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会談-11

お久しぶりです。遅くなってすいませんでした。

 「……と、いうわけだよ。理解したかな澤村中尉(ルテナン・サワムラ)?」



 時間は再び現在へと戻って、ここは海岸付近に設置された米独軍の指揮所の中だ。

 俺が座る場所の差し向かいには、米軍指揮官のロック少佐と、ドイツ軍のアーレント中尉が座っている。

 その背後には、警戒のためだろうか機関短銃を携えた下士官らしき人物が二名立っていた。


 俺たちも話し合いが決まった時に、護衛として一個分隊を指揮所の外まで連れてきているのだからお互い様と思うことにした。

 この指揮所に入る時最後に見たのは、お互い立て銃の状態で睨みあうこちらの分隊と米軍の指揮所警備隊だった。

 騒ぎの声が聞こえないことから、何も起きていないと察するが……。


 ロック少佐たちの話を聞いて、チラリと背後を振り返る。

 俺に同行して指揮所内に入ったのは二名いた。

 一人は腹心の部下である真田軍曹だ。真田は英語が出来ないので護衛役に徹すると言っていたのでピリピリとしていた。

 そして、もう一人は……


  「中尉、どうされました?」

 「吉永も英語は出来たんなら、話の内容は説明する必要はないな?と思ってな…」

 「えぇ、粗方分かりましたよ。一部訳が分からない話でしたが…」

 

 俺と一緒に上陸した海軍陸戦隊の吉永少尉だった。

 流石海軍という事もあり、英語の方は出来るようで米軍との会話に問題がないことが証明された。

 吉永少尉は、日本人にしては身長が高く一七〇センチを軽く超えている。顔つきもどことなく欧米風といった感じである。

 かく言う俺も身長は一七〇センチぐらいはあるので、他の日本人よりかは大きい自信があった。

 ……俺は何を張り合っているのだろうか。


 ともかく俺はロック少佐たちから聞いた話を考えてみた。

 一週間ほど前にこの場所に突然送り込まれて、「西洋龍(ドラゴン)」と戦闘になった。

 その際に共闘したことで必要性を感じて、混成部隊を結成したところで俺たちが現れたので泡を食った…と。

 途中は端折ったが、概ねこんなところだろう。


 俺は、自分たちが遭遇した現象についてロック少佐たちに話すことにした。

 小笠原諸島沖で船団が海底火山の噴火に遭遇して、気づいたらこちらの海にいたこと。

 海を彷徨っているときに、巨大なウミヘビのような生物に遭遇したこと。

 偵察で発見した海岸に旗を見つけて、ここへ来たこと。


 本来ならある程度の話に抑えて真実を隠してもいい内容なのかもしれなかった。

 しかし、ロック少佐たちが敵対関係を望んでいないと話の中で薄々感じていたので、俺は包み隠さず話すことにしたのだ。

 俺の話を頷きながら聞くロック少佐とアーレント中尉は、最後には納得した表情をしていた。


 「なんと、日本軍も我々と似たような状況にあったとはな……」

 「我々も、そのような状況に無ければあなた方を敵と見なして攻撃していたかもしれません」

 「モリンズ大佐とホルン少将の命令に感謝しなければいけないな」

 「同感です。あなた方の指揮官は最適な答えを見出されていたようです」


 基本的に交渉事では相手を立てることを忘れてはいけない。貿易商だった親父から言われていたことを俺は思い出した。

 相手がどうであれ最初の取っ掛かりで喧嘩腰になれば、確実に失敗する。

 交渉相手の人柄を把握するまでは、下手に出て損はない。そこから強気に出て押しまくるのが交渉だ。とも言っていた。

 事実、ロック少佐とアーレント中尉は少し嬉しそうな顔をしている。


 「しかし、私も全権を委任されたわけではありません」


 俺は、本題に入ることにした。

 未だ、ロック少佐やアーレント中尉から本題と思わしき話題を引き出せていないからだ。

 俺は話を続けた。


 「今回の上陸で、私の中隊は付近の偵察と友好的勢力がいた場合はどういった勢力か調べることを師団長より命令されています。私個人の考えとしては、少佐たちの話を信じようと思います……」

