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オープンカー幽霊

作者: ガバディ

 あのー、私の友達にですね、仮にSさんとしましょうか、Sさんという方がいるんですけれども、その方が体験したことをお話しします。


 Sさんがですね、20代半ばのころ、仕事でためたお金でやっと、車を買ったんです。まあ、そんなに貯金があったわけじゃないですから、中古の軽自動車。バブルのころに売り出された車で、結構おしゃれな2シーターのオープンカーだったんです。買った当時でもう10何年か経っているような車だった。でもまあ、初めて買った車ですから、とてもうれしいわけだ。で、Sさんの仲のいい友達がいまして、その友達と「車買ったんだ」「ドライブにいこうよ」なんていう話になった。で、さてどこに行こうか、となったときに、二人の共通の趣味といいますか、二人ともオカルトが好きだったんだ。幽霊とか妖怪とか、まあ、UFOとか、そういったものに興味があった。「よし、じゃあ、心霊スポットにいこうじゃないか」ってんで、県内の心霊スポットめぐりをすることになった。季節は、そろそろ梅雨があけるかな、というような、初夏。心霊スポットだし、夏だし、オープンカーだし、ということで、夕方に出かけて夜のドライブをしようじゃないかってことになったんだ。


 当日、二人の家が離れてましたから、Sさんの最寄り駅で待ち合わせて、山の中にある、心霊スポットに向けて出発したんです。ちょっと蒸し暑いけど、まあ、オープンカーですから、屋根を開けて走ってた。走ってれば、風がなかなか気持ちいい。天気も良かった。

 えー、この二人なんですけど、二人ともオカルトは好きなんだけれども、Sさんのほうは幾分懐疑的、友達のほうはちょっと見える、感じるというような人だったんですね。で、今回、オープンカーで心霊スポットを訪ねるというのにあたって、二人にはちょっとした考えがあった。車に関係する怪談でよくある出来事ってのが、窓ガラスに手形がつく、屋根の上に何かが落ちてくる、後ろの席に幽霊が座る、とか、まあそういうのが多くありますね。ところが今回はオープンカーだ。屋根はないし、2シーターだから後ろの席もない。窓を開けて走ればフロントガラスだけになる。さあ、この小さくて狭い車、幽霊が出るとしてどう出るか?そういった、まあ、実験じゃないですけども、試してみようじゃないかってことになってたんだ。


 車はどんどん進んでいく。目的地の心霊スポットってのが、Sさんの家から2時間くらいの山の中に、ダムがあるんですけども、そこに、赤い橋が架かっている。車3台分くらいの幅の、そんなに大きくない橋。ただ、長さはそこそこある、細長い赤い橋が、ダム湖に架かってるんですね。その橋から湖面まで、かなりの高さがあって、そこから飛び降りる人がいると。で、夜、その橋を渡ると、橋の真ん中に出るっていうんだ。飛び降りて、亡くなった人でしょうかね、出るっていうんだ、幽霊が。インターネット時代ですから、ちょっと調べればそういう場所がすぐ出てくる。ただここは、地元でも有数のスポットだってんだ。あそこは本当にやばい、行くと必ず出る、なんていう場所だった。二人ともそれを承知で、ドライブに行ったわけだ。


 道中、「あそこになにかいる」「こっちに何か感じる」「なんだよ、よせやーい」なんて言いながら、さあいよいよ、車はダムに近づいた。近づくにつれ、なんだか霧が出始めた。小雨も降り出した。いくら小雨ったって、こっちはオープンカーだ、このままだと濡れちまうってんで、屋根を閉める。夜の、山の中の霧と雨ですから、視界は悪い。周りはライトに照らされて白ーくなってる。スピードだってそんなに出せませんし、場所柄、落石なんてのもある。どうしたって、赤い橋までゆっくり進むことになったんだ。


 さて、ゆっくりながらも赤い橋についた。時間はまあ、夜9時前ってところ。辺りは街灯があまりありませんから、ほとんど真っ暗。車のライトに照らされて、赤い橋が霧の中にぼうっと、浮かぶ。長い橋ですから、反対側まではっきり見えない。誰一人通らない。ここにいるのは二人だけという状況だ。自然、二人とも黙っちゃった。一呼吸二呼吸おいて、さあ、行くぞ、となった。霧の中、ゆっくりと赤い橋を渡っていく。そろそろ真ん中だ。出るか。そう思いながらも、進んでいく。真ん中を通り越す。どうだ。進んでいく。結局、橋の反対側まで、なにも出なかった。

 橋を渡り切って、そのままゆっくり進むSさん。なんだ、出なかったなー、やっぱり噂は噂で、幽霊なんていないんだなー、なんて思いながら走っていると

「うわあっ!」

助手席で友達が叫ぶんだ!

「なんだ!」

「今、サイドミラーに青い顔が映ってて、最初はカーナビの光に照らされた君の顔だと思ってたんだけど、その顔と目があって、消えた」ってんだ。

どうやら、幽霊は、運転席と助手席の間、20センチくらいの隙間に現れたらしいんだ。Sさんが運転している間、ずっとそこにいたんだ。


 「僕はそういうものを信じてるわけじゃないけど、その時はゾッとしたよ。一人で運転しているときも、ひょっとしたら気づかないだけで、幽霊は車に乗ってるのかもしれないね、そういうこともあるんだねーJちゃん」って彼、言ってましたよ。


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