこに命がある事を示しています。
やがて静かな夜にも交代の時間がやってまいります。
朝露が、花の体を洗いはじめた時、空には鳥が飛びまわり、さえずりのなかで、たくさんの生き物たちが目を覚ましてきます。
そして大地の布団から太陽が顔を徐々に上げ、神々しい光が空と大地全体に行き渡ると、また花は自信一杯に太陽に顔を向け、1日が始まるのです。
白い雲が今日はたくさん流れています。
そして雲が時折り日陰を作り、様々な生き物の命を育んでいます。「あー。。。あー。こん、こんにちは、美しい花さん」
「こんにちは。どうされたんですか?」
ちょっとなにか感じが違うと思った花は、すぐに返事をしました。そして聞き返すと、その生き物はとても疲れてように話し始めました。
「私はいつもやわらかい土の中で生活していますが、ゴホゴホ、間違えて土の上に出て来てしまいました。
この、、温かい日差しのおかげで、わ、私はもうすぐ死んでしまいます。」
「まぁ!それは大変。悲しいことですが私はあなたを助けることができません。せめて、この葉の下に。」
花は葉を伸ばして、日陰を作ってあげました。
「ありがとう。わ、私の命にもう一度があれば、あなたにお礼をしたいのですが、私としてい、生きるのは悲しい事に今日までです。もっと、私として行きたかった。たまたま、、間違えて大地に上がって来てしまったがために、私は干からびて死んでしまう。」
花はそれを聞いて大変悲しみました。
(ああ、この方の命を取り上げないでほしい。)
天気のいい日を悲しいと思ったのは初めてでした。
花はそう思うしかありませんでした。
「さ、最後にあなたのような優しい方に出会えてよかった」
葉の影に隠れて生き絶えた姿を見て、尊い命を感じたときでした。
花は悲しんでいると、びゅるるーびゅーっと空から風が吹いて来ました。「あっ!」花の傍をスーッと通ったとおもうと、風は砂と少しの土をするると起こすと、その命の上に優しくかぶせました。
花は驚いてすぐ風に聞きました。
「風さん!どうして砂と少しの土を起こして、あの方の上に優しくおかけになったのですか?」
風はこたえました。
「大地と空がそうしてくれっていったのさ」
花はその言葉に不思議に思ったのでいいました。
「生きている時にしてくだされば、この方は土の中に戻れて、死ぬことはなかったのではないでしょうか?」
風は静かにこたえました。
「尊いから、そういうものなんですよ。」
そういうと、風は遠くに流れていってしまいました。
花はしばらく悲しいきもちでいっぱいになりました。
花はとても悲しくとも、それでも太陽はかわらず照り、空は青く澄んで雲は流れています。
悲しくとも、花もするべき事をしなければいけません。
真っ直ぐに太陽に向かって日々咲かなければいけないと言う事です。
悲しみを抑え、今までで1番ではないかというくらいに花びらを開かせ、空に向かって葉や茎を伸ばし、より華やかに美しく咲いてみせました。
今日は晴れ。次の日も晴れ。そしてまた次の日は雨。花びらが散ってしまいそうな強い風のときもあれば、雷や根から抜けてしまいそうな地震などいろいろな時があります。
気候と共に生きるには、時折り大変な時もあるけれど、それは全て意味のある自然で、意味のない自然などないということを花はよく分かるようになりました。
全てにおいて、意味があるのです。
静かです。とても静かに風はそよいでいます。
太陽もいつものように照り輝いています。
大地は眠っているかなように穏やかです。
(なんと、今日も気持ちがいいのでしょう)
花はそう感じていました。
太陽が真上に上がってきました。少し暑くなりました。
すると、あれ?どうしたことでしょう。
急に太陽を隠すようにお沢山の鳥たちがとんできたではありませんか。
しばらくしない間に、今度は小さな生き物さん達や大きな生き物さん達皆が、ものすごい勢いで走って来ました。
(どうしたのでしょう。なにかあったのでしょうか?)
