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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第4章 散華 前編
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閑話(6)

69話目の後の話です。

 人気のない訓練場のフロアーを歩いている山南。

 彼の傍らに、尾形の姿がない。

 一人で歩いていたのだった。

 そして、とある訓練場に、無造作に入っていく。


 かつての同僚である、特殊組に所属している堤がいた。

 繊細な山南に対し、堤はいかつい顔をし、周りを黙らせるほどの、圧を持っていたのである。

 開口一番に、山南が感想を求めた。

「沖田は、どうだった?」

 沖田に、紹介したのは堤だった。


「どうも、こうもない。俺の顔を見たって、怯む態度もしないで、噂で聞く、愛嬌を振りまいていたぞ」

 ムスッとした顔を、堤が覗かせている。

 喋っているうちに、会った際の沖田を、思い出していたのだった。


 堤を見た多くの者が、顔を強張らせたり、怯んだりしていたのだ。

 堤を目にした沖田は、いつもの愛嬌を携え、たじろぐ堤に、ズバズバと話しかけてきたのである。さすがの堤も、自分のいかつさを利用し、沖田から情報を得ようとしたが、無駄に終わってしまった。

 どちらかと言えば、情報を提供してしまったのだった。

 忌々しげな顔で、堤が息を吐いた。


「そうか」

「何で、俺を使った」

 僅かに、山南の口元が、緩んでいる。

 深泉組にいる山南ではない。

 とても、リラックスしていた。


「芹沢隊長にも、愛嬌振りまいていたからな」

 苦虫を潰したような顔を、堤が滲ませていた。

 ふふふと、小さく笑っている。

 芹沢と一緒にするなと、ジト目で睨んでいる堤。

 いかつい顔を、それなりに気にしていたのだ。

 気にしているが、それを活かし、強かに相手から情報を取っていたのである。


「ところで、沖田の知り合いが、混じっていったのか?」

 真面目な顔つきに、瞬く間に変わった。

 とても、大事な部分だった。

 混じっているとしたら、沖田がその後、どう動くかと。

「……いた」

「そうか……」

 顔を曇らせ、黙り込む山南。


(いたか……。沖田のやつ、どうするつもりだ……)


「過去のものもみたいと言っていたから、見せた。結果は、同じだ」

 以前の半妖の死体のデータも、事前に用意していたのである。

 数年分のものを、沖田は確かめ、その中に、友達の半妖が混じっていたのだった。

 表情はそのままで、纏っている空気だけ、冷気にさせていた。


「……父親の関係で、地方を転々と移動していたようだ」

「だから、たくさんいるんだろうな」

「そうだろうな」

 いかつい顔に、何か気遣う双眸を滲ませている。

「……大丈夫か?」


 自分以上に、半妖を嫌っているのを、堤は把握していたからだ。

 だから、半妖と仲良くしている沖田とは、決して馬が合わないだろうと、かつての仲間を心配していたのである。


「……大丈夫だ」

「それなら、いいが」

「それより、念のため、張っていたんだろう? 結果は、どうなんだ?」

 半妖との付き合いがある沖田に、堤は自分の部下に沖田の動向を探らせていた。

 他の半妖と、接触する可能性もあるからだ。


 苦虫を潰したような顔を滲ませている。

「グレーだ。わからん。何度か巻かれた」

「そうか。やはり、そうなった」

 かつての仲間堤が、沖田の動向を探ることを理解し、後をつけられている沖田も、簡単に張らせないことも、何となくそうなるのではと巡らせていたのだった。


「難しいか、沖田は」

 逡巡している山南に、呆れ顔を覗かせていた。

「お前自身、沖田に巻かれたのだろう。なのに、俺の部下が、お前以上の働きが、できると思っているのか」

「油断するかと思ってな」

「しなかったよ。ただ、あれの交遊は、凄いな」

 顎に手を当て、感心してみせる。


 部下から、詳細な報告を受け、聞いた直後は、マジかと目を見張ってしまうほどだった。

 そのまま、部下から受けた報告を、山南にも伝えた。

 眉間にしわを寄せ、訝しげる山南。


「ああ。部屋に来るたびに、貰い物を携えている。癒着になるから、貰うなと言っているのに、毎度、貰ってくる。困ったものだ」

「……相変わらず、厳しいな」

 頭が固すぎる山南に、呆れていた。

「当たり前だろう」

「それぐらい、見逃してやれよ」

「ダメだ」


 真面目過ぎる山南の姿勢に、変わらないなと嘆息を漏らすのだ。

 不意に、堤が山南に視線を傾ける。


「それと、密かに、遺骨を渡してやったぞ」

「そうか」

 半妖の遺骨を持ち出すことは、禁じられていたのである。

 ある程度、保管してから、捨てられていった。

「迷惑かけたな」


 かつての仲間が、自分の時間を惜しんで、半妖の摘発又は、半妖を入れる手助けをしている者たちを、捕まえることに尽力していた。

 だから、余計な手間を取らせ、申し訳ない気持ちもあったのだ。


「いや。それぐらいは、平気だ」

「まったく、情報がないのか?」

 気遣う眼差しを注いでいる。

「面白いぐらいに、何もない」

「そうか」

「俺たちのマヌケさを、嘲り笑っているんだろうな」

 自嘲気味に、堤が笑っていた。


 このところ、特殊組は失態を繰り返していたのである。

 生きたままで、半妖を捕まえることができなかったのだ。

 上の者たちは、生きていても、死んでいても、構わないと言うスタンスだった。

 だが、中には違うと言う者たちがいた。

 それが、山南たちだった。

 そして、何度も上司に詰め寄った結果、山南は深泉組に配属されたのである。

 山南のかつての仲間たちが、密かに捜査していたのだ。


「堤……」

「どこの組織なんだ? ハンティングを始末しているやつらは」

「確かに、特殊組以上の情報網を、持っているようだな」

 悔し気に、拳を、ギュッと山南が握り締めている。


 半妖や、ハンティングしている者たちを追いつつ、それと同時に、ハンティングをする者を始末している者たちの行方も、追っていたのだった。

 だが、全然、何も掴めなかった。


「な、山南」

 促され、堤に顔を注ぐ。

「沖田のやつ、じっとしていると思うか?」

「……」


「単独で、動く可能性があると、思うか?」

「ないとは、言い切れない」

 目を細め、何を考えているのかわからない沖田の姿を、頭に掠めていた。

 憎らしいほどに、愛嬌を振りまいていたのだった。


「……泳がし、様子を見ようと思う」

「難しいぞ」

 険しい顔を、山南が窺わせている。

「だが、こんな状況だ。しないより、した方がいい」

「そうだな。だが、気をつけろ」


「わかっている。部下をつけさせてわかったことだが、いろんなところで、沖田のことを、探っている連中が多いな」

「そうだ。だから細心の注意を、払ってくれ」

「そうする」

 話したいことを話した二人。

 時間を変え、訓練場から出てきたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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