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第077話 最善

 

 僕らは灯りを消して迷宮を大きく迂回して、山側に回りこんで移動した。

 そのまま入口を見下ろす形で確認する。


 黒装束を着ている見張りが二人。黒装束は遺跡で見たものと似ているように見えるが……暗くて判別がつかない。

 彼らも灯りを消している。最初から警戒して凝視しなければ、闇に紛れて見つけられなかっただろう。


 迷宮の中からは微かだが、悲鳴や呻めき声が聞こえる。


 間違いない、村人達か先行した冒険者はこの中に捕まっている。


 そしてコイツらは帝国の連中である可能性が高い。自動で防御魔法を張り続ける……あのギアを装備していると考えておこう。

 そうなるとカヨを助けた時のように、弓矢で遠くからという訳には行かない。


「カヨ、セイナ、ここは僕がやる。もし手間取った時、フォロー出来るように構えててくれ。叫ばれたりしたら一旦引く」


「……ジン、大丈夫なの?」


 僕の指示にカヨは不安を覚えているようだった。


「ああ、僕らは後ろを取ってる。不意を突けば僕一人で問題ない、じゃあ行ってくる」


 なるべく軽い口調で手を振ってゆっくりと静かに近づき……頭の中を切り替える。





 ……まず一人は殺す。

 尋問したいがに二人も要らない。

 もう一人も抵抗する素振りを見せたら、即座に殺す。

 コイツらの武器はギアの魔法だ。喉を潰しても一瞬攻撃魔法を発動してくる。

 だから躊躇なく首を落として、即死させる必要がある。


 情報は必要だが、敵の追加は必要ない。

 尋問できたとしても、嘘の情報で惑わされる可能性もある。

 僕らには情報の真偽を確かめる時間も、方法も無い。


 彼女らの手前、殺さない選択肢を出したけど、僕の中では『ほぼ殺す前提』の思考だった。


 あの日のように冷静に、冷酷に考えをまとめる。

 そして、あの時のように小声で魔法を唱えた。


「静寂の音を携え駆けろ。サイレントムーブ」


 僕が使える数少ない魔法の一つ、足音を消すだけのとても地味な魔法。

 だが不意打ちを行うなら、この上なく強力な魔法だ。


 2m程のガケから飛び降りながら、首切丸を抜いて背後から全体重をかけた袈裟斬りを入れる。


 ーーパリン、と乾いた音と共に帝国のギアが持つ防御魔法をぶち抜いた。

 僕の刀は深々と胴体の中程まで入る。肺も気道にも凶刃が及んでいると思う。

 口からガボガボと血の泡ぶくが溢れているのを横目に、刀を引き抜いてもう一人に迫る。


「ん? どうし……」


 相手が振り向くよりも早く、僕は敵の首元に切っ先を置いた。

 ここでもパリン、と防御魔法が砕ける音がした。

 回路が発動した首切丸の刀身は青く、切っ先には赤い結晶が伸びている。


「喋るな、ゆっくりと手を上げろ」


 顔まで黒い頭巾で覆っている男の表情は分からないが、見なくても簡単に想像できる。

 そして奇襲を受けた人間の反応は、どれも大体似たような感じだ。


「だ、だれだ……がぁ!?」


 彼は喋った。だから僕は刀を横に振った。

 柔らかな首筋に刃が入り、切っ先の赤い結晶が深々と重要な血管や神経、筋肉を切断していく。


 グリンと白目を向いて、血を吹き出しながら男は倒れた。



 二人とも即死だろう。僕は軽く血払いをして刀を鞘に納めて迷宮の入口を警戒する。

 悲鳴は聞こえるが、誰かが近づいてくる気配はない。ほかの敵にはバレずに殺す事ができたと思う。


 上を向いてカヨ達に合図を送り、見張りの死体を引きずって傍の草むらに隠した。


「ねえジン」


「ああごめん、近寄った時に気付かれてしまったよ。だから……」


「ウソ、あなた最初から殺すつもりで……」


 カヨは僕の行動を見抜いていた。

 でも、僕は首を横に振って否定する。


「行こう、見張りを殺した以上、騒ぎになるのは時間の問題だ」


 時間が無いのは事実だ。 問答をしている暇はない。

 泣きそうな表情のカヨから目を逸らし、僕は迷宮へ向かった。


「このバカ、帰ったらアンタもぶん殴るから……」


 そんな事をぼそりとカヨが呟いたと思う。






 ……………………






 タイタの迷宮の地図では長細い廊下が続くだけのハズだったが、手が加えられて左右に鉄格子付きの小部屋が出来ている。

 先日調査した遺跡とそっくりだった。


 声……悲鳴が聞こえるのは奥の方からだった。


 当たり前だが、ここには見張りが立っていない。

 常識的に考えて出入り口にいれば十分だからな。


 僕は足音を殺して、悲鳴が聞こえる部屋を格子越しに覗く。


 裸にされた男女数名が吊るし上げられ、陰惨な拷問を受けている。

 例の首枷が嵌められ、殆どの者がグッタリとしていた。


 その光景を見たカヨもセイナも顔が青い。

 僕らもしくじれば死ぬか、もしくはこの拷問を受ける側になる。


 拷問を行っている……恐らく帝国の人間は武器らしい物は持っていない。

 半裸なので厄介なギアも装着していないだろう。


 最悪、戦闘になったとしてもコイツはほぼ戦力外で、射殺すのも簡単だ。


 小声でカヨとセイナに話しかける。


「よく聞いてくれ、このまま奥に抜けて調査を優先する」


「彼らを……助けないの?」


「先に迷宮の中がどうなってるか知りたい。助けてる最中に別の連中に襲われたら、今度は僕らが捕まってしまう」


「……分かった。ジンに従う」


「私もそれが最善だと思います。だから後で必ず、助けましょう」


 そう、最善を尽くさないと僕らも同じ目に合う。

 コクリと頷き、悲鳴響き渡る廊下を後にした。





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