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双子の二人五脚

小説家の集いのキーワード小説、「双子」「洞窟」「犯す」をキーワードとしての短編小説を書かせていただきました。(そんなモン無い方が絶対もっと綺麗に書けた)


悩み悩む双子の姉妹のお話です。私らしからぬよくあるハッピーエンドのお話ですがどうか楽しんで読んでいただけると幸いです。

 夜、何時もなら星がきらめき、見渡すだけで心が安らぐはずのそんな夜は、雲に遮られ雨に邪魔され何も見えない。ただ暗いのみの空。


 私は今泣きながら雨の中を全力で走っている。逃げている、私自身の犯した罪から。


 逃げても意味は無い、いつかそこに戻らなければならない。けど逃げずにはいられない。


 私は、自分の心の弱さを憎んだ。そしてその心の弱さが私は罪を犯してしまったんだ。




 私には双子の妹がいる。


 小学五年生同士の私達は、何をするにも周りから比べ合わされていた。かけっこも勉強もテレビゲームも。何もかも。


 ほんの少し姉である私はその全てに負けるわけには行かなかった。だから妹に馬鹿にされたくない、その一心で全てのことを努力した。勝負事にされる全てを。


 妹は相手にならなかった。何をやっても私に勝てず泣いてばかり。私はその姿を見て少し安心する。


 私が姉だと、そう言えるから。


 でもそれは、今ではもう遠い昔の話だ。


 今日のような雨の日を境に、妹の様子が変わった。


 これまでまるで机に向かう事のなかった妹が、急に向かい始めて黙々と勉強を開始し始めたのだ。


 その勉強量は当時の私を遥かに上回っていた。


 そして遂に、私の姉という威厳が叩き潰されてしまう日が来た。


 始めて私は妹にテストの点数で負けたのだ。負けたと言っても95点と100点、5点しか変わらなかった。


 でもその5点はただの5点じゃない。いつも30ほどあった点差をひっくり返しての5点。価値が違う。


 その敗北が私を変えてしまった。姉の威厳を失くした私はそれ以降何をやっても妹に勝つことが出来なくなった。


 頑張ってるのに、勉強を休んだ日などない、スポーツだって書道だってピアノだって。毎日努力してる。


 でも私は勝てない。そして負けが続いた私に与える両親や周りの友達の声が罵倒にしか聞こえなくなってしまった。


 私をただ励ましているだけだと心では分かっているのに、私の弱い心がそれを認めない。


 励ましてくれる存在に私は冷たく当たりすぎ、遂には私の近くに人は居なくなってしまった。


 そして今日。私を心配してくれたのか、それともバカにしに来たのか。妹が私に久しぶりに話しかけてきた。



「……おねぇちゃん、あそぼ?」



 私はその一言を聞いた瞬間に全身の血が一気に燃え上がるような感覚を覚えた。バカにしに来たんだと確信した。


 怒りで我を忘れた私は力のままに、妹の頬を引っぱたいた。


 その衝撃で妹は倒れた。それでも私の怒りは収まらなかった。


 馬乗りになって、何度も何度も妹を引っぱたいた。


 その騒動を聞きつけてお母さんが私を止めるまで私は延々とはたき続けたらしい。


 我を取り戻した私は、今度はお母さんに引っぱたかれた。


「何をしてるのあなたは!?」


 そう言ってお母さんは妹のいる方に指を指した。


 そこにいた妹は既に泣いていた。ずっとずっと、泣いていた。


 私がひっぱたいている時から既に泣いていた。それすら気が付かないほどに……私は……妹を攻撃していた。


 そして、自分が怖くなった。


 どうしていいか分からなかった、なんて妹に謝っていいのか分からなかった。


 ただ、既に私は姉ではなく、ただの妹を怒りのままにはたき続けた屑だということだけは理解出来た。




 その理解を終えて、自分が嫌になった私は暗い中、寒い中。夜の雨に身を投げた。


 そして今に至る。


 走っている最中私はずっと自己嫌悪に浸っていた。


