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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第4章 散華 前編
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第82話  密談と報告

 姉小路は、密かに別荘に訪れていた。

 離宮に籠もってしまった香茗に、出てきて貰うために、話し合う必要があると言うことを口実に、自分の屋敷から出てきたのである。


 別に、離宮に籠もってしまった香茗に、何とも思っていない。

 周りが、右往左往し、面白いと思うだけだ。

 忙しい様を見て、嘲り笑っていたのである。


 別荘には、姉小路が最近愛人にした女を住まわせていた。

 ここで働いている者は、極僅かだ。

 本宅の人間でも、この別荘の存在を知る者は三、四人しかいない。

 愛人は、同じ趣味を通し、知り合い、共に享楽していたのだった。


 苛立ちを隠さず、姉小路が目の前に仕える者を見下している。

「まだ、再開のメドが、立たないのか?」

「申し訳ありません」

 額から、汗が流れていた。

 執拗に、姉小路が迫っていたのだ。

 この場所を訪れたのも、問い質すためだった。

 連日、楽しみにしている趣味ができず、不平を募らせていった。


「いつになったら、できるのだ」

「……」

 姉小路の隣にいる女も、まだできないのかと不満げだ。


 最近、楽しみにしている趣味とは、半妖を獲物にし、ハンティングする狩りにハマっていたのである。裏で、半妖を都へ入れさせ、逃げ惑う半妖たちを、射撃したり、いたぶって、愉悦に浸っていたのだった。

 都には、半妖がいないことになっており、その半妖を、都に入れるのは、容易なことではない。

 いくつものところに、権力を使い、お金をバラ撒き、半妖を都へ入り込ませていた。

 この趣味に、莫大な金額を掛け、遊んでいたのだ。


 それが、このところ滞っており、姉小路の機嫌を損ねている原因だった。

 半妖を連れ込む者たちが、何者かによって、襲撃されていたのである。

 そのため、容易に獲物である半妖が、手に入り難くなっていた。


「いつだと、聞いている」

 乱暴に吐き捨て、睨みつけている姉小路。

 三条や岩倉の前では、決して見られない顔だ。

「かの者たちも、渋っておりまして……」

 何度も、流れる汗を拭いている。


 姉小路や、姉小路の愛人から、気圧され、汗が止まらない。

 仕えている者は、半妖を連れてくる者たちと、段取りをつけ、趣味が滞りなく進められるように、調整させる仕事を担っていたのである。

 この仕えている者に、すべての不平不満が、注ぎ込まれていたのだ。


「襲撃した者の、見当はついているのか?」

 胡乱げな眼差しを注いでいた。

 自分たちの趣味を、邪魔する者を排除しない限り、いつまで立っても、邪魔される恐れがあるからだ。

 調べさせているが、未だに邪魔する相手を、見つけることができない。

 その影すら、発見できずにいる。


 視線を彷徨わせ、さらに醜態を晒していた。

 以前から、邪魔する者がいて、どうにか見つけ出し、排除しようとしているが、未だに誰がしているのかも、わからぬ状況が続いていたのだった。


 次は、自分たちが襲われるかもしれないと抱きつつも、趣味のハンティングをやめることができなかったのだ。

 二人にとって、ハンティングは、何者にも変えられない快楽となっていた。


「マヌケ。いつまで、待たせるのだ」

「……申し訳ありません」

 か細い声しか、出てない。

「こちらか、徳川宗家か、それとも、勤皇一派の者か、どこにも属さぬ者か、それすら掴めぬとは……」

 嘆きしか、出てこない。

 そして、役立たずな者を、忌々しく半眼している。


 愛人が困ったような顔を覗かせ、不機嫌を前面に出している姉小路を窺っていた。

「旦那様。もっと、信頼の置ける者を使って、調べさせては、いかがですか? 私としては、早くハンティングがしたいので」

「私も、同じだ」

 逡巡していく姉小路。


 不意に、岩倉の顔を掠めていた。

 勤皇一派の者を、使う訳にはいかない。

 彼らかも、しれないからだ。


 勤皇一派の多くの者が、半妖のハンティングに、難色を示している者が多く、独自に調べている者さえいることを、把握していたからである。

 その者か、その者の手の者が、邪魔している可能性があった。


(あの毒婦と、接触して見るか。あの毒婦に、仕えている者たちは、優秀な者が多いからな。いずれ、こちら側に、誘おうと思っていたし……)