 「じゃあ、この話をそのままそちらの師団長に話してもらいたい。きっと納得がいくはずだ」


 確かにロック少佐の言うとおりだ。

 俺たちと似たような状況下にある米独軍だ。はっきりとは言っていないが、たとえ日本軍とは地球で敵として相見えていたとしてもこちらでは貴重な友好関係を結べる相手であり、貴重な増援であるとの認識なのだろう。


 だが、それも日本軍(こちら)側の支持が取り付けられればの事だ。もし、師団長以下の幕僚たちが『米軍討つべし!』との意見を持てばおそらく攻撃が始まることだろう。

 師団長たちにその気配が無いことが救いではあるが、こちらの手の内を曝け出せるはずもなかった。


 「もちろん少佐たちの話は全て上官に話すつもりです……しかし、どうするかは師団司令部の決定によります」

 

 俺は、自分でも少々嫌味な言い方をしたと思った。

 俺の返答に対して、ロック少佐とアーレント中尉は無言になってしまった。

 恐らく、敵として日本軍と相見えるところを想像しているのだろう。

 実際に、その一歩手前までは状況が進んでいたからだ。


 この指揮所まで来るときに、米独軍が俺たちの強襲上陸を警戒して構築した防御陣地の一部を見た。

 海岸線がそこそこ広いので全体像は把握できなかったが、俺たちが上陸した地点のほぼ真正面には重機関銃が置かれていた。

 機銃座脇の塹壕では、数名の独軍兵が大型の発射筒を肩に担いでいた。

 その他の陣地も、すべてが水際作戦を取るべく火線が形成されていた。


 恐るべきは、その陣地がどれも巧妙に偽装されていたことだ。

 俺たちは、海岸から森に入るまでどこに陣地があるか分からなかった。

 もし、これが強襲上陸だったら上陸第一波は全滅だったろう。


 「ご安心ください。我々(・・)が責任をもって、師団長らに説明しましょう。あなた方が我々と協力したいという事を言っていたと伝えます」

 

 全員が黙っていた指揮所内で、俺の後ろにいた海軍の吉永少尉が口を開いた。

 その言葉を聞いて途端に表情が明るくなるロック少佐たち。

 俺は慌てて吉永少尉に耳打ちした。


 「吉永!お前、どういうつもりだ……!」

 「仕方がないでしょう。ここで話がこじれたら、敵の真っ只中で孤立します……死にたいなら止めませんが?」

 

 ニヤリとして嫌な言葉を返す吉永の顔を引っ叩きたかったが、よくよく考えれば正論なので俺は深呼吸して落ち着こうとした。

 確かに、ここで下手に少佐たちと関係をこじらせても良いことなど一つもない。

 ましてや敵の真っ只中で会談に臨んでいるのだ。万が一があれば全滅の憂き目に遭うのは俺たちだ。

 指揮所くらいなら制圧して少佐たちを人質にも獲れるが……無粋な考えはやめておこう。

 俺は立ち上がって少佐たちを見た。


 「ロック少佐、アーレント中尉。あなた方の境遇はよく理解しました。必ず……とは約束できませんが、お互いにとって良い結果になるように努力します」


 そう言って俺はロック少佐に向かって手を差し出した。いわゆる握手だ。

 ロック少佐とアーレント中尉も立ち上がり、満足そうな表情で俺と握手を交わした。

 二人と握手を交わし終わると、全員が指揮所を出た。

 指揮所の外では、未だに米軍の指揮所警備隊とこっちの一個分隊が睨みあいを続けていたようだ。

 俺は、分隊長に声を掛けた。 


 「もういいぞ……引き上げだ」

 「はっ!……担え銃、中尉に続け」


 分隊長の号令が掛かり、全員が小銃を肩に担いだ。

 何はともあれ、米軍や独軍との接点が出来た。

 おまけに相手は協力体制の樹立を願っている。そしてそれは、我々としても考えない手では無いのだ。


 俺は、確かな手ごたえを感じて海岸へと歩き出した。

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