7話
追跡を続けると盗賊の女性は町に流れている河川を繋ぐ、下水道の中に消えていった。今からでもスガルと合流してから追うか悩んだけれど、自分を陥れた盗賊たちの隠れ家を、独力で見つけたいという気持ちが強かった。
意を決して下水道の中へと入る。内部は暗くじめじめとしており、すぐそばを汚水が流れて酷いにおいがする。
きれいな街にもこういう場所があるんだと知ったが、誰も来ないようなこういう場所なら、隠れ家にうってつけだろうとキュリアは思った。
明かりもなく足元もおぼつかないが、壁伝いにゆっくり進んでいく。
「それで、あいつは来てるのかい……」
盗賊の女性の声が聞こえてきた。追跡していたのがばれたのかと思ってどきっとしたが、どうやら誰かと話しているようだ。
覗き込むとそこは部屋のように少し広くなっており、明かりに盗賊の女性だけでなく数人ほどの影が見える。おそらくスガルの屋敷を襲撃した連中だ。女性の口ぶりから、彼女が盗賊の頭領だと分かる。そして、誰かを待っていることも。
キュリアが来たのとは別の方向から、小太りで背の低い人間族の男がやってきた。薄暗い下水道には似つかわしくないきらびやかな装飾が、明かりに反射してぎらついて光っている。
「遅かったじゃない。雇い主が遅れてくるなんて締りが悪いじゃないか」
「相変わらず口の悪い連中だ。私が忙しいことくらい知っているだろう?」
「そうだったね、商工ギルドマスターのシンキンさん」
声こそ出さなかったもののキュリアはとても驚いた。ギルドマスターという事は、ギルドで一番偉い者のはずだ。それが何故エルフの屋敷を襲った盗賊と一緒にいるのか。
「見たまえ、こうも上手くいくなんて非常に運が向てきているようだぞ」
そういってシンキンが手にしていた縄を引っ張ると、別行動しているはずのスガルの姿がそこにあった。
驚きのあまり、キュリアは危うく声を上げそうになる。
「こいつはあのエルフ屋敷の持ち主だ。こいつがいなくなれば、領主のいなくなったエルフ族の領地は我々の物にできる」
「やっぱり、目的は僕の土地、ついでに技術か」
「へぇ、こんな子供があの大きな屋敷の持ち主なのかい?」
「子供じゃない」
スガルが盗賊の頭を睨みつける。縛られているというのに、おびえることなく強気な態度だ。
「どうも町の商工ギルドの様子がおかしいと聞いていたけど、まさかギルドマスターが盗賊と手を組んでいたなんてね」
「ふん! のこのこ一人で来て睡眠薬で眠らされた奴がよく言うわ!」
「まさかこんな大胆な手段に移るのは意外だったな。不審に思った僕の部下が来たらどうするつもりだ?」
「ここはエルフ族の領地じゃない。いくらでも誤魔化せるわ」
ヤーニウクはエルフの領土ではないため、領主からの権威がなければ勝手に調査はできない。スガルがのこのこ一人で来たのは相手にとって願ってもないことだった。
盗賊を利用してまでこんな事をした商工ギルドのマスターの目的とは何なのだろうか……。
「商工ギルドは元々人間族のための組織だ! 王族だってうかつに手は出せない組織だったのに、戦争が終わったらこんな西の方に追いやられ、さらにお前ら異種族がどんどん入ってきて……異種族を追い出して昔のように商工ギルドを繁栄させるのだ!」
シンキンという男の身勝手な言葉にキュリアは怒りを通り越してあきれてしまった。