野生の破壊神が現れた!
「・・・・・・なにこれ?」
私は教室に入って思わずつぶやいてしまった。だって机が完全にひしゃげてんだもん。周りの生徒も衝撃過ぎたのか私が入ってきたのさえ気づいていないようだ。
テオと別れた後教室に入って真っ先に目についた光景がこれだ。世紀末過ぎて思わず泣きたくなる。
賢者コースだと思って甘く見ていたが間違いだった。いや、ほかのクラスだともっとひどいのか?
改めて哀れな机を見ると圧倒的な力で潰されたのがわかる。それこそイヴに匹敵するほどの力だ。驚いた、まさかイヴレベルの化け物がこのクラスに存在するのか。この護衛任務一筋縄ではいかないかもしれない。
私が戦慄していると後ろから声をかけられた。
「やっほー、カイト」
・・・・・・犯人からだ。思わず天を見上げてしまった。
一瞬で教室内がざわつき始めた。気づかぬうちに入ってきたクラスメイトが机を叩き壊した人物と知り合いだったことはクラスを再起動させるのに十分だったらしい。
いろいろ突っ込みたいところが多すぎるが周りに生徒がいる状況では無理だ。ていうか学園生活が始まってしばらくは他人のふりをする約束だったはずだけど覚えてないのか? 覚えてないんだろうな・・・・・・
「これはイヴがやったんだよな」
もはや質問ではなく懇願である。この1クラスだけでイヴレベルの化け物が2人もいたらたまったもんじゃない。
「当たり前じゃん。すごいでしょー」
イヴが頭から犬の耳が見えそうな勢いで詰め寄ってきた。いや、ほめねぇよ! 相変わらずの馬鹿力だけどほめねぇよ!
とりあえず最悪の事態でなくてよかった。いや、この状況がもうよくないがイヴが2人いるより100倍はましだ。もしそうだったら私は失踪する。
「3日間のおやつ抜きな」
「えー! なんでよ!」
「『なんでよ!』もくそもないよ! あれほど物は壊すなと言ってるでしょ!」
もはや教育方法が犬のしつけと何もかわらない。出会ってから3年間ずっと言っても直らないあたり犬の方がまだましかもしれない。
「あのー、お二人は知り合いですか?」
私たちの会話を聞いて知り合いだと判断したのだろう勇気ある女生徒が私に質問をしてきた。
「ま、まあ。知り合ったのは最近ですけど」
「そうですか。申し遅れました。ヒトリス子爵家が次女、レミリア・フォン・ヒトリスと申します。以後お見知りおきを。」
・・・・・・うん、知ってる。護衛対象の一人だもん。
「スカイプ家が長男、カイト・フォン・スカイプです。名を申し上げるのが遅くなったこと非礼します。」
そういいながら彼女の姿を観察する。
ヒスイ色の目に茶髪、身長は私よりやや大きめ・・・・・・155㎝くらいか? 資料で見た時は姿とはずいぶん違うけどおそらく魔道具を使っているのだろう。
姿や形を変えたりする魔道具なんて国宝クラスのしろものだ。それこそ王族が気軽に使えるものではない。仮に命が狙われていようとも子爵家の次女に使われることなんて万に一つない。
もちろんヒトリス家なんて存在しないし名前も偽名だ。つまり外見や名前まで偽らないといけない状況まで来ているわけだ。
現状一番危険な状況にいるのは彼女だろう。だからといって今すぐ狙われるということはないと思うけど。
そんなことを考えていると、私が身分を気にしているのを察したのかヒトリスさんが気を使ってくれた。
「私が言うのもなんですがそんな堅苦しい言葉を使わなくて大丈夫ですよ。学園内は身分平等ですから」
「それならお言葉に甘えて。ところでヒトリスさん、どうしてああなってるんですか」
私とイヴの関係を聞かれるとぼろが出そうだ。多少強引だか話題を変えることにした。それにどうしてああなったかも気になるし。
「ああ、あれですか。イヴさんでしたっけ? にちょっかいだす貴族がいたんですよ。」
なるほど、イブはかわいいからな。それに身長も150㎝もないし男の庇護欲をかなりくすぐるだろう。
もうなんかよめてきたわ。以前にも私が目を離したときに似たようなことがあったし。あのときは机じゃなくて店が潰れたけど・・・・・・
「そしたらイヴさんが『腕相撲で勝ったらいいよ』と。それで・・・・・・」
「え!?」
あいつそんなことをしたのか!? てっきりイラついて机を破壊したのかと思ったんだけど違ったらしい。ていうか相手の腕が引きちぎれたんじゃないか?