 ただ妹に勝つことでしか自分の存在意義を掴めなかった哀れな私。いざ勝つことが出来なくなったら妹に当たる無様な私。



「私は一体……どうすればいいの?」



 自ら一人になることを選び、逃げた私にその質問の答えを返してくれる存在は、もういない。


 汗か雨か涙か。もはやなんだか分からないもので肌を濡らし、私は失意のまま歩き続ける。





「そろそろ、寒くなってきた……」


 雨に体温を奪われ始めた。肌寒い、凍える。


 どこかで雨宿りがしたい。


 そう思ってずっと俯いていた顔を上げる。すると、目の前にトンネル、いや、洞窟があった。


 いかにも中にはお宝がありそうな雰囲気があった。


「取り敢えず、あそこで雨宿りしよう……」


 そこで暫く考えよう。どうやって謝るか考えよう……。


 洞窟に入って、私はようやく雨から逃れることが出来た。洞窟の中の温度は低いものの、雨に打たれるよりかは幾分かはましだった。


「……この洞窟、意外と長い?」


 元々暗いとは言っても、先が長く続いているように見えた。


「あれ?」


 その延々と続く暗闇に私はじっと目を凝らしてみた。ぼうっと淡く光る何かを見つけた。


「誰か……いる?」


 怖いとは思っても、そこまで恐怖は感じなかった。興味の方が強い。それとも私が私のことを怖く思いすぎてるのだろうか。


 とにかく、行ってみよう。もしかしたら誰か倒れてるかもしれない。


 疲れている足でゆっくりと歩く。向こうの明かりがあると言ってもこっちにある訳では無い。真っ暗闇を壁に手を当てながらゆっくりと進む。


 じわじわと光が強くなってきた。視界もほんの少しだけ良くなっている。


 その時だった。


「……誰かいるの?」


「ひっ!?」


 私以外の声がした。しかもやけに音源が近いように思えた。


 これは、私の目の前だ。


 明かりがいきなり強くなった。強すぎる光で私は目を細める。人がいる。目の前に人がいる。


「……あなたは」


 慣れてきた目を開き始める。そこには一人の驚いた顔をした女性がいた。


 高校生ぐらいのお姉さんだった。


「あっ……えっと……」


 なんて言おう、分からない。年上の女性と話したことなんて先生かお母さんぐらいだ。


「あなた、お名前……いや、いいわ。関係ないわね」


 安心して、とそのお姉さんは言った。びしょびしょになった頭を撫でてもらった。


 不思議と快かった。これが年上、姉の包容力なのだろうか。そう思うとまた自己嫌悪に陥る。あぁ嫌だ嫌だ。


「大丈夫? 顔色悪いけど」


 ……こんな近くに、私を心配してくれる人がいるなんて、いつぶりだろうか。


 私が勝手に手放して、私が勝手に欲しがって……最悪だ、クズだバカだ最低だ……!


「えっ!? な、なんで泣いて……!? お、落ち着いて落ち着いて! なんかあったの?」


「ご、ごめんな、さい。だいじょうぶ……です」


 どうやら私自身気づかないうちに泣いてしまったようだ。知らない人の前で……恥ずかしい。


 でも、その人の前で泣けるっていうのは安心している証拠だと思う。


 この人になら話せるかもしれない。私の溜め込んでいる悩みを。


 私が話したいだけかもしれないけれど、どうか聞いてくれるなら……。


「お姉さん」


「お、お姉さんか……まぁいっか。なーに?」


「私の悩み、聞いて欲しいの」








 私は話した。どうしてこの洞窟に来たのかその経緯をすべて。


 私の真に最低な行動も、全てさらけ出した。


 不思議だ、こんなことお母さんにもお父さんにも出来なかったのに。


 知らない人っていうだけでも違うのだろうか。


 私の話が終わるまで、そのお姉さんは真剣に話を聞いてくれた。とてもとても悲しそうな顔をして。


「……これで終わり、です。私はどうすれば……?」


 いいんでしょうか。そう聞く前に、私は気づいた。なぜお姉さんは……泣いてるの?


