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吶喊した先-7

 三条少尉からの指示で、俺は兵を二人連れて敵兵のもとへと歩き出した。

 俺は、腰の拳銃嚢(ホルスター)から十四年式拳銃を取り出して敵兵に構えながら近づいていく。

 吉村と久石は、着剣した三八式小銃を腰だめで構えながら俺の両脇を固めてくれている。

 トーチカから出てきたのはオランダ兵五人で、全員が整列していたが両手を上げて降伏の意思を示している。


 「We are surrender.」(我々は降伏します)


 オランダ兵の目の前に着いたとき、将校と思わしき一人が俺に話しかけてきた。

 どうやってオランダ語を話そうか考えていたが、英語で話しかけてきたので俺も英語で返した。


 「I'm sergeant Sawamura of the Imperial Japanese Army.」(帝国陸軍の澤村曹長だ)

 「Lieutenant Thomas of the Royal Netherlands East Indies Army.We are surrender.」(蘭印軍のトーマス中尉。我々は降伏する)

 「Very well.I'm going to take you prisoners of war.I'm disarming, so remove the equipment.」(よろしい。貴官らを捕虜とする。今から武装解除するから、装備品を外せ)


 武装解除する旨を将校に話すと、その将校は部下に指示を出して身に着けていた装備品を地面に置かせると再び手を上げた。

 俺は構えていた十四年式拳銃を拳銃嚢にしまうと、ふぅと一息ついた。

 敵が武器を持っておらず、背嚢ぐらいしか身に着けていなかったのが幸いして直ぐに武装解除は終わった。


 「よし、武装解除終わり。吉田、捕虜を中隊本部まで連行しろ。今頃、さっき占拠した指揮所辺りにいるはずだ」

 「了解。吉田一等兵、捕虜を中隊本部まで連行します」

 「よし、行け」


 捕虜にした蘭印兵五人を一列縦隊に並ばせて、後ろから吉田が小銃を構えながら連行していく。

 それを見ながら、山中から貰った煙草に火をつけて一服しようとした時だった。

 さっき話したトーマス中尉が吉田に詰め寄って、オランダ語で何事か騒ぎ出したのだ。

 吉田が、小銃の銃床で殴りつけようとしたのを慌てて止めると、吉田は不機嫌そうだった。


 「曹長、どうして止めるんですか」

 「こいつは何か伝えたいらしい。あー、What's happen?」(どうした?)

 「The injured comrade is in bunker...」(怪我をした仲間が、まだ中にいる…)

 「Ok.I understood.山中!中を覗いてみろ。負傷兵がいるみたいだ」

 「了解……あーっ、二人倒れてます。酷いなこりゃ…」


 山中にトーチカをのぞかせてみると、どうやら本当に負傷兵がいるようだ。

 捕虜と吉田を待機させると、俺も中を覗いてみた。トーチカの銃眼の部分は擲弾の直撃を受けて、べトンが大きく抉れていた。

 そのべトンの破片と、機関銃の空薬莢が散らばる床に、仰向けの状態で二人の敵兵が倒れていた。


 一人は上衣がほとんど吹き飛んでいて、露わになった胸の大きな傷口からは、夥しい量の血で染め上げられていた。

 もう一人は、右腕の肘から先が無くなっていて、紐でズタズタになった傷口の上を縛ってあるが、血は流れ続けている。

 おそらくこの二人は機関銃の射手と助手だったのだろう。俺たちの銃撃に対して反撃しようとしたときに、擲弾が銃眼に向けて撃ち込まれたので、マトモに破片を喰らってしまったらしい。


 「どうだ?連れていけそうか?」

 「自分は衛生兵じゃないんで分かりませんよ。ただ、素人目に見てもお迎えが近いのは分かります」


 二人を見ながら、山中が俺にそう告げる。

 衛生兵か軍医を呼んでくるべきか、はたまた楽にしてやるべきか悩んでいると外から声が聞こえた。

 外を見ると、捕虜と吉田が再び押し問答を繰り広げていた。


 「Please!Help him.」(頼む!あいつらを助けてくれ)

 「だから俺には分からんと言ってるだろうが!下がれ!」

 「Please!Please!」(お願いだ!頼む!)

 「下がらんか、撃つぞ!曹長、曹長!」


 一人に対して、五人で詰め寄られたら悪くすると武器を奪われかねない。

 俺はトーチカの外に出て拳銃を引き抜くと、上空に向けて発砲した。

 突然の発砲に驚いたのか、捕虜は身をかがめた。そこを吉田が一番近くにいた捕虜を銃床で殴りつけ、小銃を構えた。


 俺は、捕虜の前に進み出ると一言だけ告げた。


 「He's gone.」


 俺は嘘を言うことにした。「彼らは死んだ」と、そう言ったのだ、

 これ以上、捕虜との押し問答していても埒が明かない。

 威嚇射撃と銃床で殴られたことで黙っていた捕虜たちだが、その事を信じたくないようで、俺を「嘘つき」だとか言ってきた。


 「You comrad is dead.」(君たちの仲間は死んだ)

 「No!You liar...He's alive!」(違う!嘘つきめ…あいつは生きてる!)

 「It's true.He's dead」(本当だ。彼らは死んだ)

 「No...Nooooo!」(嘘だぁぁぁ!)


 そう答えると、捕虜たちは崩れ落ちてわんわんと泣き出した。将校だけは、目を閉じて胸の前で十字を切っていた。

 やはり勝手知る仲間が死んだときの感情というのは、世界共通だということは分かった。

 「嘘も方便」とは言うが、今回はいい嘘であると思いたい。


 「吉田、山中と一緒に捕虜を連行しろ」

 「分かりました。曹長殿は?」

 「俺は…片を付けてくる。先に行け」

 「……了解」


 俺は、トーチカの中で負傷兵を看ていた山中を呼ぶと、吉田とともに捕虜を連行させた。

 そして俺は、一人でトーチカの中に戻った。


 改めて見てみると二人の敵兵は、既に虫の息だ。

 こちらの救護所に運んだところで長くは持たないだろう。敵が使える医薬品の余裕などありはしないだろう。

 俺は先程の威嚇射撃から抜きっ放しだった拳銃を構えた。


 右腕の先が無くなっている敵兵は、まだ付いている左腕を自分の前で振って抵抗しようとしている。

 しかし、気力だけで持っているのか、その動きは緩慢だった。

 俺は、その敵兵の心臓に狙いをつけて、拳銃の引き金を引いた。


 乾いた音がトーチカの中に響いた直後、持ち上げていた左腕がパサリと地面に落ちた。

 まだ微かに口元が動いていたので、再び引き金を引く。

 二発目も一発目とほぼ同じ場所に当たり、胸から血が溢れてくる。

 その敵兵の死亡を確認すると、もう一人を見た。


 胸の傷から出血していた敵兵は、微かに口を上下させて辛うじてといった様子で呼吸をしている。

 目も虚ろになっていて、俺が目の前にいるのに、どこを見ているのかわからないほどに視点が定まっていなった。


 「今、楽にしてやるぞ」


 俺は、なぜかその敵兵に声を掛けた。日本語など理解できない相手にだ。

 そして引き金を引いた。

 排莢された薬莢が、べトンの床に落ちて転がっていく。


 「……成仏しろよ」


 二人の敵兵の身の回りを簡単に整理すると、俺は拳銃を拳銃嚢に収めてトーチカを後にした。

またまた英語は翻訳サイトに活躍してもらいました。

間違ってたらすいません。

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