6話
ヤーニウクで聞き込みを続けたが、盗賊についての情報はほとんど得られなかった。
「ひぃ! お金はあげるから命だけは……!」
「誰かー助けて!」
「衛兵ー! 衛兵ー!」
何度か衛兵を呼ばれ、すっかり顔なじみになってしまった。さすがに少し落ち込んでしまう。キュリアは広場の隅でため息をついた。
「そんなに怖いかなぁ……」
ヤーニウクのような都市では様々な種族がいるから、そんな珍しいわけじゃないはずなのに……そういえば、最初は気づかなかったが街で見かける種族は人間族ばかりと気づいた。エルフ族や獣人族どころか同族すら……。
「おお、そこの! あんた前に会ったな! まだいたのか!」
馴れ馴れしく声をかけてきたのは、ヤーニウクに着いたときに話しかけてきたゴブリン商人だ。一応、同族はこの人がいたか……。
小さい体で大量の荷物を担ぎながら、ふらふらと近寄ってきた。
「てっきり故郷に帰ったと思ったが、今日はあのエルフのがきんちょは一緒じゃないのか?」
「あいにく今は一人です」
「そうか、いると何かとうるさいがいないとさびしいな。どこのガキだが知らないが、この町に来たばかりの頃からよく遊びに来てたんだ」
この商人はスガルの正体を知らないのだろう。もし彼が実は近くに住むエルフの貴族だと知ったら、ころっと態度を変えてしまうだろう。
「あの子の事を知ってるの?」
「ああ、町で商売を始めたばかりの頃、泥棒が出たときがあってな……現場の近くで商売していたせいで衛兵に犯人だと疑われたんだ。俺がゴブリンというだけでだ」
疑われるのは自業自得の気もするが、無実の罪で疑われるつらさは身をもって知っている。
「その時にあのエルフのガキんちょが助けてくれたんだ。そのおじさんはずっとここで串焼きを売っていたから関係ないってな!」
スガルはそんな事もしていたのか。見ず知らずの他種族のために声を上げてくれる人はそういない。
「そちらの荷物は?」
「ここを離れて別の町で商売しようと思ってな! 今のヤーニウクは商売がやりづらくなって……」
「人を騙して高く売りつけようとするからでしょ。自業自得よ」
「それは誤解だって! 最近は商工ギルドの連中がやたら金をせびってくるせいなんだ。材料費だとか経営権だとか理由を付けて!」
ゴブリン商人は大げさな身振り手振りで話す。
「あまり大きな声じゃ言えんがね、やつらオレがオーク族だからって人間族より金をたくさん払わせてるんだ……酷いと思わないか? かわいそうだろ?」
そういえば、仕事を探していた時にも似たような話を聞いたような気がする。
「まさか、そんなわけないでしょ……」
ふと通りに目を向けると、向こうを横切った人物の顔に見覚えがあった。自分を誘った盗賊の女性だ。
「ごめん、私はもう行かないと!」
商人の声ももう頭に入ってこない。ヤーニウクにいるという事は、この町のどこかに隠れ家があるにちがいない。そこを突き止めてやろうと、キュリアは女性の後をついていった。