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会談-7

 「いったい、どこから!?」

 

 ロックが叫ぶと同時にその場にいた全員がゴルトの存在に気が付いた。

 この指揮所に入るには、目の前の入り口をくぐらなければいけない。おまけにそこには立哨がライフルを手に立っている。

 それを証明するかのようにロックたちの叫び声を聞いて、慌てた様子でライフルを構えながら立哨が指揮所内に飛び込んできた。


 ゴルトの背後にいた二人組も、ゴルトを護るようにライフルとの間に立ちふさがった。

 将校たちも腰の拳銃を引き抜こうとしたが、ロックがそれを制した。

 ロックは、あの時の会議こそ参加していなかったがゴルト本人が案内されるときに遠巻きに見ていて知っていたからだ。


 「全員、銃を仕舞え。立哨の二人も戻ってよし」


 そう言われて、立哨の二人はライフルを下げて指揮所の外へと出ていった。

 将校たちも落ち着いて拳銃を腰のホルスターへと仕舞いこんだ。

 そして、何もなかったかのようにゴルトが目の前に置いてあった椅子に座ると話し始めた。


 「単刀直入に話しましょう。東の海に見慣れぬ船団が現れました」

 「船団…?日本軍の事か!」

 「さぁ、分かりませんが…船は帆が無くとも進んでいて、甲板が平らな船では、小型の鳥人まで使いこなしているようです」

 「甲板が平ら…鳥人?」

 「おそらく空母でしょう。鳥人は艦載機かと…」

 

 ロック少佐が、ゴルトの言い回しに悩んでいるとアーレント中尉が助け舟を出した。

 そのままアーレント中尉がゴルトに問うた。


 「ご老人…ゴルト殿と申されたか」

 「いかにも…私に“殿”は不要です」

 「……ゴルトさん。船の旗は見られたか?」

 「確認しております。確か斯様な模様でしたな」


 そういってゴルトは背後に立っている一人か羊皮紙を受け取ると、見たという船の旗を描いた。


 「おおむね描けました。分かりますかな?人間貴族たちの紋章とは違うように見受けられましたが…」

 「えぇ、そうでしょう…。少佐、間違いありません…日本軍が来たようです」

 「断定はしていたが、やはりか…」


 ゴルトの描いた旗の模様は、太陽から光の筋が幾本も出ていた。

 そう、それは日本海軍の海軍旗を見たことに相違なかった。

 引き続きアーレントがゴルトに質問を投げかける。


 「ゴルトさん、これはあなたが直接確認されたのか?」

 「いえいえ、私のような老いぼれは城に引きこもっていましてな…配下の者たちが見たものを写したまでです」

 「そうですか…では、この船団の距離と数は分かられますか?」

 「はい…見たのが昨日ですので距離は縮まっていると思いますが、およそ一〇〇リーグほどで…数は……」

 「ちょっ…ちょっと待ってください。リーグ?聞いたことが無い単位だ…だれか分かるか?」


 ここでアーレントがゴルトの話を遮った。

 リーグとは、おそらくこの世界での長さの単位だろうが、アーレント自身が聞いたことない単位だったのである。

 周りにいたアメリカ軍の将校に振ってみると全員がニヤニヤしていた。

 不思議な表情をするアーレントにロックが今度はロックが助け舟を出した。

 

 「アーレント中尉、確かドイツはメートル法だったな?」

 「そうです……あ!ヤードですか!」

 「そうだ。確か一リーグは、三マイル…おおよそ五キロほどだ」

 「つまり船団は東に五〇〇キロほど離れていると」

 「おそらくな…今はまだ近づいているだろう…」

 「なるほど…ゴルトさん、話を遮って申し訳ない。続けてください」


 恥ずかしそうに謝るアーレントに穏やかな笑みを持って答えるゴルト。

 ゴルトは咳払いすると、話を続けた。


 「東に一〇〇リーグほど離れていた船団は、総数で三〇隻を超えておったとの話です」

 「三〇隻……くそ、艦種が分かればな…兵力が分かるんだが」

 「カンシュ?舳先の事ですかな?」

 「いやいや、船の種類の事です。我々の世界では目的別に船を作り分けていたのです」

 「なるほど…見たものの話では、鳥人を操っていた船は二隻、それとは別の巨大な船が一隻…そして小さくて速い船が四~五隻ほどおったそうです。あとは似たような形の船ばかりだったと…」

 「本当ですか!それはありがたい情報だ」

 「お役に立てたのなら良かった。……して、それは敵ですかな?」


 ゴルトがロックに対してズバリ聞いてくる。

 先ほどの穏やかな顔が一変して、眼光鋭い戦士のような表情でロックを見つめている。

 指揮所内の空気がピリッとした緊張感漂うものになり、対峙するロックも背中に冷や汗が流れ始めた。

 ゴルトは間違いなく誰もが分かるような殺気を漂わせていた。


 「(おさ)…皆が怯えております」

 「あぁ…失礼した。怖がらせる真似をしたつもりじゃ…」

 

 ゴルトの背後にいた護衛の一人が耳打ちすると、途端にさっきまでの穏やかな表情に戻るゴルト。

 指揮所内に漂っていた空気はたちまち消え去り、その場にいたロック含む将校すべてが胸をなでおろした。

 圧倒的までの力の差、誰もがそれを感じずにはいられなかった。

 震える唇を何とか根性でねじ伏せてロックは口を開いた。


 「ゴルトさん…その船団に乗っているものが敵か、はたまた味方かはこれから判断しなければなりません」

 「…」

 「元の世界で我々は…いえ私たちアメリカ軍は日本軍と戦争状態にありました。もし、あちらがこちらを攻撃するならば、私たちも自衛のために戦わざるを得ません…無論、そうならないように現在努力していますが…」

 「なるほど…よくわかりました」


 話を聞いて何かを察したのか、ゴルトは椅子から立ち上がると踵を返した。


 「皆様の幸運をお祈り申し上げます」


 ゴルトはそう言って、二人の護衛とともに光の中を消えていった。

 姿を消すという話を聞いていたが、実際に見てみると確かに幽霊のように消えるものだと何故かロックは納得していた。

 ゴルトが消えて、はじめのうちは静かだった指揮所も次第に騒がしくなった。


 「空母二隻…おまけに巨大な船。おそらく戦艦だろう…日本に戦艦がまだあったんだな」

 「それよりも、似たような形の船というのが分からん…」

 「多分、輸送船じゃないか?輸送船なんて似たり寄ったりの型をしているからな…」

 「えーっと…海軍が空母二隻に戦艦一隻、それに小型艦が五隻……大変だぞ!残りが輸送船なら二〇隻以上引き連れているぞ」

 「まさか全部に兵員を載せているとは思えないが…半分の一〇隻に一〇〇〇人ずつ乗せているとしても最低一万人の兵隊か…」


 先ほどの話を勘定して騒いでいるのは主にアメリカ軍の将校だった。

 ドイツ軍のアーレントは、黙って腕組みしたまま騒ぎを聞いていた。

 騒ぎはしばらく続いたが、ロックがその場を収めた。


 「諸君、騒いでいても埒が明かない…今はとりあえずモリンズ大佐やホルン少将からの命令を遵守しよう」

 「しかし…」

 「議論は無しだ。このまま警戒態勢を続ける……ただし、本隊に情報を連絡するように。いざとなったら本隊が来るはずだ」


 明らかに不満そうな表情をしている部下を制すると、ロックは指揮所を後にした。

 残った将校たちは、展開する部隊に情報を伝えに行く者、本隊に無線連絡する者に分かれた。

 ただ一人、アーレントだけはロックの後をついていった。

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