「お、お姉さん……?」


「あ、あ、ごめんね。ちょっとね……で、さっきの話だよね?」


 私の声で我を取り戻したのか、私から離れたお姉さんは私の話を聞いての感想を述べてくれた。


「あたしは……そうね、まず確かにはたくのはいけないことだとは思うわね。痛いのよねーあれ」


 確かに痛かった。お母さんからの一撃であんなに痛かったのに、私は力が劣ると言っても何度も何度も引っぱたいた。当然とても痛いはずだ。


「でもね、よく思い出してみて? あなたはどうして、妹より上の存在になりたかったの?」


「え、それは……ちょっと上の姉だから、です」


「うぅん。そうじゃないはず。頑張って思い出してみて、あなたがどうして『姉であり続けたかったのか』を」


 あねで、あり続けたかった理由……?


「私は……」


 遠い昔を思い出す。真っ暗な洞窟を歩くように、ゆっくりゆっくり、探りながら辿っていく。


 私は、褒められたかったんだ。出来る自分を褒めてもらいたかったんだ。


 それは誰に?


 それは、私を見てくれた全員に。


 本当に?


 いや、違う。それじゃあ姉であろうとしたことにはならない。


 じゃあつまり?


 そうか、つまり。私は。



「私は妹に認められたかったんだ。姉として、妹の模範になりたかったんだ」



 姉だから模範にならなきゃいけない、妹に私の姿を見せて真っ直ぐ育てていかなくてはいけない。


 それがいつの間にか、比べられることが増えていき、私は勝利という言葉を欲するようになってしまった。


 妹のために真っ直ぐの道を作るはずが、私自身が歪んでいたんだ。だから私は真っ直ぐ育った妹を真っ直ぐな思考で考えることが出来なかったんだ。


 妹が私より上の点数を取ったことは、何よりも喜ばしい事じゃないのか? 


 一体いつから、私は妹に怯えていたのだろう……。


 それを、それを私は……!


「……分かったよ、お姉さん。私が全部悪いんだ」


「うぅん、それは違うわ」


「え?」


 ここまで来て、私を否定してくれるのか。


 優しい笑みを浮かべたお姉さんは私の方に手を置いて諭すように語り始めた。


「……下の子っていうのはね、上を見て育つの。背中を見て育っていくのよ」


 この人も、兄弟がいるのだろうか。いやそうなのだろう、そうでなくてはここまで話すことは出来ないはず。


「だからもしあなたが真っ直ぐ育てたいって思って、その子が真っ直ぐに育ったなら、あなたは決して悪くない。むしろ素晴らしいと思うよ?」


「で、でも、でも! 私はその成長を認められなかった! 姉として喜ばしいことを、抜かれてしまう恐怖が上回っちゃった!」


「それは、あなたが姉であろうとしたから。でしょう? 攻撃はまずいけど、あなたがさっき言った妹の模範になりたいっていうのが本心なら、何も間違っちゃいないわよ?」


「それでも、それでも……私は……抜かれたくない! この気持ちはほんとなの!」


 意地汚い、本当に汚い心を持っている。


 私はもう救いようがないのかもしれない、ここまで優しくしてくれる人に、私はなんてことを言っているのだろう。


 自己嫌悪は止まらない……。


 そんなぐちゃぐちゃな私を見て、お姉さんはうーんと顎に指を当てて考える仕草をした。


「んー……その答えに沿ってるものかは分からないけど……」


 座っていたお姉さんが立ち上がって、腕を組みながら元気に言った。



「妹は、姉のダメなところを見て成長するの!」



「……はい?」


 いきなりそんな回答が出てきて、私は普通に言葉を失ってしまった。


「あなたは知らないと思うけど、妹ってほーんとずるいんだから! 姉のダメなところは捨てることが出来るし、姉のいいところは吸収できる! 簡単に言っちゃえば後出しジャンケンが出来るのよ!」


「は、はぁ……そうなんですか?」


 うんうん、とそのお姉さんは頷いた。


「だからね、あなたは失敗なんかしてない。自分の努力家なところを妹に見せることが出来たみたいだし、自分のダメなところなんて妹は気にしないわ」


「それは……そっちの妹の話であって……」


「どこも一緒! 長い話になっちゃったけどつまりあたしが言いたいのは……」


 お姉さんが指で私を小突く、ちょっとだけ痛かった。



「その妹も気にしないから、大丈夫!」



 一瞬、意味が分からなかった。なぜそう自信満々に言いきれる?