 口の端を上げている姉小路だった。

 その隣では、愛人の女が、不審な顔を覗かせていたのだ。

「旦那様?」

 愛人に促され、思考から舞い戻ってくる。

 そして、低姿勢でいる者に、視線を巡らした。


「今、わかっていることは、何だ?」

「とても、頭が切れる者かと。決して、自分の手口をわからなく、工作している可能性があるかと」

「同一人物と、見ているのだな」

「はい。最初は、複数いるのかと、思っていたのですが……」

 姉小路の機嫌を、落ち着きなく窺っている。

 そんな仕草を、姉小路が無視していた。


「一人でか……。まったく、見当もつかぬのか」

「残念ながら」

「腕が立つものだろう? そこからも、導くこともできぬのか?」

「……はい。候補が多過ぎて、絞り込むのが、厄介かと」

「……。徳川宗家の方は、どうだ?」


「あちらも、邪魔する者を、探し出しているようですが、こちらと大して変わらないかと」

「探索に、長けている者を、多く抱えているだろう?」

「それでも、見つけられないようです」

「随分と、厄介な者だな」

 話を耳にしているうちに、姉小路の顔が渋面していく。




 三条家の屋敷に、勤皇一派の西郷が、呼び出されていた。

 部屋に、二人しかいない。

 物憂げな三条を前にし、気遣うような眼差しを注いでいた。

 まだ、四十一にもかかわらず、十も歳を取ったような顔を、滲ませていたのである。

 西郷の耳にも、香茗が離宮に籠もり、誰も寄せ付けないと届いていたのだった。


 離宮に入れなくても、三条は連日、香茗がいる離宮に通っていた。

 怒りの矛先を、収めて貰おうとすれば、するほど、藪蛇な状況になっていることに、三条は気づいていない。


 そんな中、訪れたのは、定期的な報告を行うためだ。

 それと、三条の様子を窺うためである。


「……以上です」

 西郷の報告を聞いていても、心あらずといった表情を覗かせている。

 誰も、イライラしている三条に、近づく者がいない。

 三条に近ければ、近いほどだ。

 その中でも、訪れた西郷は、特殊とも言えた。

 周りに、当り散らす訳ではないが、苛立ちのオーラを、撒き散らしていたのだった。


「……大丈夫ですか? 三条様」

「……何のことだ」

 威厳を保ちつつ、銅像のような西郷を窺っていた。

 実直に、仕事をしている西郷のことを、気に入っている三条。

「……香茗様のことです」

 躊躇いながら、口にした。


「知っていたか」

「はい」

 やや顔を伏せている西郷だった。

「岩倉め……。あの女のせいで、香茗様が」

 苦々しい顔を、三条が滲ませていた。


 何も、言葉にできない西郷。

 詳細を、把握していたのである。

 発端は、香茗の元に、密かに岩倉が訪れていたことが、三条の耳に入り、それを咎めていた三条に、香茗が嫌気を刺し、離宮に籠もってしまったと言うことを。

 この状況を作り出したのは、三条とも言えた。

 だが、決して、そのことを口にしない。

 したところで、岩倉のせいだと言うのが、わかりきっていたからだ。


「ところで、どうやって、お知りになったのですか?」

「……姉小路だ」

 忌々しげに、吐き捨てた。


(また、余計なことを。姉小路様も言われたものだ)


 心の中で、嘆息を吐いた。

 岩倉のことを警戒するあまり、執拗に香茗に問い質している光景が、目に浮かんでいたのだった。

 西郷の中で、一番警戒しなければならない人物は、姉小路だ。

 何かと、不穏な空気を、撒き散らす傾向があるからである。

 それに加え、自分が持っているアンテナでも、姉小路は危険だと、警鐘を鳴らしていたのだった。


「姉小路と、言えば……」

 ふと、訝しげな表情を、三条が覗かせる。

「何でしょうか?」

「調べてほしい」

「姉小路様のことをですか?」

 逡巡しながら、目を細める三条。


「あれは、何か、よくないことをしている可能性がある」

「……」

 まっすぐに、目の前に立つ、険しい表情をしている西郷を捉えていた。

「できるか?」

「早急ですか?」

「ああ」

 どこか、思案げな顔を窺わせていた西郷に、気づかない。


(早々にか……。半妖を狩る者たちを、見つけたいが……)


 微かに、唇を噛み締める。

 半妖を狩る者たちのことを、密かに探し出していたのだ。

 ずっと、そうしたやからを捜していたのである。

 けれど、未だに見つけることができなかった。


 妖魔の血が混じっているとは言え、こんなことはしてはいけないと抱き、やめさせようとしていたのである。そして、それに自分たちの仲間も、加わっていることを、把握していたので、誰にも知られず、調査を行っていたのだった。

「……承知しました」


読んでいただき、ありがとうございます。

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