「そ、それでお相手さんは大丈夫なんですか?」
初日から殺人事件なんて勘弁してほしい。というか初日じゃなくても殺人事件は勘弁してほしい。
「それなら大丈夫ですよ。ちゃんと医務室に運ばれましたので」
「大丈夫じゃねぇ!」
大丈夫だったら医務室に運ばれないわ。しかも軽傷を治療する保健室ではなく医務室なのが事態の深刻さを物語っている。
「いいんですよ、あれくらい。あの貴族教室に入ってからずっと横暴でしたので。それにイヴさんに対しても度が過ぎてましたしいい気味です。」
ずいぶん物騒な発言を発言をするんですね。
それにしても貴族にやっちゃったのか・・・・・・もしかしたらなんらかの形で報復があるか気おつけないといけないな。
これからの対策を考えてると突然扉が開いて担任の先生らしき人が入ってきた。
ヒトリスさんもそれに気づいて『また後で』と言って離れていった。『また』ってことは次があるのか。
外見はどこにでもいそうな、それこそ教室を出たら顔を忘れてしまいそうな地味な先生だ。ただどことなくやる気がなさそうでイヴやヒトリスさんがいるこのクラスでうまくやっていけるのか心配だ。
「お前らー、席につ・・・・・・なんだこれは?」
さっきまで怠そうな目を開けて完全にフリーズしている。そりゃそうだ、赴任した教室に入ったら机がひしゃげているとかどう対処すればわからなくなるに決まってる。
ただよかった。先生の反応を見る限りこの光景は普通じゃないらしい。全クラスがこんなだったらさすがに笑えない。いや、普通じゃないクラスに入ってしまった私の不運を嘆くべきか?
私が微妙な気持ちでいると我に返った先生がこちらーー私とイヴを見た後納得したような顔でうなずいた。察するスピードが速すぎて泣けてくる。いったいこの学園に私たちはどのように伝わってるんだ。
「スカイプ、後で職員室に来い」
しかも私!? たった今冤罪が発生したぞ!?
「なに驚いた顔をしてるんだ? お前はイヴの保護者だろ。監督不行き届きだ。」
そんなわけあるか。イヴが私の行くところに勝手についてくるだけだ。そんなので保護者にされたらたまったもんじゃない。
「違いま・・・・・・」
「はい、この話は終わりだ。机も直したしホームルームを始めるぞ」
「「「え?」」」
あまりの衝撃に(イヴ以外の)クラス全員がまたフリーズした。
壊れたものを一瞬で元に戻す魔法を使える人なんてこの国に片手で数えるくらいしかいない。もっとも栄えてるアイデ王国でさえその人数だ。魔法大国のダンブル公国ならもう少しいるかもしれないがそれでもだ。この大陸に20人はいないだろう。
そもそも魔法なんていつ使った? 39人全員気づいてなかったぞ。
特に私は体質的に魔力に対して異常に敏感だ。自慢じゃないけど今まで私に気づかずに魔法を行使できる奴なんて1人しかいない。
つまりそういうことなんだろう。あいつだったら机が直ったのも状況を理解する早さが異常だったのも納得がいく。
「スカイプ、いつまで呆けてる。お前以外全員座ってるぞ」
辺りを見渡すと確かに席は2つしか空いてなかった。先生がさっき直した机との最後尾の窓から二番目の席だ。ちなみに窓側のとなりはイヴだった。そりゃそうだ。得体のしれない方法で直した椅子とその原因が隣にいる椅子に座るのは誰だって躊躇する。
私は迷わずイヴの隣の方に座った。できれば前者の方がいいけど多分直ってないはずだ。
「全員座ったな。それじゃ今から・・・・・・」
ードゴォォンー
物凄い音が後ろからに鳴り響いた。
驚いて後ろを見たが何もない。ということは上か? そう思って見上げると。
・・・・・・天井から足が生えていた。
「か、勘弁してくれぇ」
今日だけでどれほど問題が起きれば気が済むんだ。このペースだと教室も私のメンタルも卒業まで持たないぞ。
確か真上のクラスはマスタコースーーレオンたちのクラスだ。いったいあっちはあっちで何が起こってるんだ。
レオンやイヴが起こした問題の尻拭いは何故か私にまわって来るんだ。それをあの二人は気づいているのか?
そう思い横を向くとあんな大きなおとがなったのにぐっすり眠っているイヴの姿が見えた。ダメそうですね。
魂が抜けるような気持ちでもう一度見上げると天井は何事もなかったかのように元通りになっていた。先生がうまくごまかしたらしい。
周りを見渡すと後ろを向いている生徒が何人かいるものの騒いでいる生徒はは一人もいない。どうやらあの惨劇を見たのは私だけみたいだ。最悪の事態はまぬがれてほっとした。
「お前たち、後ろを向くな。そろそろ最初のホームルームを始めるぞ」
このままごリ押すつもりだ・・・・・・
幸い先ほどの爆音について追及する生徒はいなかった。先生の選択は正しかったらしい。みんな怪訝な顔をしているけど。
改めて前を向くと先生がこちらを見ている気がする。いや、実際見ている。目が『楽しくなりそうだねぇ』と間違いなく語っている。
私はそれに答えるように『ふざけんじゃねぇ』と白目で返した。
一話一話の文字量がどんどん増えていく・・・・
次回の更新は水曜日です。
余裕があれば火曜日に出します。