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世界大戦は何処にありや?異世界は知らんと欲す  作者: 富鹿屋
第一章 飛ばされた部隊
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飛ばされた部隊-10

 米軍指揮官のモリンズ大佐、そしてドイツ軍指揮官のホルン少将が握手を交わしたことで、二つの部隊は混成部隊を結成することになった。

 両部隊の将校や下士官兵は、その決定に諸手を上げて喜んだ…というわけではなかった。


 この混成部隊結成の意味合いとしては、今のところ生き残るため仕方なくという面が強い。

 そんな状態で、いきなりすべての人員を混ぜ合わせて交流や部隊編成を行うと、混乱や諍いなどの間違いが起こる可能性が高い。


 その為、最初は両部隊の将校同士を引き合わせて交流を持たせることが決まった。

 そこから敵同士だったわだかまりを徐々に解していきながら、兵たちの交流から様子を見て部隊編成を行う手筈になった。

 そこでモリンズは、旗持ちとして一緒に来ていたサイラスに、自軍の将校を呼びに行かせようとしたとき、ドイツ軍指揮官のホルンから待ったがかかった。


 「ホルン少将…?どうしました?」

 「将校たちを引き合わせる前に、この二人の交流から始めませんか?」


 その言葉を疑問に思うモリンズだったが、すぐに理解して苦笑いを浮かべた。

 不敵な笑みを浮かべるホルンの傍らには、若年のドイツ兵が緊張した面持ちで白旗を持って立っていた。

 そのドイツ兵の様子から察するに、自分が連れてきていたサイラスと同じように無理やり引きずり出されてきたのだろう。


 「サイラス伍長、旗は下ろしていいぞ」

 「帰るまで掲げておかないと危険では?」

 「もう大丈夫だ…。その代わり向こうの若いドイツ兵と握手してこい」

 

 モリンズがニヤニヤとしながら発する言葉に、サイラスは思わず聞き直してしまった。


 「は?どういうことですか?最初は将校からじゃ…?」

 「伍長、命令だ」


 いかに突発的な命令と言われても、動かないわけにはいかないのが軍人の性分である。

 サイラスは、白旗を結び付けた小銃を地面に置くと、目前に居る若いドイツ兵に手を差し出した。

 ホルンの横にいた若いドイツ兵も、ホルンに促されて慌てて白旗を地面に置くと、サイラスと握手を交わした。


 「米陸軍伍長のサイラスだ。よろしく」

 「ドイツ国防軍国民擲弾兵師団のカント上等兵です。こちらこそ」


 二人の兵士が握手を交わすところをモリンズとホルンは満足気に見ていた。

 そして両部隊の将校たちが引き合わされることになり、交流が始まった。

 交流と言っても簡素な者であり、ただ立ち話をしたり意見交換を行う者も多かった。


 一部の将校たちは、警戒に当たる部隊の指揮に就いて離れていたが、順次交代して交流することになっていた。


 「これがタイガーの八八ミリ砲か…さっきは、こいつに助けられたな」

 「気にするなよ。そっちの射撃でドラゴンの気を引いてくれたから、こっちだって易々と攻撃出来たからな」

 「ありがとよ。これからは頼んだぞ」

 「ああ、デカブツの化け物相手なら任せとけ!」


 様々な雑談を交わしながら、先ほどの戦闘をお互いに褒めあう両部隊の将校たちが居た。

 ドイツ語と英語で言葉の壁が多少あったものの、互いの言語を話せる者が間に入って通訳することで、上手くコミュニケーションが取れているようだった。

 通訳が居ない場合でも、身振り手振りのジェスチャーを交えながら会話を試みる者たちが居て、穏やかな空気が流れだしていた。


 穏やかな空気が将校たちの間に流れる中、忙しく走り回っていたのは両軍の衛生兵や軍医たちだった。

 といっても、ドイツ軍の医薬品は欠乏しかけており、主に米軍の衛生兵が医療袋を持って走り回っていたのだが…。


 「おーい。こっちの米兵は脚を負傷しているぞ。包帯はどこだ?」

 「待っててくれ、確かジープに積んであったはずだ」

 「頼む、持ってきてくれ。よし、若いの少しばかりの辛抱だ。見た目ほど酷くないぞ。直ぐに俺が手当てしてやるからな」


 ドイツ軍の軍医が米兵を治療し、その為の器材を米軍の衛生兵が取りに走るといった光景が散見された。

 負傷者の中で一番度合いが酷かったのは、先の戦闘でドラゴンに吹き飛ばされた数名の米兵だったが、幸いにも後送が必要なほどの重傷者は発生しておらず、臨時に設置された野戦病院ですべて手当てが完了する見込みだった。


