13話
「俺と戦うつもりか? 生意気なちびめ」
オーク族は丸太をそのまま切り出したような、武骨な棍棒を取り出した。
対してスガルの剣は宝石がついて刀身もきらびやかな物だが、細く頼りない。今にもぽっきりと折れてしまいそうだ。
「なかなか高そうな剣だ。折れてもいい値で売れそうだ」
オーク族は既に自分の勝ちを確信し、スガルの持っている剣を品定めするように見下しながら近づく。
「報酬としてその剣も貰ってやる!」
勢いよく棍棒を振り下ろす。スガルが剣もろとも潰される! キュリアがそう思った瞬間、スガルが一文字に切り払う。
細い刀身が風を切るように、棍棒をいともたやすく根元から切り落としてしまった。
何が起こったのか一瞬理解できず、唖然とするオーク族の目の前に剣の先端を向ける。
「エルフ族の知識と技術の結晶であるこの剣は、鋼鉄だって両断するぞ。武器もなくなってこれ以上は損をするだけだと思うけど、それでも続けるつもり?」
まるで時間が止まったようにその場が静まり返った。誰もがスガルの意外な強さに驚いて声も出せなかった。キュリアでさえ自分の見ている光景が信じられなかった。
やがて、オーク族は踵を返してその場を去ろうとし始めた。
「おい、どこへ行くつもりだ!」
「やめだ。武器も失って後は損なだけだ! これだから他種族の依頼は嫌なんだ……!」
そんな捨てセリフを吐きながらオーク族は逃げ出す。その後をついていこうとする二人組に、スガルは目にもとまらぬ速さで近づき剣を振った。
すると、ローブは細切れになって、その下の人間族の顔があらわになった。
「これで顔は覚えた。今回は見逃してやるけど、次に同じようなことがあったら、その時は捕まえてやるからな」
「ひ、ひいぃ!」
「そうそう、どこでもいいから早く行きな。僕たちは用事があるんだから」
いとも容易く男たちを追い払うと、スガルはキュリアの方へ振り返った。あどけないその顔を見ていると、剣を振っていた時とは別人としか思えなかった。
「余計な時間かかっちゃったね。さ、行こうか」
商工ギルドの事件の時、スガルはわざと自分から捕まりに行ってたが、抜け出せる自信があったからだ。キュリアはそう思った。
「あんなに強かったなんて知らなかったわ」
「別に隠していたつもりはないよ。エルフ族の男は騎士として幼い頃から剣術を習うんだ」
二人は森の中を歩いていた。既にここはエルフ族の領地だ。スガルの住んでいる屋敷がある土地とは違うが、キュリアが通ってきた城壁山脈が近くに見える。
「着いた。ここだよ」
そこはすぐそばで川が流れている石切り場のようだ。ただ、まだできたばかりで、くみ上げられた材木もま新しい。
「近々、ここの石材をヤーニウクに運ぼうと思っててね。まだまだ発展する余地があるから、建築材はいくらあってもいいんだ」
そう言いながら、スガルは細かい石を集めて作った山から一つ無造作に取り上げて、キュリアに渡してきた。
「ここにあるのは小さくて使えない物なんだけど、練習用にどうかなって……」
「嬉しいけど、石を削るのってあんまり可愛くないんじゃ……」
そう言いかけて、キュリアは手にした石の違和感に気づいた。
「あれ、これって翡翠?」
小石の表面が僅かに緑がかった部分がある。故郷でも何度か見たことがある、翡翠という鉱石だ。
「無骨な石にもきれいな物が隠れてるかもしれないよ」
スガルの言う通り、ちょっとこだわり過ぎていたかもしれない。
「そうだよね……ありがとうスガル。やってみるね」