8話
「そんな夢みたいな事、不可能だと思うけど?」
「今までならそうだろうが、エルフ族の進んだ技術があればそうでもない。ここの商工ギルドは唯一無二の技術を持つ組織として、大きな力を持てる。」
「僕の屋敷に賊が入ったのはそれが理由か。領地と技術書、どっちも手に入れるために」
「ご名答! それであたしたちが雇われたわけ。できれば異種族同士でいがみ合わせろというのが、シンキン殿の注文だったの」
キュリアが選ばれたのは、エルフ族と仲の悪いオーク族を争わせるために都合がよかったからだった。
「あのオーク族のお嬢ちゃんはどうしてる? どんな拷問をしているんだい?」
「野蛮なオーク族が一匹どうなろうと知ったことではない。昔からいがみ合ってる者同士で憎み合えばいいのだ!」
そういってシンキンと盗賊の頭は大笑いをする。
「やれやれ、何もわかってないな」
「何だと?」
「自分の種族、違う種族だからってそんなことに囚われているから落ちぶれてしまうんだ。目の前の相手がどんな者かも知ろうとしない、そんなお前たちの方が野蛮だ!」
あの時、スガルがキュリアを助けてくれたのは、キュリアが外の世界を知りたいという事を信じてくれたからだ。
「このガキ!」
「やめなって、どうせもう何もできないんだから。ただの負け惜しみだよ」
早くこの事を屋敷のエルフたちに知らせなければと、キュリアは元来た道を戻ろうとすると、目の前に何かがぶら下がっていた。
「きゃあ! クモ!」
苦手なクモを見て思わず大きな声を上げて飛びのいたが、それから自分のしでかした事に気づいた。
その場にいた全員が一人残らずこちらを見ていた。
「あ、やっちゃった……」
「お姉さん何でこんな所にいるの!?」
突然の闖入者に盗賊たちは驚いていたが、一番驚いていたのは捕まっていたスガルだった。キュリアを見るなり驚きの声を上げる。
「逃がすんじゃないよ! 取り囲め!」
頭領の号令であっという間にキュリアは囲まれてしまった。
「なるほど、あのオーク族の娘を上手く取り込んでいたってわけね」
「だが、運はこちらに向いていたようだな。。そいつも捕まえろ!」
短剣やこん棒、武器を持った盗賊の部下がじりじりと迫ってくる。このままでは捕まるのは時間の問題だ。
「これだ!」
とっさに近くに合った物をキュリアは手に取って身構える。それはここの盗賊たちが使っていたらしいただの箒だった。