怪獣の懐柔
『きゅー、きゅー』それはそんな声でないた。なんだかグロテスクで、現実味のない見た目で、小さくて
『きゅー!』跳躍力が、すごい。
「これは、連れて帰るしかないのか」てこでも動かんぞと言わんばかりの態度で俺の肩を占拠する肉のかたまりが、そこにはいた。
きゅー、きゅー、と肉のかたまりが声を上げる。勝手についてきて飯を要求する気らしい。俺はこいつに情がないので、バイト先で貰った廃棄の和菓子セットを放り投げる。
『きゅー!』どうやら袋が開けられていないことが不満らしい。わがままなやつだ。
「ほら、これでいいだろ」俺はご丁寧に乾燥剤を回収しながら袋を開けていく。
『きゅーきゅー』気に入ったようだ。それは大いに結構。しかし
「どらやきの皮がご丁寧に残されている……」皮を殻かなにかと勘違いしているらしい。
「ほら、腹いっぱいだろ?おとなしくしろよー、うちペット禁止だからなー」
『きゅー!きゅー!きゅー!』まだ腹が減っているらしい。
「そういえば兄貴からプロテインの粉貰ってたな」こんな筋肉に顔をつけたような見た目なら、こいつで満足するかもしれない。なんとなく見た目に惹かれて買ってしまったメスシリンダーであれが飲みそうな分量のプロテインドリンクを作成する。
「ちょっと濃いめにしとくか」沈殿が残らないようにしっかりとかき混ぜ、少し深いめの小皿に注ぐ
「これ、飲むか」
『きゅー!』どうやらこいつは人から飲食を施してもらうことに慣れているらしい。グロテスクな見た目の割に愛嬌があるし、さっき俺の肩にすごい勢いで飛びついていたというのに、食事に対しては待てができる。
「名前、つけるか……なんか、見た目変わってるし、かいじゅうで、よろしくな、かいじゅう」
『きゅー!』
「よし、いい返事。と、名前を決めてすぐで悪いんだが、俺はもう寝る。おまえは……そこの牛乳瓶とか入れる?」
『きゅー!』
「お、器用だな、じゃ、おやすみ」
ビルが吹き飛び、一歩ごとに道路が破壊される。かいじゅうは、文字通りの怪獣となっていた。事態が発生してすぐ、専門機関により飢餓状態によって巨大化する個体であることが発表されるも、彼らがこの個体を逃がしてしまったから持っている情報であるということも同時に明かされ、その危機管理の甘さに対する批判が巻き起こる。世は阿鼻叫喚の地獄と化していた。
「次はニューヨークってとこだ。行くぞ、かいじゅう」
『きゅー!』俺は、全てを犠牲に幼少の頃からの夢を叶える羽目になってしまった。