第000話 呪いがセット
旧プロローグの後半部分と同様の内容です。
あらすじの内容と同じなので、読み飛ばして第001話から読んでも大丈夫
フェイルはまさかの加護、”加護を増やせる加護”を快諾した。
つまり、これがあれば加護を増やし放題である。
「その代わり、ここを出る前にもう一個、別の加護を授ける。これが条件じゃ。 まあ増えた加護は相応に弱くなるがの」
「いやでも、コレはお得でしょ?」
「お得じゃよ」
カヨが口を挟んできた。
「ちょっと! 私もそっちの方がいいんだけど!」
フェイルはやれやれといった表情でカヨに言った。
「お前にはもう加護を授けておる。返品不可じゃ。安心せい、負けんくらい強力な加護じゃ」
「そう、ならいいけど……」
ふむ、魔法が強力だと言うなら、攻撃はあの短気なお姫様に任せよう。
二つ目は……防御的な……生き残る為の加護にするか。
「じゃあジイさん、まずは"加護を増やす加護"を」
「ええぞ、では二つ目の加護は? この娘と同じ様に魔法使いの加護にするか?」
「それは芸がないから……"危険を察知して生き残る"加護とかどうでしょう?」
「ほう、幼馴染に手を出せない、ヘタレなチキン野郎のお前にはピッタリじゃな」
一言多いフェイルの手が輝きだし、光の中から本が出てくる。
「お前のスキルブックには別世界で生き残る為の術や基礎知識が書いてあるぞ」
「う、なんか微妙だったかな……」
「安心せい。攻撃を避ける為の予知に加えて、身体能力も上がっておる。二つ目の加護じゃから若干弱いがの」
予知!? 何それ!かっこいい!
フェイルからスキルブックを受け取り、興味本位で中を見ようとした時、手が止まった。
「さぁて、ようやく加護を授かったようだねぇ」
不機嫌な女性がこちらに歩いてきた。
彼女が歩くたび、近づくたび、白かった部屋が段々と暗くなっていく。
「これはどっちも強力な加護だ……いいねぇ!いいよぉ!」
鼓動が早くなり足が竦む。得体のしれない恐怖というのか。先程見せたフェイルの冷たい表情同様の恐怖を感じる。
「あ~あ……そう言えば自己紹介がまだだったねぇ! 私は嫉妬の神リベという」
リベが僕のカヨの真横で止まり、不気味な笑みを浮かべる。今にも逃げ出したいが、足が動かなかった。いや、足だけじゃなく、体も動かない。
「世界と魂の均衡を保つ為、強力な神の加護にはそれ相応のリスクがある」
「リスク!? ちょっと待って、そんな話は聞いてないわよ!」
カヨがリベを睨み反論する。
「ハハハ! 聞かれてないからねぇ……言わないさぁ! でも安心しな、ちょっと呪われるだけだ」
リベと名乗る神はゆっくりとカヨに近づき、肩に手を置いて囁く。
「村雲カヨ、お前には【幸運がある度、不幸が訪れる呪い】を」
「どういう意味よ……!?」
「そのまんまの意味さ」
カヨは胸を押さえ、目を大きく開いて震えている。
次にリベは僕の肩にも手を置いた。
「栗栖ジン、お前にはそうだな……【お前を愛する者の人間性を狂わせる呪い】を」
その瞬間、体の奥底に何かが刻まれた。
言いようのない恐怖、嫌悪感、吐き気、悪寒・・・これが呪い?
「愛する者? 人間性?」
「フフフ、試してみればいいんじゃないのかい?」
意味が分からない、人間性を狂わす?どういう事だ? そもそも、試すってどうやって……
僕の驚きを余所に、リベは満面の笑みで話を続けた。
「あと、お前は加護を増やす度、呪いが増える」
「で、ですよねー」
「ククッ……その余裕がいつまで続くか本当に楽しみだよ」
リベが手を離すと、猛烈に感じていた不快感、違和感がフッと消えた。
僕とカヨは後出しの条件で、よく分からない呪いを受けてしまったようだ。
まだ実害は無いが、気分が良いものでは決してなかった。
整理が追いつかないまま、フェイルが貼り付けた笑顔で話を進めてくる。
「さて、お前らが封印する神は、神の塔と呼ばれる場所におる。そこを目指して旅をすれば良いじゃろう」
他人事のような口調でフェイルは目指す先を告げた。何処だよそこは。
カヨはフェイルを睨む、だが少し口元が緩んでいる。
コレは彼女が何かを狙っている時の、狩りをする時の表情だ。
「⋯⋯そもそも神様を封印なんて、どうやってやるのよ?」
「お前のスキルブックには最上位の古代魔法に神級封印魔法が書いてある。そいつを使えばイチコロじゃよ」
カヨはすかさず魔法の本、スキルブックを開いた。
「分かった。今すぐアンタに使うわ。ページどこ?」
「やれ! カヨ姫!」
彼女はコレを狙っていたようだ。流石だ。
「なぁ!? ちょ!やめろ!」
慌てるフェイルの隣で、不機嫌そうなリベがドン!と足をふみ鳴らした。
僕とカヨを中心に空間歪んでいき、段々と背景に青と緑色が混じっていった。
「お前達には期待してる。フフフ、良い旅を……」
…………
景色が変わり、僕とカヨは小高い丘の上に立っていた。
下には森が広がっている。そのはるか遠く、森を超えた先の場所に街が見える。
これは・・・別の世界に来たのだろうか……?
残念ながらカヨの封印魔法が炸裂する前に、別の世界に飛ばされてしまったようだ。
「なあ、カヨ」
「……何?」
「今度から神様と契約する前に、ちゃんと確認しようと思う」
「……そうね」
カヨはこっちを向いた。
それに気づいた僕も彼女を見る。
目があった。
整った顔立ちをした少女。
……その瞳は汚物を見るような、冷たい瞳をしていた。
「それより汚いから、鼻血拭いて」
「……はい」