こんなことは今まであったことがありません。
皆、何故かとても急いでいるので、聞いてくれる誰かに向かうように大きな声で聞きました。
「すみません!!何かあったのですか?教えてください!どうされたのですか?!」
誰にも聞こえている感じがありません。
埃がまうほどに、皆が一斉に走っています。
ですので、花は何度も何度も声をあげてみました。
声を上げていると羽のある方が通り過ぎざまに
「あんたもいそぎな!!恐ろしいもんだ!恐ろしいもんだ」
「どうしたことだ!どうしたことだ!」
後ろの方もこう言いながら、急いでいました。
皆立ち止まらずとにかく急いでいってしまいます。
なんだろう。
何が起きているのだろう。
ものすごい不安が心をよぎります。
そんなときでした。
大きな音です。
大きすぎて音なんでしょうか。
光はあったように感じましたが、見えなくなりました。
あぁ、暗い。暗いです。
なんだかとても低くて、おしつぶされそうです。
熱い大気があたりを漂います。
なんて赤黒い。
たとえられないほどの苦い空気が充満しています。
息ができない。
大地は吸い上げる水もない程、ボロボロに崩れてカスカスになって黒く焦げています。
喉が焼けます。胸が痛くて苦しいです。黒く爛れた芯のない身体が震えます。
形のないものがそこらじゅうを埋め尽くしています。
黒いチリが舞います。
赤黒い空は風を起こします。
とても熱い。
熱い風達はさりながらこう言います。
その声は、とても遠くからも近くからも聞こえましたから、きっとあちらこちらで吹く風の方たち皆が声を上げておるのでしょう。
「こんなことをした奴は誰だ」
「こんなことをした奴は誰だ」
「こんなことをした奴は誰だ」
「こんなことをした奴は誰だ」
風さん達はとても怒っています。
啜り泣く声と共に、怒りの声がとびかいます
「こんなものは運びたくない」
「こんなものを吹くのはごめんだ」
「こんな思いで吹きまわるのはごめんだ」
「私たちが自由に運べるのならば、こんなものを運びたくはない」「あぁ、こんなことをした奴は誰だ」
「こんなひどいことをした奴は誰だ」
空と大地は一瞬で死に、風は熱く怒りの涙を運ぶ。
みなが姿を変えてしまいました。
私も。
綺麗な花と言われて、実はとても自慢でした。
ですが、花びら達も死んでしまいました。
青々としていた茎も、真っ黒に焼けてなくなってしまいました。
死んでしまった大地の上に、黒く焦げた私が横たわっています。
私も命が尽きそうです。
「あぁ、小さな生き物さん達は月にたどり着けただろうか。
大きな生き物さん達は、無事に引っ越せただろうか」
黒く焦げた私の周りにも、たくさんの生き物達が大地に伏しています。
ああ、、。
真っ黒に真っ黒に染まってしまった世界。
ああ、こんなことをしたのは誰なのでしょう?
私達は何も知らなかった
この世界を真っ黒にしたのは誰なのでしょう?
熱い空気にのって、チリたちがたくさんまっています。
闇と化した空に向かってそれは沢山飛んでいく。
このチリたちはなに?
天国へ行こうとしているの?
この真っ黒に染まった空の先に天国が?
月に向かって行った小さな生き物さんたちのように、私もこのチリの方達と一緒に空を舞って幸せな満ち溢れている国があるのなら、そこに向かいたい。
私は広く高い大空にむかっていっぱいに花びらを開き、毎日を生き
ていました。
突然私の一生は終わりました。
これから先の未来を見る事や年をとることは出来なくなりました。
私という生き物は、この世で1つです。
一度命が終わったら私と言う命はおしまいです。
ですが、命を奪った者たちには未来があります。
命を奪うものに、良いものと悪いものはありません。
良いと思ってしまうのであれば、あなたはとても可哀想で悲しい人です。
生きるものの幸せを壊した罪はとてもとてもとても重いのです。
(あぁ、さようなら私。出会った全ての生き物の方達さようなら。
みなさんありがとう。とても悲しいですが、さようなら。)
美しかった花は黒く濁った世界を最後に死んでしまいました。