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世界大戦は何処にありや?異世界は知らんと欲す  作者: 富鹿屋
第一章 飛ばされた部隊
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飛ばされた部隊-13

 ドラゴンたちの体が白く輝き、光が収まるとそこには五人の男女が立っていた。

 目の前で起きた不可思議な現象に、全く理解が追い付かない。

 ドラゴンが人間に…?いや、そもそもあれは人間と呼んでいいモノ(・・)なのか?


 巨大なドラゴンから人間へと姿を変えた五人の男女は、モリンズたちのいる場所へ向かって歩き出した。

 先頭を歩く初老の男性は、執事が身に着けるような燕尾服に身を包んでいて、落ち着いた雰囲気だ。

 しかし、歩く動作や周辺への警戒を怠っていない様子からは、歴戦の軍人のような雰囲気も感じられた。


 それ以外の四人(男三、女一)は、全員が二〇代といった顔つきをしているが、やはり戦慣れしているといった感じだ。

 上下を黒いスーツで、ワイシャツやネクタイに至るまで黒一色で統一しているので異様な雰囲気だ。

 歩いてくる五人を眺めていると、サイラスが携帯無線機で話していた。


 「少し待ってください大尉…大佐、無線です」


 サイラスが話し終えた時に、携帯無線機をモリンズへ差し出してくる。

 受け取ろうとして、未だに発煙手榴弾を握り続けていたことに気が付いたモリンズは、安全ピンを嵌め戻すと携帯無線機を受け取った。


 『モリンズだ』

 『大佐、先任のメンビル大尉です。…攻撃は?』


 無線の相手は、モリンズの居る掩体壕とはちょうど反対側に位置する場所にいる中隊長からだった。

 敵が下りてきても攻撃の合図が無かったことを疑問に思っての連絡だった。

 モリンズは、向かってくる五人組に目を向けながら答えた。


 『待機せよ。状況に変化がある』

 『しかし、こちらに背を向けている今なら一気に片が尽きます…!』

 『待機だ!これは命令だ…ただし照準は外すな』

 『……了解』


 通信が終わり無線機をサイラスに投げ渡すと、すでに五人の男女が掩体壕の前まで来ていた。

 モリンズはサイラスを連れて掩体壕を出ると、五人に対峙した。

 一番前にいた初老の男性が、サイラスが肩にかけている携帯無線機を不思議そうに眺めている。


 近づいてくれたおかげで、五人の容姿がはっきりわかるようになった。

 先頭を歩いていた執事風の初老の男性は、鮮やかな銀髪でオールバックに纏めている。細面(ほそおもて)の穏和な顔からは優しさが滲み出ているようにも感じられるが、切れ長のグレーの瞳は警戒心を露わにしている。


 「※-◇♯+*@$?」


 執事風の男性が口を開いてモリンズたちに向かって話しかけるが、聞いたことがない言語なので意味が伝わらない。

 モリンズは困り果てて、ジェスチャーを交えながら分からないことを伝えた。

 すると、執事風の男性は少し困った顔をして両目を閉じて、顔を空に向けた。

 数秒後、目を開いてモリンズたちを見据えると再び口を開いた。


 「……これでよろしいかな?」


 今まで未知の言語で話していた男性から、急に英語が飛び出してきた。しかも片言の英語ではなく、流暢な英語で話しかけてきた。

 これにもモリンズは目を剥いて理解不能に陥ろうとしたが、お互いに意思疎通が出来るならば、それに越したことはない。

 モリンズは咳ばらいをすると話しかけた。


 「アメリカ合衆国陸軍大佐、アラスター・モリンズ。訳あって部隊を展開させている…」

 「アメリカ合衆国…?訳とは…あのワイヴァーンの事ですかな?」


 男性は、自己紹介することもなく上空に向けて指を向けた。そこには、ここにいる将兵が見間違えることのない敵がいた。

 数日前に激しい戦闘を繰り広げたドラゴン(男性はワイヴァーンと言っていた)が音もなく空中に制止していたのだ。

 驚いて声を上げて上空に注目を集めてしまう。周辺にいた兵たちは、慌てて銃を上に向けて構えた。


 しかし、前回と違ってこちらへ降りてくる気配が全くない。

 どういう事かと考えていると、再び男性が口を開いた。


 「先日の戦闘の事は、あのワイヴァーンから報告を受けました。あれは任務に従っただけなのです…」

 「任務?どういうことか教えていただきたい」

 「そのために我々がここへ来たのです。詳細をお話いたしますので、周辺に潜んでいる殺気だった兵たちに武器を下ろしてもらってもよろしいですかな?」


 男性は、襲ってきたドラゴンは任務に就いていたと言っていた。人間を襲うような命令でも受けていたのだろうか?

 そして話がしたいからとこちらの武装解除を求めてきた。


 「……本当にそちらに攻撃の意思がないと証明できますか?」

 「ハッハッハ…我々がその気になれば、この森全体を消滅させることなど造作もないこと。あなたが生きて私と話している時点で、その証明はなりましょう」


 とんでもない答えをサラリと返してくる男性に、なぜか冷や汗が止まらないモリンズ。

 人間の本能なのか、この男性が語っていることは真実なのだと、そう思わざるを得ない威圧感が感じられた。


 「分かりました…戦闘配置は解除しましょう」

 「大佐!」

 「サイラス伍長、黙ってろ…。指揮所に案内します」


 モリンズが無線で「戦闘配置解除」を伝えると状況を確認する声が聞こえたが、あとをサイラスに任せて指揮所へと向かった。

 向かったと言っても、前線から指揮所までは一〇〇メートルほどしか離れていない。

 モリンズを含めて六人全員が一言も発することなく、指揮所を設置した天幕まで歩いた。


 天幕に近づくと、サイラスから連絡を受けていたのか、警備の数が増えていた。

 二個分隊だった警備が、いつの間にか機関銃班や迫撃砲班まで配置についていて、一個小隊強になっている。

 

 天幕の入り口には衛兵すらいなかったが、今は着剣した小銃を担いでいる兵が二人いて、モリンズたちに向かって「(ささ)(つつ)」をしている。

 モリンズは面食らったが、すぐ後ろに交渉相手がいる以上、驚いたところを表情に出すわけにいかず無言で敬礼すると天幕の中に入った。


 天幕の中には、ホルン少将以下混成部隊の幕僚が数名座って待っていた。

 モリンズは連れてきた五人に座るよう勧めると、自分もホルンの横の空いている席に座った。その時ホルンが耳打ちしてきた。


 「大佐、周囲にいる部隊は見たかね?」

 「はい。あれは少将が?」

 「いざという時は、この天幕ごと吹き飛ばすように命令した…大佐も覚悟してくれ」

 「……分かりました。いざという事が無いように気を付けないと」


 会話を終えた二人は、五人を見据える。

 人間としての姿を見せているが、本当の姿はドラゴンだ。


 二人は気を引き締めなおすと、異世界人と初めての交渉を始めた。

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