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戦渦-13

 「そうか…大変だったな。ご苦労だった」

 「ありがとうございます」


 戦闘が終わり、しばらくした頃。竹艦長の宇那木少佐は、艦隊司令官の渋谷大佐に戦闘詳細を口頭で報告していた。

 無論、戦闘詳報は追って提出するつもりだが、話を聞きたいと渋谷大佐立っての希望で、長門に戻った渋谷大佐に報告することになったのだ。


 「しかし、背後にゴルト殿でしたかな?彼が現れた時は幽霊かと思いました」

 「ハッハッハ。そうか、いきなり消えたと思ったら竹に行っていたか」

 「はい。艦砲が終わった直後に、自分の背後に……」


 実は、ゴルトは海岸で戦闘を眺める渋谷や森岡たちの前に一度姿を現していた。

 だが、戦闘を一瞥すると「分かりました」とだけ呟いて、一同の前から煙のように消えてしまった。

 その時は、援軍でも引き連れてくるのかと思ったのだが、なんと竹の艦橋に現れていたのである。


 無線で話を聞いた時は驚いたが、今まで数回ゴルトが突如として現れているのを知っていたので、「重要人物の為、丁重にもてなすように」との返信で渋谷は済ませている。


 海岸では、陸軍が恒久的な施設の設営に動いており、測量や井戸掘りなどを始めようとしていた。

 設営に際してゴルトからは、魔王陛下の許可状と言う物を渡されている。

 それと共に口頭で伝えられたのは、謁見の日時だった。


 今日から数えて、三日後に迎えが来ることになっているらしい。

 それから移動に二日ほど掛かるという事なので、謁見は五日後だ。


 渋谷は、それまでに必要な人員と資料を揃えて、再び陸上に戻る必要があった。

 しかしそれまでは、しばらくは海軍側が行うようなことも無いので、一部の連絡要員を残して(ふね)に戻ることにしたのである。


 「それで負傷者は?」

 「爆雷の空中爆発を至近距離で喰らった機銃手が二名、それに一番主砲の要員が数名やられました……一先ず艦内の医務室に運び込みましたが、重傷です。

  他には、艦橋で副長、航海長、それに操舵手が軽傷と重傷の中間と言った所です」

 「そうか…死者が出なかったのは救いだが……」

 「本職もそう思います……未知の化け物相手に負傷だけで済んだのは僥倖かと……」


 大海蛇が投げた爆雷に運良く機銃弾が命中したが、その代償に貴重な兵員が数名戦闘不能となってしまった。

 特に、目の前で爆発の余波を喰らった機銃手二名は、破片をまともに喰らったせいで一人は左腕を、もう一人は右足を失っていた。当然ながら、戦線復帰は不可能である。

 一番主砲の要員は、主砲の防盾で破片こそ喰らわなかったものの数名が鼓膜に変調をきたしていた。


 人員の補充……ましてや、満足な治療が受けられるかどうかも分からない現状では、人員の損耗は押さえておきたいところだ。

 その時、渋谷と宇那木が話している艦長室に、従兵が入ってきた。


 「失礼します。艦長、艦長に会いたいという人物が訪ねてきておりますが……」

 「ん?誰だ?」

 「ゴルトと言えば分かると……」

 「なに?……通してくれ。失礼がないようにな」

 「分かりました」


 従兵が渋谷の返事を聞いて、艦長室から退室した。

 それを見て、渋谷と宇那木は顔を見合わせた。

 内火艇は出ていないはずだ。宇那木が帰るために舷側で待機しているはずだからだ。

 一体、何の要件があってゴルトは長門へ来たのだろうか?


