私の記憶
「それでサンお兄様!お父様はどんな仕事をしているの?ぐんじだいじん?だったかしら。」
「軍事ってことは騎士団を纏めている所だよね?」
マリアネラとライネリオは、サンダリオが帰ってきてからずっと質問している。聞けば聞くほど、どんな所か知りたくなるのだ。
「そうだよ。主に書類の管理や他国との交流準備等も行うよ。今日は書類管理がほとんどだったかな。」
「軍事大臣って他国との交流もするのね!てっきりがいこーだいじん?って人がやる物だと思ってたわ!」
「たしかに。でも騎士団の合同訓練とかもやるらしいからそういう運営もするんだろうね。」
ライネリオはよく本を読むから国政に詳しかったりする。サンダリオが身をもって感じてきたことを知識でカバーしながら教えてくれるのはとても楽しい。
「よく知ってるね、ライネリオ。マリアネラも外交大臣なんて難しい言葉知ってるね。2人ともすごいなぁ!」
ライネリオとマリアネラは褒められてとても嬉しそうに笑った。マリアネラは仲良く3人で話すこの時間が何よりも好きだ。
「じゃあお兄様は今日どんな人とお会いしたの?」
これも気になっていたことのひとつである。王宮にはたくさんの人が出入りするのは知っていたが、具体的にどんな人がいるのかは想像がつかなかった。
「今日は父に付いている秘書のアダン、財務大臣のジョベラス候爵、あとは王宮内で働いている侍女にたくさん会ったね。」
「そうなのね!やっぱりたくさん人がいる場所は賑やかで楽しそう。」
どんなところか。未だに想像はつかないが間違いなく素敵なところなのだろう。
「楽しそうと思うのはマリアだけだと思うがな。」
「お兄様に同情します。」
兄2人に不思議そうに、しかし愛でるように妹を見つめていた。
紙に書き出していた質問が終わり、夕食の時間になる少し前にサンダリオは何か思い出したかのように「あっ!」と言った。
「お兄様?どうかなさったの?」
「ああ、いや、さっきマリアが僕にどんな人に会ったか聞いただろう?」
「ええ。それがどうしました?」
何か口止めされていることを言ってしまったのだろうか?マリアネラは少し不安になったが、サンダリオはそんな事ないと言わんばかりに笑い、
「もう1人会った人がいたよ。この国の第1王子、ハビエル王太子だよ。」
ハビエル王太子。その名前を聞いた途端、雷が落ちるような衝撃を受けた。
一気に8歳という若さのマリアネラの脳にたくさんの情報が流れ込む。ニホンという国に生まれ育った記憶。父に勧められて段位まで取得したケンドウという運動。オトメゲームという娯楽で出会った『ハビエル王太子』。
「マリア?」
全てが繋がった。兄達の声が遠のく。見たことのあるサンダリオの顔。ライネリオの顔。そして自分はマリアネラ・グティエレスであること。
マリアネラに前世の記憶が蘇った。『ハビエル王太子』という人物の名前を知ったことで。
処理しきれない情報でマリアネラは目の前が真っ白になった。
「どうした?!マリア!」
「マリア!しっかりしろ!」
「マリアお嬢様!しっかりなさってください!」
マリアネラの耳に、兄達と侍女の叫びは聞こえていなかった。