18話
数日後、ヤーニウクは祭りの開催に色めき立っていた。その一方で、キュリアの気持ちは落ち込んでいく一方だ。
「おや、嬢ちゃん。浮かない顔してどうしたんだ?」
屋台で串焼きを売っているゴブリンが話しかけてきた。キュリアにとってはヤーニウクで知っている数少ない同族だ。
「おじさん、別の町に行ったんじゃなかったの?」
「そう思ってたんだがな、お前さんが前の商工ギルドのマスターをとっちめてくれたおかげで、ここでの商売がまた出来るようになったんだ」
ゴブリンと話していると、自分たちの横をエルフ族の女性が通り過ぎていった。
色白のエルフ女性は、被り物から覗く黒い髪は黒曜石のようにきらめいて、毛織の華やかな服は祭りに向けた一張羅なのだろう。表情は穏やかだが、自信に溢れた足取りで歩いていく。その後を召使いうやうやしく続いていた。
彼女を見てキュリアはその場にいたたまれない気持ちになった。
「いつ見てもエルフ族は偉そうな態度だ。あれもきっと記念祭に参加するんだ。あんなのと一緒にいるよりは同族の方が……おい、何処へ行くんだ?」
エルフ族の女性を見て、自分との違いをはっきりと認識されてしまった。どうして、自分はエルフ族ではないのか。
これまで、他種族の女性を見て羨ましいと思いこそすれ、こんな考えになるようなことはなかった。なのに、今はエルフ族になりたくて仕方がない。
キュリアは気が付くとヤーニウクを出て、一人川辺にたたずんでいた。水面には自分の姿が反射して映っていた。
緑色の肌、強面で牙の生えた口……紛れもないオーク族の女性がそこにいた。種族によってその外見は全く異なる。それは知っていたはずなのに。
「私がエルフ族だったら、スガルと一緒にいてもおかしくないのに……」
エルフ族とオーク族、並ぶだけでその違いはより明確になる。その種族同士が親しくしてるだけでも、それは変だ。
祭りの間は多くの人々が来る。その人たちから、スガルと一緒にいるキュリアは奇異に見えるかもしれない。
だから、祭りが終わるまではスガルからは距離を置きたいと彼女は思っていた。