「な、なんで……?」


「お、おっと……深くは気にしないでね! それじゃあ、元気でたみたいだし、私はこれで失礼しまーす。じゃあね!」


「あっ……ありがとうございました!」


 手を振って、そのお姉さんは自分が来た反対の方向に去っていった。


 妹はずるい、か。私も昔の理想が戻ってきた。


 そうだよ、妹が私より頑張っただけじゃないか。


 だったら私は姉として、その二倍頑張っていけばいいだけじゃないか!


 簡単な話だ、なんでこんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。


 俯いて入った洞窟を今度は前を見て、堂々と抜ける。


 既に雨はやんでいた、雲も薄れて星が見える。


 私は走った、謝ろう。私の大切な大切な妹に。






 ×××






 あれから、とても長い月日がたった。


 今となっては私は高校生だ。だから妹もまた高校生。


 この年になっても私達はいつも比べられている、でももはやそれも余興のように感じることが出来る。精神が育ってきたのだろう。


 勝っては負けてを繰り返し、いいライバル関係を双子同士で築いている。


 私は姉として妹を超えさせないため。


 妹は私を超えるため。


 今日もまた戦いは続く。



 ある日、妹の帰りがやけに遅いということで、私は妹を探しに夜の雨の中傘を二つ持って妹を探しに行った。


 ぐるぐる駆け巡ってやっと見つけた妹は何故か様子がおかしかった。泣いているのだ。しかもよく分からんけど謝罪をされた。「追い詰めてごめんね」と。





 その顔を、私は思い出した。小学五年生の時、その顔を私は見た。暗い暗い洞窟の中で。





「ここに来るのも何年ぶりかなぁ」


 舞台は完璧。


 雨の夜を選択し、あの日の再現が出来るように待った。


 そして遂に舞台は整った。


「あの日も雨、あの日も雨……そして今日もまた、雨」


 私は小学生の時に一人で悲しく入り込んだ洞窟に再び足を踏み入れた。


 やはり暗い、あの日と全く変わらない。


 思い出すのはあの女性、今となってはお姉さんと呼んでいたことが恥ずかしい。


 昔のことを思い出しながら歩いているうちに、奥からすすり泣く声が聞こえてきた。


「……誰だ?」


 私はケータイのライトをつけて、そのすすり泣く声の聞こえる前方に向けて歩き出す。


 数歩歩いて、人が見えた。


「きゃあぁぁぁぁ!! おばけぇ!!」


「し、失礼な! 生きてるよ! ちゃんと! ……って、んん?」


 そこで驚いていたのは、見るも懐かしい姿の、私の小学校五年生の時の妹だった。


「い、いきてるよね?」


「あ、あぁ、生きてる生きてる」


 少し呆然としてしまったが、我を取り戻し、会話を始める。あぁそういえば、お前も昔家を飛び出したことがあったなぁ。理由は誰にも言わなかったから分からなかったけど。


「泣いてたみたいだけど、何かあったのか?」


「……ちょっと、家にいるのが辛くて」


「へぇ……私でよかったら力貸すけど?」


「……ほんとに?」


「あぁ、ほんとう!」


 実際聞いてみたい、彼女に何があったのかを。あの時の妹は何を思っていたのかを。



「あたし、おねぇちゃんがいるの」


 ふんふん。


「おねぇちゃんは凄いの、なんでも出来るの。なんでもあたしより出来て、かっこよくて……」


 マジか……よかった、ちゃんとそう思われてたんだ……。


「でも、あたしは何もおねぇちゃんより上手くできない、そんなあたしが嫌になって、家から飛び出してきたの」


「……そっかぁ」


 妹よ、お前も辛かったんだな。


 分かってやれなくて、本当にごめん、ごめんな。


「お姉さん……なんで、お姉さんが泣いてるの?」


 ……!? ほんとだ、あの人同じだ、自然と涙が零れてる。


「は、はは。気にしないでいいよ。そうだな……私はお姉さんだから妹である君の思いは100%までは分からない。でもね、一つだけはっきりと言えることがある」


「なに?」


「それはな……」


 小さい妹のおでこにデコピンを食らわす。あの日のお返しだ!