 衛生兵たちが互いの部隊を走り回っている間に、両軍将校たちの一通りの交流が終わりを告げた。

 特に目立った混乱が起きなかったことから、次に下士官兵らの交流をモリンズとホルンは始めさせた。

 

 最初は、両軍兵士たちは恐る恐るといった感じで相手に接していたが、先ほど同じ相手に戦った者同士、直ぐに打ち解けあうことが出来ているようだった。

 将校たちの交流と同様に、言葉が分かる者たちが間に入ることで上手くコミュニケーションを取っていた。

 煙草を分け合う兵士達や、互いの言葉が分かる者たち同士で話が進んでいるようだった。


 両軍将兵たちが交流に花を咲かせる間に、将校ら幹部たちは少し離れた森の中で現状と今後についての話し合いの場を設けることにした。

 話し合いと言っても、建物やテントは設置されていないので、立ち話に近い格好で会議を行うこととなった。

 会議の議長は、米軍指揮官のモリンズ大佐が務めることになった。


 「さて諸君。まずは現状について話し合おう。意見があるものは階級、部隊に関わらず誰でもいいから発言してくれ」

 「モリンズ大佐、差し当たって我々がいるこの周辺一帯の偵察が急務だと考えます」


 会議を始めた途端、間髪入れずに米軍歩兵部隊を指揮する少佐が口を開いた。

 更に少佐は続けた。


 「あの生物…ドラゴンとか言いましたか?あれと出会うまでは、我々はお互いに雪深いベルギーの森にいたはずです。それが今じゃ暖かい気候の全く見たことがない森の中にいる。まず、ここがどこなのか、どういった場所なのか早急に把握する必要があります」

 「少佐の言う通りかもしれんな…。ここは気候、植生、生物までもベルギーとは違うようだ」

 「それでは…」

 「安全が担保されるまでは戦闘状態で待機する…無論、陣地設営も行いつつだ。その間に周辺地域の偵察を行おう…少将殿、よろしいかな?」

 「ああ、私は構わない。どれだけの人数を出せばいい?」

 「こちらからは二個分隊、そちらからも二個分隊をお願いします…できれば正規兵のみで」

 「分かった。ギュンター少佐、すぐに部隊の準備を。人選は任せる」

 「了解(ヤボール)


 ギュンターと呼ばれた丸眼鏡で痩せ型の将校は、会議から退席すると小走りで部隊の居る場所へ向かった。

 そののちも会議は続いたが、結局のところ偵察の結果が分からないことには動きが取れないということだけがはっきりしただけだった。

 それから、両軍からそれぞれ二個分隊が偵察に出た後に、残りの人員で陣地設営に入った。


 広域偵察は三日掛けて行われることになった。

 数時間の偵察では、恐らく広大であろう森の全容を掴むには時間が足りないという判断からであった。

 近場の偵察は、数時間おきに各部隊交代で三人一組で行うことになった。


 そして残りが交代で休みながら昼夜問わず陣地構築に入ることになった。

 しかし陣地構築といっても偵察の結果が芳しくなかった場合は、すぐに場所を移動できるように簡易的な陣地とすることになった。

 そこで大規模に塹壕を掘るといったことはせず、せいぜい個人用から数人用の掩体を掘るぐらいにとどめた。


 攻撃正面は空がぽっかりと開いている広場に向けていたが、後方からの攻撃も視野に入れて陣地を設営した。

 歩兵たちは出来るだけ強固な陣地にしようと目論んでいた。ドラゴンの恐怖から抜け切れていないからである。

 森の木々は太すぎて、丸太として使うには適さなかったため土嚢を積んで替わりとした。


 偽装や陣地の補強に使える木々を探している中で、一人の米軍将校がある事に気が付いた。

 森に生えている木々は、自分たちがベルギーで足止めを喰らう原因となった進路上に倒れていた木だったのだ。

 今更気づいたところでどうということでもなかったが、この事実はモリンズら部隊幹部たちに知らされた。


 設置された幹部用のテントの中で将校の報告を聞いたモリンズら幹部一同だったが、あまり気にしていないようだった。

 今のところ生存することが目的だったので、それ以外の情報は後で精査することにして積み上げていたのだ。

 


 部隊は、偵察部隊の帰還と良い情報の二つを待ちながら陣地構築に明け暮れていたのであった。

第十話です。これにて連続更新を終わります。

次回の更新まで、しばらくお待ちください

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