 そう話していると、艦長室の扉がノックされた。

 先ほどの従兵と一緒に入ってきたのは、紛れもないゴルトだった。

 恭しく礼をするゴルトに対して、二人も頭を下げた。


 「突然失礼いたします」

 「いえいえ、どうなされましたか?なにか不備でも?」

 「いえ、実はケガ人が出たと小耳に挟んだもので……」

 「ケガ人……ええ、先ほどの戦闘で数名が重傷です。その対応を、こちらの宇那木と話し合っていました」

 「ああ、先ほどの船の船長ですな。あなたの船で?」


 そうゴルトが確認すると、宇那木は無言で頷いた。

 それを見て、ゴルトが驚くべきことを話し始めた。


 「ケガの程度を教えていただけますか?」

 「……手足を失ったものが二名、それに骨を折ったものが数名、その中でも数名は耳もやられています」

 「ふむ……その手足を失った方の、失った手足はありますか?」

 「運良く甲板に落ちていた……と報告は受けています。しかし、いったいなぜその様なことを?」


 宇那木がゴルトに尋ねた時、ゴルトの背後にある扉がブレた。

 何と言っていいのか、扉がゆがんだように見えた瞬間、そこに一人の女性が立っていた。

 透き通るような白い肌に、肩より少し長い白い髪、身長は自分たちよりもかなり高い。そして金色に輝く瞳があった。

 立ち居住まいに儚さすら感じる女性を観察していると、ゴルトが微笑みながら言葉を掛けた。


 「あなた方には何かの加護があるらしい……お助けいたしますぞ」

 「どういう事で……」

 「詳しい話は後で致しましょう……ひとまず、外が見える場所に案内出来ますかな?」

 「……よろしい。案内致しましょう」


 渋谷が席を立ち、続いて宇那木も席を立った。

 そして、渋谷が先頭に立ち、四人は艦長室を後にした。


 渋谷含めて四人が向かったのは、上甲板だ。

 陽は沈み始めているが、その夕陽に照らされて海面がキラキラと輝いている。

 以前、南太平洋で見た夕陽を思い出す渋谷と宇那木だったが、そこにゴルトから声が掛かった。


 「あの船ですな?ケガ人がいるのは……」

 「そうです。私の艦です……今、内火艇を出します」

 「いえ……見えてさえいれば……」

 「は?」


 ゴルトが不思議な事を口走った瞬間、その場にいた四人が光出した。

 慌てる渋谷と宇那木が、何か叫ぼうとしたが声にならなかった。

 そのまま四人は、霧散するように長門の甲板から忽然と姿を消した。


 次の瞬間、四人は竹の上甲板にいた。

 具体的に言えば、ゴルトとゴルトが連れてきた女性は綺麗に立ったままの姿だったが、渋谷と宇那木は、妙な浮遊感に襲われ二人して尻餅をついていた。


 上甲板で作業していた水兵たちは、突如として現れた四人に仰天したが、すぐに自分たちの上官の宇那木であると気づいて数名が駆け寄ってきた。

 すぐに渋谷共々抱え起こされた宇那木は、見覚えのある水兵たちが駆け寄ってきたことから、ここが自分の艦…竹であると悟った。


 「そんな……馬鹿な」

 「イタタ……流石に、この年で尻餅はつきたくないな……」

 「渋谷大佐……ここは、竹です!向こうには長門が……!」

 「そう言えば、なにか奇妙な感じだったな……まるで空中に浮いたような……」

 「私もです。それが終わるとここにいて……」


 お互いが感じたことを話していると、すぐ背後で咳払いをする声が聞こえた。

 咳払いをしたのはゴルトが連れてきていた女性だ。

 二人が話を中断すると、落ち着いた声で女性は話しかけてきた。


 「時間は有限です。有効に使わねば、機を逸します……」

 「ああ、すまない……」

 「分かっていただければ結構です。で、ケガをされた方はどちらに?」

 「医務室です。すぐに案内しましょう」


 先ほどと変わり、宇那木が先導し、その後ろを女性、ゴルト、渋谷の順でついていくことになった。

 勝手知ったる艦内で、迷うことも無く数分で医務室のある場所にたどり着いた。

 宇那木がノックして医務室に入ると、ちょうど衛生兵が包帯を変えようとしているところだった。


 「具合はどうだ?」

 「艦長……正直よくないです。出来ればすぐにでも入院が必要だと、軍医殿が話していました」

 「そうか……」


 横たわるケガ人に聞かれないように、部屋の隅で話していた宇那木と衛生兵の横を女性が通り過ぎ、勝手にゴソゴソと机や引き出しを漁り始めた。

 慌てて制止する衛生兵だが、宇那木がそれを止めた。


 「何が必要なのかな?」

 「このお二人の無くされたものです」

 「手足か……衛生兵、どこに保管してある?」

 「布で包んで……隣の部屋に安置しています」

 

 宇那木はそれを聞いて、すぐに持ってくるように指示を出した。

 衛生兵は、訳が分からなかったが、艦長の指示に従わないわけにはいかず、すぐに二人の手足を持って医務室へ帰ってきた。

 その時、人伝に艦長の話を聞いた軍医も一緒に医務室に入ってきた。


 「艦長、二人をどうするおつもりで?」

 「ああ、こちらの女性が助けるそうだ」

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