「ひゃっ!?」


「それは……妹が嫌いな姉はいないってことだよ」


「そ、そうなの?」


「そうさ、そしてその姉さんは君の超えるべき壁だ」


「壁?」


「壁は乗り越えたり壊すもの、これは私の妹からの受け売りなんだが、君たち妹は姉のいいところは盗んでダメなところは捨てることの出来るずるい奴らだ」


「ず、ずるくないもん!」


 ほっぺたを膨らませる、そう言えばこんなやつだったな。


「でも、それを最高に利用すればきっとお姉さんを追えるぞ?」


「おねぇちゃんと、一緒になれる?」


「なれる! 保証してやる!」


 ドン、と胸を叩いてみせる。なんてったって体験談だし!


「……うん! 分かった、あたし頑張るね!」


「その意気だ! あぁ、あとさ、その姉さん多分怒ると殴りかかっちゃう気がするんだよね……でも許してあげて! 照れ隠しだから!」


「? 分かった! じゃあねお姉さん!」


 そう言って、私の小さくて可愛い妹は暗闇の中を元気に走って消えていった。


 そうか、そうだったんだな。


 妹は本当に私と一緒に遊びたかっただけだったんだ。一緒に同じレベルで、戦いたかったんだな。


 今になってようやく君が分かった。ありがとう、妹よ。



 ……さて、小さな私。


 今からお前は苦しい思いをするだろう、辛い思いをするだろう。


 でもそれは通過点だ、妹を認めて自分を見つけるための、そして真っ直ぐ自分の道を引くために必要なイベントだ。


 だから、強く生きて、ここに来てくれ。


 そしたらきっと、あの時一番会いたがっていた妹に会える。


 そしてまた、強くなって妹を支えてやれ。


 それが姉の役目だぜ。


 過去の私へ、未来より。





 ×××




「おねーちゃん! どこ行ってたの!?」


 帰りが遅い私に、妹が傘を持って迎えに来てくれた。今見るこの妹がとても愛おしく感じる。


「妹よ! 大好きだー! ありがとー!!」


「は、はぁ!? 何言ってんのよこの馬鹿な姉は!? 抱きつくな! 恥ずかしい!」


 恥ずかしがる妹に引っぺがされる。でも今だからこそ、こう言えるんだ、ありがとうと。


「ん? 待ってこの場所って……まさか姉さん、あの洞窟に入ったの?」


「お前も思い出したみたいだな、そうだよ」


「や、やっぱりあれは姉さんだったのね! ちっちゃくて可愛かったわよ全く!」


「おいおいお前がそれを言うかマイリトルシスター! ほっぺぷくーとか萌えたぞ?」


 私の発言に妹は顔を真っ赤にして、小刻みに震え始めた、可愛いなぁ私の妹。


「わ、忘れろォ! それより小さな私にデコピンしやがって! 許さんっ!」


「お前だって私のこと小突いただろ!?」


「「ぐぬぬ……」」


 言い争い、今となっては日常となったこの日々もあの雨の日を乗り越えたから手に入れることのできたもの。


「こうなったら……!」


「決闘だな!」


 妹は私に傘一本を投げて渡してきた。安物のビニール傘だ、でもそれは向こうも同じ。


「どっちが先にその傘で頭に一撃入れられるかの勝負よ! 負けたらその場で即刻その傘をへし折りなさい姉さん! 姉という壁、ぶち壊してみせるわ!」


「上等! 小さい頃みたいにびしょびしょになって帰るんだな!」



 そもそも傘を武器にしている時点で、私達はあの日同様既にびしょびしょである。


 それでも、私は今がとても楽しい。


 ありがとう、今の妹よ。


 お前がいるから私はこんなに成長できた。


 そして、昔の妹。お前が後ろにいてくれたから、私は強くあろうといられた。


 過去のお前に支えられ、未来のお前に引っ張られ、今の私がここにいる。



 多分それは今傘を打ち合っている妹も同じ。



 私が支えて、私が引っ張っぱれたよ。



 私たちは双子だけど、その足跡は四人分。二人五脚で今の今まで生きてきた。これからもきっと私と妹は二人で一緒に競い合う。チームとして、自分が勝つために。


「私が勝つ!!」


「あたしが超える!!」



 そう、二人五脚は、終わらない───。

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